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徳島で楽しめるのんびりクルーズ - ひょうたん島クルーズ

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
外国人観光客にも人気の「ひょうたん島クルーズ」

1998年(平成10年)に明石海峡大橋が開通し、本州側から淡路島を経由して徳島まで高速道路が開通したことで、神戸から徳島までは高速バスでも1時間半程度で結ばれるようになった。徳島には、約120万人を集客する阿波踊りがあり、さらに最近では年二回開催されているアニメイベント「マチ★アソビ」が約8万人を集める大きなイベントして定着している。

・イベント開催以外は、少ない滞在客

徳島市というと「阿波踊り」の知名度はダントツである。ところが、通年観光というと、今一つ、話題になるものが少ない。徳島駅から歩いて15分ほどの眉山には、ロープウェイがあり山頂からは、市内を一望とすることができる。しかし、市内にはあまり見どころはなく、阿波踊りや「マチ★アソビ」の時以外は、四国観光の玄関口として通過する人が多く、通年で滞在する観光客が少ないのが課題として、徳島市も挙げてきた。

・謎の「ひょうたん島」クルーズ

そんな徳島市だが、いつも気になっていた看板があった。それは「ひょうたん島クルーズ」というものだ。いったい「ひょうたん島」というのは、どこにあるのか、それにしても「保険料200円」というのは、どういうことなのだろうと、ここ数年、訪れるたびに疑問に思っていたのだが、なかなか確かめてみる機会がなかった。

・乗船料無料、保険金200円だけ?

今回、たまたま時間が空いたので、この「ひょうたん島クルーズ」に乗ってみることにした。ちょうど、台湾からの観光客で満員の船がクルーズが戻ってくるところだった。最近では、台湾、韓国、中国からの観光客が利用することが多く、それぞれの言葉で書かれた案内書も用意されていた。運営しているのはNPO「新町川を守る会」で、徳島市の社会実験という位置づけだ。そのために、乗船料は無料で、保険料200円だけという破格の料金設定なのだ。

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・年間乗船客5万人

運航を始めてすでに10年。当初年間の乗船者は1万8千人程度だったのが、ここ数年は約5万人にもなっている。船は12人乗りで、NPOが4隻所有している。まだ、新しく、座席の座り心地もよく、快適である。乗船する際には、救命胴衣を着用する。

・ひょうたん島は・・・・

「一周30分程度ですよ。」時間がどれくらいかかるのを乗船係の方に尋ねると、そういう答えだ。「ひょうたん島まで行くのですか?」とさらに尋ねると、「いえいえ、ひょうたん島というのは、ほら徳島市の形ですよ」と笑われた。

徳島市は何度も訪れたことがあったのだが、気が付かなった。市内には、四国一の「吉野川」が流れ、それ以外にも新町川、助任川がちょうど市内を囲むように流れている。なんと徳島市内には大小合わせると130を超す川と、約1600もの橋が架かっているという。

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・ゆったりとした川の流れ

この新町川、助任川にぐるりと囲まれた徳島市中心部が、まるでひょうたんのような形をしているため、案内してくれた船長さん曰く「誰が言い出したんが知らんが、ひょうたんの形やから、ひょうたん島だ、となったんだ」ということらしい。

船は、繁華街に隣接する両国橋を出発し、眉山のふもとを西に向かう。JR高徳線の鉄橋をくぐると、T路の形をしたおもしろい橋が見えてくる。新町川と助任川が交わるところで、あまりにも川の流れがゆったりしているため、どの川がどちらに流れているのか、にわかには判らないほどである。

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・川に向かっている街

この船を運航しているNPOは新町川を町おこしに活用していこうと活動しているということで、川に清掃活動や護岸の整備などにも活躍しているそうだ。船から町を見ると、それまでは川に背を向けていると思っていた家などの建物が、実は川に向かって開かれていることが判る。船からの乗客が楽しめるようにと窓に飾りつけをしている家もある。公園や橋などでは、多くの人がにこにこと手を振ってくる。川に向かって大きく窓を開いたレストランや喫茶店などもある。

