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関西経済浮揚のカギは神戸空港にあり

中村智彦神戸国際大学経済学部教授

・なぜ神戸空港は批判され続けてきたのか

関西には、三つの空港が存在する。関西国際空港、大阪国際空港(伊丹)、そして神戸空港である。この中で、神戸空港ほど毀誉褒貶の激しい空港はないだろう。現在でも、神戸空港に対しては、頭から批判で話す人も少なくない。

その理由は、1970年代に神戸市が空港建設に反対したことを理由にしている。しかし、当時は多くの公害が発生し、社会問題化していたのである。空港に反対していたのは、実は神戸市だけではなく、大阪南部・泉州地域の11市町も建設反対を決議していたのである。

泉州沖に関西国際空港が開港すると、廃港が前提だった大阪国際空港(伊丹)はその利便性と、地元の態度の変化から現在に至るまで存続することなった。さらに、神戸では震災を契機に高まった空港建設への機運は、反対運動など紆余曲折があったものの2006年2月に神戸市営空港として神戸空港が開港した。

こうした経緯から、関空派の人たちにとっては、約束を反故にした伊丹と、反対しておきながら、後になって作られた神戸の両空港は、許しがたい存在に映ったようだ。

・在阪政財界からの激しい攻撃

2009年頃には、関西の三空港(関西国際空港、大阪国際空港、神戸空港)問題は、政治問題化する。関西国際空港の不振の原因は、大阪国際空港や神戸空港に国内線が分散しているからだという説が強くなったのだ。特に大阪府や大阪市、それに関係する在阪財界の一部は、関西国際空港以外の二空港の廃港まで主張し始めた。

しかし、実際には大阪市内から遠く、特に新幹線で結ばれている都市間では競争力も劣る関西国際空港は、国内線の拡充が進まなかった。2010年頃には、半ば強制的に国内線長距離を大阪国際空港から関西国際空港に移管する試みがなされたが、集客の困難さに路線の運休、廃止などが発生しただけだった。

こうした中で、神戸空港への批判は激しいものがあった。特に在阪の政財界からは完全に失敗であり、廃港すべきだという意見が繰り返し主張されたのだ。これは、関西国際空港への中国や東南アジア諸国からのLCC(低価格航空会社)就航が増加し、利用客が急増する近年まで継続してきたのである。

・神戸空港はそんなにダメなのか

では、神戸空港はそんなにダメな空港なのだろうか。大阪国際空港が手狭になり、新空港建設の話が持ち上がった当時、最有力候補されたのが神戸沖。つまり、現在の神戸空港の場所だった。その理由は利便性の良さである。

京都・大阪・神戸はそれぞれの間がJR在来線で約30分の距離である。大阪駅からは新快速電車に乗れば、三ノ宮駅まで20分。新大阪駅からでも25分である。神戸空港は、三ノ宮駅から新交通システムポートライナーに乗り換え、18分で神戸空港に到着する。待ち時間などを含めても1時間あれば到着する。

さらにもう一つ大きな利便性がある。新幹線・新神戸駅とのアクセスである。「ポートライナーの三ノ宮駅の空港発着案内の画面で、欠航や遅れの情報が確認されれば、すぐに新神戸駅に向かって新幹線で目的地に向かうという選択肢が採れる。」神戸に進出した医療系企業の経営者は、神戸を進出先に選んだ理由の一つをこう説明した。

実は新大阪駅から神戸空港までの所要時間と、大阪国際空港(伊丹)までの所要時間は、ほぼ同じなのである。「新空港を泉州沖に持っていったのは、関西経済にとって問題が多いと言う指摘があったことは確かだ。」在阪大手企業の元経営者に話を聞いた時に、「やはり神戸沖に国際空港を作っておくべきだった。今、神戸空港が存在する以上、その特性を最大限に生かしていくことが必要になっている」という意見を聞いた。関西国際空港を守るがために、現実以上に神戸空港のイメージを貶めたことは、関西経済のためにはマイナスだったと言えるだろう。

