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キャッシュレスポイント還元が月末終了 ~ この今、実質増税で本当に良いのか

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
わずか数か月で一変するとは誰も予想できなかった(2020年2月1日・筆者撮影)

・ポイント還元制度の期限は6月30日まで

 2019年10月の消費税増税時に導入されたキャッシュレス決済のポイント還元制度の期限は6月30日だ。すでにネットや店頭には、「早めの買い物を」と勧める言葉が並んでいる。

・代わりに出てきたマイナポイント

 2020年9月1日からは、新たにマイナンバーカード保有者を対象にポイント還元を行うマイナポイントという制度が始まる。マイナンバーカードを取得し、数多くの業者から提供されているキャッシュレス決済サービスを選び、そこに2万円をチャージすれば、5千円が還元される制度だ。こちらの期限は、2021年3月31日までだ。

 そもそもこのマイナポイント、評判が芳しくない。普及が進まないマイナンバーカードを是が非で利用させたい政府が、5千円のおまけで普及促進を図ろうという制度だ。景気対策などを考慮したものではなかった。

 とにかくマイナンバーカードを持たせることが目的だから、マイナンバーカードを作らねばならないし、次にキャッシュレス決済サービスとマイナンバーを紐づけし、そして2万円のチャージで一回かぎり5千円がもらえるだけだ。

・消費喚起にはならない

 「ポイント還元は、個人商店などにとっては、良い宣伝になった。レジに目立つポスターを貼れば、2%還元されるのだと判りやすかったし、ペイペイなどを使えばさらに5%とか10%とか、あるいは自店の割引セールと組み合わせるなどして、買い物客にアピールしやすかった。しかし、マイナポイントでは、店頭で客にアピールできる点がない」と、関西地方の中小スーパー経営者は、そう話す。

 首都圏の飲食店経営者も、「だいたい景気が悪化していると言われていたのに、消費税の増税をやった。それで還元制度でなんとかやってきた。当初よりも、状況は悪くなっているのに、どうして延長しないのか。自分の周りの経営者たちでも、延長するものだと思っていたというのが多い。マイナポイントとどっちかでじゃなく、両方やるべきだ」と言う。

 関西経済連合会は5月8日に、政府・与党に対して、新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化している企業への追加支援を求める緊急要望を提出したが、その中でキャッシュレス決済のポイント還元制度の期限を延長するよう要求していた。関経連は、この要望書の中で、還元制度によって消費喚起だけではなく、現金に触れないことで感染リスクを減らす狙いもあると指摘している。

・還元額の実績は5か月で約2830億円

 2019年10月1日から2020年3月9日までの対象決済金額は約6.9兆円。還元額は5か月間で約2830億円だった。問題になっている「Go Toキャンペーン」事務委託費上限3000億円があれば、約半年の延長ができる金額だ。新型コロナウイルス感染拡大の大きな影響を受けている個人商店や個人事業主からすれば、実質上の増税を今、この時期に行うべきなのか、疑問を持つ人が多い。

 キャッシュレスポイント還元制度も、それに続くように企画されたマイナポイント還元制度も、新型コロナウイルス感染拡大以前に決められたものだ。今のこの状況で、キャッシュレスポイント還元制度の代わりにマイナポイント制度が始まるから、大丈夫だと言えるのだろうか。

 キャッシュレスポイント還元制度は、なによりも財布のひもをわずかだが開かせる効果はある。その場で、いくら戻ってくるから見ることができるし、店舗の割引制度やポイント制度などが利用できて、「少しだが安く買えた」という実感が客が得られやすい。

 しかし、マイナポイント還元制度は、上限2万円のチャージで5千円のポイントが還元されるだけ。それも一回だけだ。果たして、買い物客に買い物を勧めたり、飲食店に外食を勧める効果はどれほどだろうか。

・マイナポイントで登録できるキャッシュレス決済は一種類だけ

 大学生の男性は、「ネットとかでも還元制度が無くなるから、買い急ごうみたいなことが書かれてますよね。還元制度終了前のセールとかもやっているし、前倒しで買った方が得なのかなあとか思います」と言う。

 軽減税率に関しては、継続されるものの、キャッシュレスポイント還元制度の終了は、二度目の増税のような印象を与えてしまっている。

・消費も冷え込み、飲食店は危機的な状況

 総務省が6月5日発表した4月の家計調査によると2人以上世帯の消費支出は、7か月連続、実質で前年同月比11.1%減少。2001年以降、過去最大の減少率を記録している。同様に6月1日にデータ分析会社のナウキャストとクレジットカード大手のJCBが、クレジットカードの利用情報をもとに算出した、5月前半の消費動向を表す指数も、感染拡大前と比較して30%以上の落ち込みを示している。

 株式会社エビソルが6月2日に発表した全国の飲食店に対して行ったアンケート結果によれば、72.3%が感染拡大前に比べ「7割」以上の客足が戻らなければ黒字化が難しいと回答。さらに今後7割以上客足が戻ると考えている店もわずか11.1%という結果になっており、飲食店経営が依然として危機的な状況にあることが判る。

・マイナンバーカードの普及よりも、こうした企業、経営者、従業員を救済することの方が最重要課題

 緊急事態宣言の解除や休業要請の撤廃などで、経済活動が動き始めることは確かだが、ここまで落ち込んでいる状況で、活性化するための対策を打つのであれば理解できるが、効果がある制度を終了させてしまうというのは、得策とは思えない。

 使い道を明らかにしない10兆円の予備費があるのであれば、経済再興を旗印にキャッシュレスポイント還元制度の延長に資金を投ずるべきではないのか。多くの中小商店、飲食店が廃業や倒産、破産の危機に直面している。大手広告代理店への利益供与よりも、マイナンバーカードの普及よりも、こうした企業、経営者、従業員を救済することの方が最重要課題だ。関西経済連合会だけではなく、中小企業の諸団体も早急にキャッシュレスポイント還元制度の延長を政府・与党に求めていくことが必要だ。

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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