・頭がぶつかりそう

徳島城を右手に眺めていると、「頭引っ込めてねえ。良かったなあ。あと15分もしたら、通れんかったかもなあ。」と船長さんが言う。頭を引っ込めるという程度ではなく、座席に伏せなければ、ぶつかるほどぎりぎりの橋をくぐる。橋の中央部辺りに、古い石垣の部分がある。「あそこは、人柱があるんだ。」この辺りは、流れも速く、橋がよく流されるということで、通りかかった僧に訳を話し、人柱になってもらったという話が伝わっているそうなのです。

「吉野川は、そうだなあ、1980年代くらいまではしょっちゅう洪水を起こしていたからねえ。」利根川(坂東太郎)、筑後川(筑後次郎)に加えて吉野川は四国三郎と呼ばれ、日本三大暴れ川の一つとして有名だった。そんな川と人との歴史を見ることができる。

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・イオンモールのシャトル便も運航中

ぐるりと回って、イオンモール徳島が見える辺りに差し掛かると、流れや風が海が近いことを感じさせる。2017年(平成29年)4月に開業したばかりのイオンモールだが、NPOが乗船場である市内中心部の両国橋とイオンモール近くの南末広町乗降場の間にシャトル便を運航している。約2.5キロの距離を約10分ほどで結んでいる。こちらも、保険料200円だけで、両国橋に行けば乗せて行ってくれ、帰りは電話をすれば迎えに来てくれる。「朝10時から夕方5時までの運航で、なかなかいいと思うんだけど、まだ知られていなくて、利用する人は少ないねえ」と船長さんは笑う。200円では、むしろ申し訳ないと思ってしまうほどの船旅だ。

・県庁前のヨットハーバー

徳島県庁の前にあるヨット係留地には、多くのヨットやクルーザーが係留されている。「県外からもたくさん係留してきているよ。海外からも寄港する人も多いよ。県庁の前にヨットが並んでいるってのは、他じゃない。」

バブル経済期に、多くの人がヨットやクルーザーを購入したのが、所有者も高齢化する一方で、船はFRP製(強化プラスチック製)でなかなか壊れない。「みんな、持て余しちゃってねえ。安くで出ているよ。知り合いなんて、結構、いい船だったのに、中古だと15万円くらいでしか売れないって言われて、怒って家に持って庭に置いてる。」

・エイはしっぽが怖い

「エイが見えるよ、エイが。」阿波室戸シーサイドラインの鉄橋をくぐると、船はゆっくりと水産市場の岸壁に近づく。目を凝らしてみると、透き通った水の中に、多数のエイが泳いでる。水産市場の人たちが、残り物の魚などを与えているうちに居つくようになったらしい。「エイひれって旅行に行った時に食べてねえ。美味しかったんだんだけど、徳島じゃ食べないんだよねえ。それに、エイは怖いよ。しっぽが硬くて、あれで切られたら大変なんだよ。」捕まえて食べてたらどうろうと言って、笑われた。

・川を愛しているNPOの人たち

そうこうしているうちに30分のクルーズは終了である。「ここでビアガーデンとかもやるから、また来てね」という言葉に送り出された。元々は、イベントが開催された後の川の汚さをなんとかしようということから、1990年 に有志 10 名で「新町川を守る会」が立ち上げられ、1999 年にはNPO法人化、会員数も250名を越すほどになった。現在では河川の美化や、今回乗船したクルージング事業など、川に関わる様々な活動を行っているそうだ。

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・この夏、四国に行ったら、徳島のひょうたん島クルーズ

あんまり難しいことは考えなくとも、船に乗って、川から徳島の街を眺めてみると、今まで何度も訪れたことのある街なのに、全く違った印象を受けることができた。船から見て、あそこに今度行ってみたいと思う場所もいくつかあった。

四国旅行に行った時、ぜひ徳島に立ち寄って、ひょうたん島クルーズに乗船してみて欲しい。街と川と人の暮らしについて、川風に吹かれながら考えることができるだろう。

'''※ひょうたん島クルーズ(徳島市役所)'''

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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