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病気じゃなくても病院へ?~素敵なカフェにレストランで楽しもう

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
総合病院、ホテル、スーパーなどが一体となった北大阪健康医療都市(健都)

・病院の変化

 「できれば病院には行きたくない」というのが多くの人の思いだろう。筆者も、数か月に一度は病院で検査を受けているが、毎回、多くの人で混雑する様子に驚かされる。自身の検診だけではなく、知人や親せきなどの病院見舞いなどで、総合病院を訪れると、以前の雰囲気と大きく変化してきていることに気づく。特にレストランやカフェ、ロビーなどは明るく、まるでホテルのような雰囲気のところすらある。

・スカイレストランのある阪大病院

 大阪大学吹田キャンパスにある阪大病院(大阪大学医学部附属病院)は、一日当り外来患者が約2,400人、入院患者が約900人、医師など教職員が約2,700人という巨大病院だ。外来患者の付き添いや、入院患者の見舞客、さらに出入り業者などを含めれば、一日当り1万人近い人が出入りする。

 病院の1階には、職員食堂、一般食堂が設置されているが、ちょっとしたホテルのレストランの雰囲気だ。さらに、サンドウィッチのサブウェイ、コーヒーのスターバックス、コンビニのファミリーマートがあり、それらからテイクアウトしたものをオープンテラスで多くの人が楽しんでいる。さらに、うどん店、うなぎ店、美容室、理容室、郵便局まであり、ちょっとした駅前のような雰囲気だ。

 さらに、14階には、万博記念公園や北摂の山々を一望できるスカイレストランがある。病院のエレベータで上がり、内装もシンプルだが、運営しているのは、大阪を代表するホテルの一つであるリーガロイヤルホテル。土日祝日は休みなものの、昼、夜の営業がなされており、病院に用事のない外来者にも人気だ。実は、大阪大学吹田キャンパス内には、もう一つリーガロイヤルホテルが運営するレストランミネルバがあり、こちらは少し豪華な造りだ。

阪大病院の一般食堂。ファミレス風の内装だ(画像・著者撮影)
阪大病院の一般食堂。ファミレス風の内装だ(画像・著者撮影)

・病院が核となる街づくり

 阪大病院から車で20分ほどの位置にあるJR岸辺駅。かつては、広大な敷地に貨物操車場や鉄道関連施設が拡がっていた。この駅前に計画されたのが、「北大阪健康医療都市(健都)」だ。

 2018年11月、大型複合ビル「ビエラ岸辺健都」が先行開業した。この複合ビルには、民間診療所や24時間対応の調剤薬局が入る健都クリニックモール、スーパーマーケット「フレンドマート」、セブン・イレブンなど約30店舗が入っている。さらに総客室数111室のホテル「カンデオホテルズ」も開業した。

 2018年12月には吹田市民病院が、次いで2019年7月には国立循環器病センターがオープンした。実は、この「北大阪健康医療都市(健都)」の核施設は、これら病院である。元操車場跡地に、これら二つの病院、医療関係の研究施設、大型マンション、商業施設などを組み合わせ、新しい街づくりが進んでいる。

 吹田市民病院の一日当りの外来患者数は、約1,000人。入院患者数は約380人。職員数は約500人。ここに付き添いや見舞客を加えるとやはり、4,000人近い人が訪問していることになる。また、JR岸辺駅周辺は、再開発整備が行われ、新たに千里ニュータウン方面への道路の開通もあり、バス路線も拡充されている。

 「ビエラ岸辺健都」に出店しているスーパーや飲食店などは、医療機関との連携によるメニュー作りや商品開発を行うなど、新しい試みを行っている。さらに、市民病院内の売店も関西を地盤とするスーパーが運営しており、各地の有名店の弁当などを並べるなどいわゆる「病院の売店」とは大きく違っている。循環器病センターの1階入り口部分も、何も知らなければホテルのエントランスホールのような造りで、広々としたカフェレストランが設置されている。

国立循環器病センター1階のカフェレストラン(画像・著者撮影)
国立循環器病センター1階のカフェレストラン(画像・著者撮影)

・総合病院が新しい可能性を秘めてきた

 日本の病院は、全体の約4割が赤字経営だ。特に公的医療機関では約7割が赤字であり、大きな問題になっている。地方自治体では、病院経営の見直しや運営の改善、さらには民間診療所との機能分化などが急務となっている。

 しかし、一方でこれらの効率的に運営し、経営改善を行うことと同時に、高い集客力をいかに生かすかという点も重要な視点となる。「人が集まる場所」を作り出していくことは、これからの街づくりに重要なポイントとなる。高度経済成長期には、役場も、図書館も、病院も町の中心部から郊外に移転させることが流行した。確かに人口が増加し、町の中心部は居住と商業という機能に集中させれば良かった時代だろう。しかし、急激な人口の減少が継続する現状では、こうした施設を今一度、町の中心部に取り戻すことも必要なのではないだろうか。レストランやカフェ、ショップなどの設置や、民間診療所や調剤薬局、スーパーなどとの併設は、わずかとは言え、利益確保の可能性を生み、経営改善にもつながっていく。

 今回の事例だけではなく、各地の病院に清潔でおしゃれなレストランやカフェ、ショップなどが増えている。そんな難しいことまで、考えなくとも、一度、新装された病院のレストランやカフェを訪ねて欲しい。なにか新しい可能性が育ち始めていることを感じるのではないだろうか。

二つの病院が駅から直結している。(画像・著者撮影)
二つの病院が駅から直結している。(画像・著者撮影)

参考

地方独立行政法人市立吹田市民病院 平成 31 年度年度計画 PDF

大阪大学医学部附属病院アニュアルレポート2018

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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