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会社を潰さないために、まだ打つ手はある ~ 拡充された中小企業支援制度を最大限に活用しよう

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
多くの中小企業が経営難に直面している。(画像・筆者撮影)

 コロナウィルスによる経済停滞によって、多くの企業が経営の困難に直面しています。すでに、影響を受けての企業倒産も起きており、全国の多くの経営者が、今回の危機を乗り切るために頭を痛めているでしょう。

 今回のコロナウィルスの世界的な拡がりによって、世界経済そのものが悪化するという見通しもありますが、一方であと1~3か月で終息するという見通しも出ています。中国政府は、今後、急速に経済活動を復旧させると言っています。そうなれば、日本も含むアジア経済も、復旧局面に向かうことになります。その時まで、倒産や廃業を避け、復旧の波に乗れるようにしておくことが、経営者に求められる責務です。

 まだ、諦めるのは早いのです。現在、政府や地方自治体などが中心になって、中小企業経営への支援策を拡充しているのです。急激でそして非常に厳しい状況の中で、いかにして生き残るか、経営者が動くか動かないかで大きく変わるのです。

 

・危ないと感じた段階で、金融機関などに相談

 全国の中小企業の景況は、すでに米中貿易摩擦問題や韓国との政治問題などが影響し、昨年後半から悪化しています。そこに、年明けから新型肺炎の問題が起こり、特に中国国内の混乱、次いで日本国内の混乱によって、あらゆる業種において、大きな影響が出ています。

 

 1月末から2月にかけての売上が急減少したということは、3月末の入金額が大幅に減少することを意味しています。つまり、3月末以降の支払いに支障をきたし、最悪の場合には資金ショートから倒産も考えられます。

 1月、2月の売上データはすでに出ているはずです。自社の資金繰りを見て、3月末に少しでも危険度がある場合には、その対策を立てなければなりません。「助けてくれと駆けこまれても、書類の作成や稟議など、どうしても時間がかかります。危ないと感じた段階で、金融機関などに相談し、すぐに準備を始めて欲しいのです」と中国地方の金融機関の担当者は言います。

 「晴れている時に傘を貸して、雨が降ると傘を取り上げる」と金融機関のことを揶揄する言葉があります。残念ながら、そうした批判される側面もありますが、現状から言うと、これ以上、特に地方の中小企業が倒産、廃業していくことは、金融機関にも好ましくないという認識は強くなっています。中小企業経営者や自営業者にとっては、まず相談する相手としては、一番身近なのは、取引金融機関の担当者でしょう。雨が降ってきてからではなく、「雨が降りそうだから傘を貸してくれ」と交渉するのも、経営者の大事な仕事です。

取引金融機関からの情報も見逃さないように(画像提供・有限会社 浅井製作所)
取引金融機関からの情報も見逃さないように(画像提供・有限会社 浅井製作所)

・「うちのようなところが相談しても」という思い込みを捨てよう

 仕事柄、様々な経営者の方や自営業者の方ともお話をしてきました。意外と多いのが、経営が危機に直面しているのに、「うちのようなところが相談にしても、金融機関や自治体は話を聞いてくれないだろう」という人です。

 その結果、本来ならば利用できる支援制度があるにも関わらず、利用せずに危機に瀕するという企業や自営業者の方が少なくありません。今回のコロナウィルスだけではなく、従来から中小企業や自営業者に対する支援制度は数多くあります。また、今回、急激な経済環境の悪化から、政府や地方自治体、政府系金融機関などが、緊急の支援制度を新設、拡充しています。

 中小企業支援制度というと、「中小企業でもそこそこの規模、製造業などが対象だろう」という発想をする方が多かったのではないでしょうか。小売、流通業、飲食業など、あるいは個人事業主では、こうした制度を利用できないと、はなから諦めて、調べもしなかったという人も多いのでしょう。実は、従前からも、そうではなかったのですが、特に今回のコロナウィルス対策においては、さらに広く業種や規模をカバーするように、制度が拡充されています。

 まず、勝手な思い込みで「うちのようなところが」という発想を止め、まずは相談をしに行ってみるという姿勢を持つべきです。

・「書類を書くのは苦手」などと手間を惜しまない

 「そんなことを言うが、相談しに行っても、必要な証明を出せとか、たくさんの書類を書けと言われて、面倒だ」と言う経営者にも多く会ってきました。しかし、本当にそんなことで良いのでしょうか。

 本来であれば低利もしくは無利子で借り入れできるにも関わらず、高い利率のフリーローン、あるいは「すぐに融資します」といった消費者金融から融資を受け、のちに返済に苦しむといった経営者も見てきました。

 自社が倒産するかどうかという瀬戸際に、「書類を読むのが面倒」、「証明書類を揃えるのが面倒」、「申請書類を書くのが面倒」という自分の面倒だと思う気持ちばかりを優先させているようでは、助け船に乗る資格もありません。

・様々な支援制度が次々と整備されている

 政府は、すでに中小企業向けの5千億円規模の緊急貸し付けと保証枠の拡大を行っているほか、従業員の解雇を防止するために雇用調整助成金の要件緩和などを行っています。また、各都道府県でも信用保証協会が「セーフティネット保証」制度を拡充し、多くの中小企業が融資を受けやすくしています。