・航空会社は国際ビジネス路線を就航させたい

他国に事例を見ると、郊外に建設した新空港は、主に長距離国際線とLCC用に活用し、市内中心部に近い在来空港は、国内線と近距離国際線に活用していることが多い。「外国人も含む経営幹部層が居住している地域は、大阪北部から神戸にかけてであり、神戸空港からの近距離国際線のビジネス需要は高い。航空会社としては、LCCなどと対抗するために神戸空港から近距離国際線を就航したいという考えは強い。」ある航空会社幹部はそう明かしてくれた。

実際は利便性が高く、航空会社も国際線を飛ばしたいと考えるほどに魅力的な神戸空港が、なぜ今まで酷評されてきたのか。それはひとえに関西国際空港の保護のためである。「簡単な話だよ。大阪の南北問題だ。経済性とか、そういうのは二の次だから。」ある与党国会議員は、筆者にそう言い放った。航空会社の経営戦略や、国内外の空港の在り方の見直しなどとは別の力が関西三空港問題には働いてきた。そのことが、長らく関西経済の浮揚の障害の一つとなってきたと言える。

・三空港一体運営化が動き出す

「神戸は空港建設に反対したから」という意見も、40年近くが経過して、やっと薄れてきた感がある。それよりも、首都圏が東京国際空港(羽田)の拡充を進めてきたことも大きく影響してきた。

そして、2016年4月から関西国際空港と大阪国際空港は、オリックスや仏バンシ・エアポートなどの共同会社関西エアポート株式会社が運営権を取得した。すでに大阪国際空港は、増改築工事が進み、一体運営化によって路線などの拡充が行われていく見込みだ。さらに、来年2018年4月には神戸空港の運営権売却(コンセッション)が計画されており、現段階で同じ関西エアポートが運営権を取得する見通しとなっている。

・関西経済界が自ら縛った規制

三空港が一体運営化されることによって、最適運営が行われるのではないかとの期待が高まっている。過去の経緯へのこだわりや感情論での議論や批判の応酬にピリオドが打たれ、それぞれの空港の特性に合わせた運用がなされることによって、関西経済に大きなプラスをもたらす可能性が出てきた。

国土交通省は、神戸空港の1日当たりの発着枠を30往復、運用時間も15時間の制限を行ってきた。この制限は安全運用のためとされているが、実際には関西国際空港への影響を低減するために、関西財界や自治体などで構成する関西3空港懇談会が2005年に決めたものが反映されているに過ぎない。「運航面でも、増便も運用時間の拡大の面でも、現実にはなんの問題もない」と空港関係者は指摘する。関西経済界は、10年以上も前から自らを縛ってきた経済発展への規制を大胆に見直す時期に来ている。

・神戸空港の国際線化は、関西経済活性化に不可欠

関西エアポートによる三空港一体運営に重要なってくるのは、規制の緩和である。井戸敬三兵庫県知事は、関西経済連合会に対して2010年以降開催されていない関西3空港懇談会の開催を求め、神戸空港への規制の緩和を求めていく方針を打ち出している。また、神戸空港を東京国際空港に次ぐ拠点としているスカイマークは、神戸空港からの国際線運航の計画を表明している。

ある航空会社幹部は、筆者に「神戸空港からならば、上海、ソウル、香港などへビジネス客向けの路線開設の可能性も高い。」と話したことがある。神戸空港は、その利便性の高さから都市型空港としての性格を色濃く持った空港である。

関西国際空港は、LCCの就航で就航便、利用客も増加している。神戸空港への厳しい規制が定められた2005年当時とは、状況が大きく変化している。40年前の経緯へのこだわりを捨て、関西経済活性化のためにも、都市型の国際空港としての神戸空港へのビジョンも明確にする時期だ。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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