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2兆円超!越境EC市場をどう掴むかが中小企業の生き残りの道

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

・対中国、対アメリカだけで2兆円超

 経済産業省の資料(※1)によれば、2017年の日本から中国、アメリカへのECサイトを通じた輸出金額は、それぞれ約1兆3千億円、約7千億円で、合計では2兆円を超す。日本から海外への農林水産物・食品の輸出金額が約7千億円とされていることから見ても、非常に大きな市場になっていることが理解できるだろう。

 中国人観光客の「爆買い」行動は話題になったが、次第に落ち着きを見せつつある。その理由の一つは、中国国内で日本製品が購入しやすくなってきた点がある。しかし、一方で日本国内で買い物をした観光客が自国に戻ってからも、その商品を使い続けたいと、インターネット通販を使って、取り寄せる行動も大きな市場(越境EC市場)を形成しつつある。

・依然として大きな中国人観光客の買い物市場

 中国国内の景気の低迷などから落ち着きを見せつつあると言われる訪日中国人観光客だが、2018年には約838万人と国別では第一位、訪日外国人観光客の約3割を占めており、依然としてインバウンド市場において大きな割合を占めている。

 また、中国人観光客が注目されるのは、その消費金額で訪日外国人観光客全体の一人あたり平均約15万円を大きく上回り、22万円となっている。このため、人数では3割だが、買物代で見ると5割超を中国人観光客が占めていることになる。(※2)

・将来の顧客が目の前を歩いている

 

 バイドゥ株式会社が中国人2,000人を対象に行った「越境ECサイトの利用実態調査」によれば、中国人の越境ECでの購入は、日本商品が最多で、そのきっかけは海外旅行が最も多いという結果となった。(*3)

 越境ECサイトの利用は世帯年収が高いほど、金額、回数とも多いことが判った。そして、北京・天津および広東省の女性では6~7割が、旅行がきっかけで越境ECサイトを利用すると回答している。

 つまり、多くの中国人観光客のうち、富裕層、特に女性に関しては、日本への旅行中に購入した商品を帰国後も購入する傾向があるということになる。このことは、日本企業にとっては、「爆買い」などと言って、単なる観光客の一時的な買物だと見ていては大きなチャンスを逃すことを示唆している。つまり、多くの観光客は、「将来の顧客」になり得る可能性を秘めている。

・世界的に急成長している越境EC

  国際的な市場調査会社であるユーロモニターインターナショナルの調査によれば、2018年の世界のEコマース市場は1兆7,192億米ドル(約190兆円)で、越境ECは約1割の1,746億米ドル(約19兆円)となっている。越境ECサイトは、今後も急成長を遂げると考えられており、今後5年間で2倍以上になると予想している。(※4)

 こうした傾向は、日本国内にも影響しており、昨年あたりから中小企業の越境ECの支援や代行などのサービスを提供する企業が増加してきている。中には詐欺まがいの業者も混じるので、注意が必要だが、「中小企業にとっては、外国市場に販売すると言っても、なかなか輸出するには障壁が高かったが、国内から海外に販売ができるというのはチャンスが広がってきたと期待できる」(関西のある中小製造業経営者)と言った意見に代表されるように、縮小する国内市場に代わる市場として海外市場を考える経営者は多い。従来は海外での販路の確保など障壁が多かったが、今後、新たなルートが生まれると期待する声も大きい。

・タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムと市場は拡大する

 インバウンド市場は、東南アジア諸国の経済成長によって、中国以外の国々からの観光客に拡大しつつある。タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどでは、経済成長が進む中で、多くの観光客が日本を訪れ始めている。これらの国々からも、中国と同様、当初は低価格の団体旅行で訪れることが多かったが、次第に個人旅行に移行してきている。

 さらに、近年の傾向として訪日観光が2度目、3度目というリピーターが増加してきている。中国や台湾、あるいはアジア諸国で書店に行けば判るが、日本に関する様々な書籍、ガイドブックなどが現地の言葉に訳されて並んでいる。さらにインターネットで情報を収集して、訪日してくる。日本にとっては「お客様」が急増しているのだ。

・中小企業にとっては大きなチャンス

 次第にその品目も広がりつつある。今後、団塊の世代の後期高齢者化に伴う国内観光客市場の縮小は避けられない。また、人口減少による国内市場の縮小の影響も急速に表面化しつつある。

 こうした中で観光客として訪日した外国人に滞在中に様々な商品を体験してもらい、帰国後も継続して顧客として購入してもらえるようにすることは、今後の中小企業経営にとって重要な戦略の一つとなる。現在は、化粧品などが中心となっている越境ECだが、世界的な傾向を見ると、今後、様々な製品、業態に拡大することが予想される。周辺国の経済が成長し、富裕層が増加することによって、日本の中小企業が得意とする少量多品種で顧客の個別のニーズに対応する高価格商品にもチャンスが廻ってくるだろう。

 もちろん、いくら国際宅配便サービスが充実してきているとはいえ、それぞれの国の輸入規制など中小企業にとっては扱いが難しい点も多く、専門の越境ECサービス会社の利用なども必要で、経費の面なども考慮せねばならない。もちろん、「越境ECビジネスで一攫千金」のように安易な参入を勧め、高額の手数料を要求する悪質業者も出てきているので、利用の際には充分な検討が必要だ。

・薔薇の花は摘めるうちに摘め

 「薔薇の花は摘めるうちに摘め」という言葉がある。中国や東南アジア諸国からの観光客が順調に増加しているうちに、日本製品の顧客となるような手法を採る必要がある。

 各企業や自治体でも、それぞれの国の言語を使ってのSNSなどへの情報発信を行うべきだ。インスタグラムやウエィボーなどのマイクロブログでは、画像が中心で文章そのものが短くて済むため、自動翻訳ソフトなどを利用することも考えるべきだ。また、海外に提供する映画やテレビドラマなども景色や風景を写し込んで観光客誘致を行うということだけではなく、積極的に日本製品の使用や商品名を写し込むなどの戦略に取り組むべき時期に来ている。

 

 今の努力が5年後、10年後の輸出市場を形成していくのだという認識を企業経営者も行政関係者も持ちつつ、行動する時期だ。

※1  経済産業省「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」(2018年4月25日)

※2  国土交通省観光庁「訪日外国人消費動向調査・2018年全国調査結果(速報)」(2019年1月16日)

※3  バイドゥ株式会社 「中国国内における越境ECサイトの利用実態に関する調査結果」( 2019年1月29日)

※4  英調査会社 ユーロモニターインターナショナル 「世界の小売市場」(2019年1月23日)

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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