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ギフトショーは中小製造業者のアイデアの宝庫~東京インターナショナル・ギフト・ショー2019より

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
東京インターナショナル・ギフト・ショー(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 東京インターナショナル・ギフト・ショー春2019 第5回LIFE×DESIGNが、2019年2月12日から15日の4日間、東京ビッグサイトで開催されている。出展者数は4,000社、4日間での来場者数は40万人と言われる大きな展示会だ。

・業種、業界を超えた出展企業と出展品

 ここ10年ほど、中小製造業の経営者と話を聞くと、このギフト・ショーへの関心が高まっていることに気づく。ギフト・ショーというと、なにか贈答品の展示会のようなイメージを持つ人もいるだろうが、実際に訪れてみると、出展されている品目の多様性に驚かされる。

 中小製造業の経営者にとって、ギフト・ショーがアイデアの宝庫だと言われることが多い。「中小製造業者の多くは、自社製品を持たない。しかし、経営者としては脱下請けをしたいという気持ちがある。」と関東のある経営者は話す。「製造業者というのは、こういうのが作れないかと言われれば、作る自信はあるのだが、自らで何かを作るというアイデアが無い。そういう点では、このギフト・ショーは、自社の持っている技術が意外な部分で役立つという気づきがある」とも言う。

・目立つ中小企業の出展

 今回のギフト・ショーには、来年の東京オリンピック・パラリンピックを契機とした販路拡大を目指す中小企業が数多く出展している。公益財団法人東京都中小企業振興公社は、特別展示パビリオン「東京ビジネスフロンティア」を設置し、中小企業20社が出展している。また、台東区、足立区、荒川区、墨田区、葛飾区が連携してものづくり産業の活性化を行うTASKプロジェクトは、中小企業が新たに開発した製品・試作品に対する「TASKものづくり大賞」の第13回入賞製品15点の展示を行っている。そのほかにも、中小企業庁による「中小企業総合展inギフト/ショー」や、全国商工会連合会、各地の自治体や商工会議所などもそれぞれの中小企業の出展を行っている。

TASKプロジェクトの展示(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影
TASKプロジェクトの展示(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影

・キーワードは、、、、

 出展者は、大手文具メーカーなど大手企業から、地方の中小食品メーカーまで、その品目や規模も様々である。展示会場を廻ると、それぞれの出展に共通しているキーワードは、「デザイン性」、「小ロット」、「メイド・イン・ジャパン」、「自然」そして「IoT」だ。出展品を見ても、品質や価格に大きな差異を見いだすことは難しくなっている。中小企業が、新規分野に進出するためには、これらのキーワードは取り組まなくてはいけないものばかりである。

 地方の中小企業が販路を拡大するためには、ITの活用やWEBマーケティング、ネット通版などが不可欠であるが、少人数でなおかつ販売量も少ない中で自社ですべてを取り組むには課題が多すぎる。そこに商機を見いだして、中小企業向けのサービス販売を行う企業も数多く出展していたのも、近年の特徴だろう。

中小企業総合展の出展ブース(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影
中小企業総合展の出展ブース(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影

・同じようなものがあふれていることも実感

 筆者も、地方の中小事業者から独自製品の販売の希望を聞かされることが多い。そうした希望を持っている場合、やはりこうした展示会に足を運び、ライバルたちがどういった商品開発やデザイン、手法を採っているか研究することが大切だろう。独自性があるもの、洗練されたデザインなどを求めるが、結果として類似するものになりがちなことも、多くの出展品を見て回ると感じることだ。「北欧調のデザインが良いとなると、どこでもかしこでも北欧調のデザインでパッケージを作り始める。和物というと、これまた同じようなデザインがあふれてしまう。そういう危険性を実感するためにも、こうした展示会を見るのは意味のあることではないだろうか」とあるデザイン会社の経営者は話す。

 出展者である経営者の一人は「会場を見て回ると、同じようなデザイン、同じような商品があふれていて、人間が考えることは同じようなものだなあと、さらに悩みが深くなった。しかし、いい刺激になった」と笑う。別のやはり出展者である経営者は、「自社製品を作ってみると、販路開拓に営業、在庫管理など今までやってことがないことが多く、なかなか一筋縄にはいかないと実感した。自社も、相当の覚悟と努力が必要だと改めて肝に銘じた」と話す。

地方の産品のPRブースも(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影
地方の産品のPRブースも(画像の一部を修正してあります。)画像:筆者撮影

・既存分野にとらわれずに

 金属加工業やプラスチック成形業など、従来であれば自動車産業や電気電子産業などの下請け企業であった企業が、その加工技術を売り込むことで、新たな商品開発に結びついている事例も出てきている。展示会に出展するのはもちろん、視察に行くのも、時間や交通費などの工面が大変なことも判るが、従来の自社の産業分野の展示会や交流会だけでは、新たなアイデアや企画は生まれにくい。そういう点では、ギフト・ショーは悩んでいる経営者の頭に刺激を与えるという意味で重要だろう。

 残念ながら、地方自治体や商工団体の助成による出展者のブースの中には、従来の産直市と同様の単なる名産品の販売宣伝でしかないものや、パンフレットを並べているだけで活気のないものの見受けられた。地方自治体や商工団体は、税金からの助成で実施する以上、本気で新規市場開拓目指す事業者を選択すべきであろうし、該当者が見当たらない場合は出展を見合わすぐらいの決断も必要だろう。

 いずれにしても、業種、業界を超えた出展者の集まるギフト・ショーは、独自商品の開発や、自社技術や製品の新たな販路を考えるには、良いチャンスとなるのではないか。3月には、初の京都でのギフト・ショーの開催が計画されているそうだ。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を前に、日本のデザインなどが注目されている中での京都での開催は、非常に興味深いものになりそうだ。

 

 

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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