 さらに、各都道府県でも資金繰りを支援する緊急対策が打ち出されており、例えば愛知県では「最近3か月間の月平均売上高が、前年同期の月平均売上高に比べて3%以上減少している中小企業者」に対して運転資金として最高8,000万円まで県内の金融機関を通じて低利融資する経済環境適応資金/サポート資金制度を2月14日に発表しました。さらに事態の深刻化から3月3日には追加支援として、総額2千80億円の補正予算を組み、県内の中小企業向けに緊急のつなぎ資金の融資、信用保証料を全額県が負担、さらに仮倒れ損失も県が補償する緊急の制度を創設すると発表しました。他の自治体でも同様の緊急対策がすでに発表されています。

 こうした支援制度は日々、拡充されており、「前に調べた時は、うちが利用できるようなのものは無かった」と思わず、情報を収集し、随時調べてみるべきです。こうした支援制度に関しては、中小企業基盤整備機構のホームページに「新型コロナウィルス関連情報」としてまとめられているので、こちらを見ると便利です。

雇用調整助成金は幅広い業種で利用できるようになった
雇用調整助成金は幅広い業種で利用できるようになった

・従業員を解雇せず、給与を支払いながら、捲土重来を

 「雇用調整助成金」という厚生労働省が行っている制度があります。今回、この制度をコロナウィルスによる影響を受けた多くの業種でも利用できるように特例措置が取られています。2月14日に引き続いて、2月28日にさらに拡充されています。

 この特例措置では、対象が「新型コロナウイルス感染症の影響を受け」、「最近1か月の販売量、売上高等の事業活動を示す指標(生産指標)が、前年同期に比べ10%以上減少」した観光関連産業や、部品の調達・供給等の停滞の影響を受ける製造業などと非常に幅広くなっています。

 この「雇用調整助成制度」では、中小企業が「休業を実施した場合の休業手当または教育訓練を実施した場合の賃金相当額の3分の2」を対象労働者1人あたり8,335円/日を上限にして国が補助するという制度です。従業員を解雇せず、給与を支払いながら、捲土重来を図るために重要な制度だと言えます。

 また、これとは別に3月2日には小学校などの休校によって、小学生の保護者が仕事を休んだ場合の賃金を補償する制度を発表しました。ただし、この制度は対象期間が2月27日~3月31日とされ、8330円/日を上限に従業員が賃金の全額を受け取れるよう企業に助成金を支給するというものです。

・とにかく相談を

 「衆知を集める」という言葉は、松下幸之助氏が重要だとしてきた言葉です。中小企業経営者、自営業者のみなさんにとって、今こそ重要なのが「衆知集める」ことでしょう。

 金融機関の担当者や専門相談員。

 市町村、都道府県の緊急相談窓口。

 さらには、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会、商工会議所、商工会連合会、中小企業団体中央会及びよろず支援拠点、並びに全国商店街振興組合連合会、中小企業基盤整備機構及び各地方経済産業局など多くに「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」が設けられています。

 先にもすでに書いたように、「この間、聞いた時には、うちは対象ではないと言われた」と諦めてしまっては、こうした拡充の恩恵を受けられないのです。「経営のことだから、経済産業省とか中小企業庁だけだろう」と思う人も多いですが、厚生労働省、国土交通省、農林水産省などの制度も利用できることも多いのです。

 こうした担当者、窓口に遠慮する必要もなく、「うちみたいなところは相手にしてもらえないだろう」と勝手に思い込まず、とにかく「衆知を集める」ために、とにかく相談に行くのが良いことでしょう。今回のコロナウィルスによる経済環境の悪化は、先行きの予測が付かず、また急激に悪化しています。経営者一人で悩んでいても、物事は前に進みません。今月末の大きな波を乗り切れるよう、今すぐ動いてみてはどうでしょう。

【注意】(文中の内容は、2020年3月2日現在のものです。最新の情報は下記に示した政府、省庁などのHPから随時ご確認ください。)

※愛知県の「つなぎ融資制度」に関しては、2020年3月3日に追記。

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☆参考資料・・・中小企業経営者・個人事業主の方が利用しやすいもので、公的機関が情報提供しているものを選びました。

※政府の中小企業・事業者向けの支援制度に関するパンフレットです。随時更新されています。 

経済産業省「事業者向け支援策パンフレット」(PDF)

※支援制度について網羅的に掲載されています。リンクが張られていますので、利用しすいです。 

⇒ 中小企業基盤整備機構「新型コロナウィルス関連情報」

※相談窓口は土日も開設されています。早めに出かけて相談しましょう。 

⇒ 新型コロナウイルスに関する経営相談窓口一覧(経済産業省)

※日本政策金融公庫は、個人企業や小規模事業者、中小企業、農林漁業者等の方などでも相談に乗ってくれる政府系金融機関です。少額の融資も行っています。 

⇒ 新型コロナウイルスに関する相談窓口(日本政策金融公庫)

※商工中金は、中小企業専門の金融機関です。「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」で休日も電話相談を行っています。

新型コロナウイルスへの対応について(商工中金)

※雇用調整助成金制度は、従業員の雇用を守り、事業の復旧に備える中小企業にとって重要な制度です

⇒ 問い合わせ先一覧(PDF形式・厚生労働省)

⇒ 新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置の対象事業主の範囲の拡大について(2月28日 厚生労働省)

※労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)について解説されてます。

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

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神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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