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育休、産休を採る者をいつまで叩くのか - 年50万人減少社会を目前に

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
(写真:アフロ)

 国会議員の子育てや育児休暇取得、さらには妊娠にまで、激しい批判が寄せられている。

 

 それぞれに、様々な考え方があり、「私には考えられない」とか、「そんなことが許されるなんて」と言った気持ちを持つ人がいるのも理解できないでもない。「国会議員だから」と言う人もいるだろう。しかし、私たちが置かれている状況は、そうした個人的な感情を飛び越した段階に入っているのではないだろうか。

・地方では高齢者が減少する

 「これから高齢者が減少します」と言うと、怪訝な顔をする人が多い。「高齢化が進み、高齢者が増加する」というのが常識ではないかと、言いたいのだろう。

 

 高齢者が今後、増加するのは首都圏など大都市圏である。「今まで」高齢者が増加してきた地方部では、今後、急激に高齢者が減少する。当たり前の話である。

 

 40年近く前から、地方は高齢化や過疎化が進んできた。高齢者の寿命は永遠ではない。先に高齢化した地方部では、高齢者が亡くなっていく。もちろん、後に控える世代が多ければ、高齢者は増加するが、地方部の場合、現在の70歳代、80歳代の下の世代からは、大幅に人口が少ない。

 

 高齢者の減少は、そのまま人口減少に直結する。高齢者が減少するからといって、高齢化率が止まり、若い人が増えるわけではない。むしろ、今まで年金で地域の経済活動を支えてきてくれた高齢者が減少することで、地方の経済は一層縮小する。いわゆる年金経済の終焉だ。

・大都市圏では高齢者が急増する

 おかしなことに、未だに政治家の一部は「首都圏に沢山いる若い世代を地方に誘導することで活性化を」と主張する。本当にそんなに単純なことなのか。 

 

 現実には、首都圏など大都市圏の高齢者の増加は、これから本格化する。高度経済成長期に、地方部から多くの若者が職を求めて、大都市圏に流入した。その人たちが大都市圏で居住し、働き、日本経済を支えてきた。この人たちは、高齢化したからといって40年も50年も暮らした大都市圏から、生まれ故郷の戻るということはしない。そのまま、長年、住み慣れた大都市圏で高齢化するのである。

 

 急増する高齢者を支えるためには、生産年齢人口の若い世代が必要なことは、判り切ったことだ。大都市圏の自治体がそれを簡単に手放そうとは考えない。むしろ、若い世代の移住、定住を計ることこそが重要な課題になってくる。地方だろうが、大都市圏だろうが、若い世代を確保することは至上命題になっているのだ。

 

・人口減少はすでに始まっている

 「人口減少、人口減少とうるさい。本当にそうなるかどうか判らないじゃないか。」と言う人も、まだ多い。残念ながら、人口減少はすでに始まっている。過去5年間での人口減少は、約95万人である。ほぼ和歌山県一県分の人口がいなくなった。

 

 「どうなるか判らない」というのは、楽観的だと言わざるを得ない。2016年一年間の出生数は100万人を割り込んで976,979人。前年と比較しても約3万人減だ。死亡者数は1,307,765人と初めて130万人を上回った。差し引き、昨年一年間で約30万人も減少したのである。

 約30万人といえば、那覇市、四日市市、所沢市クラスの市の人口に当たる。それほどの人口が昨年一年間で減少したと言えば、その深刻さが理解できるだろう。

 

・2020年問題

 

 2020年問題と言うのは、東京オリンピックのことでも、豊洲市場の問題でもない。それは関係なく、起こるであろう問題である。

 

 2020年頃には、団塊の世代が後期高齢者となり、死亡数も急増すると予想される。死亡者数は年間約150万人。一方、新規出生者数は、楽観的に見たとしても約100万人だ。つまり、年に約50万人ずつ減少する。地方の県が毎年一県ずつ消失していくのと同じ規模だ。市場も経済も、縮小する。

 

 こうした影響は、東京都にも及ぶ。2020年以降は東京都の人口も減少に転ずると予想されている。首都圏から「余っている」若い人たちを地方に回す余裕は無くなっていく。

 

・成功体験は役に立たない

 

 これほどの急激な人口減少と高齢化は、実は世界中、戦争や疫病の流行などを除けば、どこを探しても記録にもない。誰も経験のしたことのない状況に急速に向かいつつある。このことが、依然として頭ではわかっているものの、行動に示せていないのが、今の日本の状況だろう。

 

 1960年代から1970年代の古き良き思い出から、似たようなことをすれば浮揚すると、幻想に逃げようとしていないだろうか。もしかすると、悲惨で暗い現実から、必死で目をそらせようとする気持ちだけが強く働いているのかも知れない。

 

 しかし、限られた我々の資本を、使う人が減少するインフラにばかり投資することが唯一の選択肢なのか、立ち止まって考えるべきである。人口増加時代の過去の成功体験から逃れられないまま、浪費してしまうのでは、あまりにも情けない。

 

・外国人労働者100万人

 

 2016年10月末段階で、日本で働く外国人労働者数は1,083,769人で、前年同期比175,873人増。実に19.4%の増加を記録している。これ以外に不法残留者や外国人留学生など、現実には日本の産業の多くの部分ですでに外国人に依存している。

 

 「外国人労働者反対」、「外国人移民反対」という意見は多い。外国人労働者に依存する社会に懸念を持つ人も多い。しかし、外国人を単に排斥するだけでは、日本の産業も経済も回らないのが現実だ。これほどまでに、人口減少と高齢化が大きな影響を与えているということを理解すべきだ。

  

・少子化は自分たちの生活をも危うくする

 

 「今の若い世代は甘えている」とか、「なぜ独身者が、他人の子供の負担をしなくてはならないのか」とか、そうした意見が出てくるのも、判らないではないない。しかし、そうした意見が声高になっている状況では、とてもこの危機的な状況を脱することはできない。

 

 「私たちの時代はもっと厳しかったが」と言うが、結果として少子化を招いてしまった以上、問題があったことは認めざるを得ないだろう。自分は独身者で悠々自適かも知れないが、これ以上、人口が減少してしまっては、その生活も危うくなるだろう。

 

・子育て世代をぶっ叩くのは止めよう

 

 「あいつらが恵まれた子育てをするのは、腹が立つ、止めさせろ」ではなく、「あいつらの恵まれた環境が普通だろ。我々の職場も、同レベルに引き上げろ」と主張すべきだろう。他人を引きずり降ろしても、自分たちは上がらない。

 

 もう争ったり、議論している猶予は残ってない。急激な人口減少による衝撃に備えるのと同時に、次の20年、30年を見据えて、子育てを支援しなくてはいけない段階に来ている。

 

 もう、子育て世代をぶっ叩くのは止めよう。そんな余裕は私たちにはない。

 

 

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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