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「宝塚音楽学校第110期生文化祭」観劇記

中本千晶演劇ジャーナリスト
イラスト:牧彩子(『タカラヅカの解剖図鑑』より)

 2月16日〜18日、宝塚音楽学校第110期生の文化祭が兵庫県・宝塚バウホールにて開催された。音楽学校での2年間の学びの成果を披露する卒業公演である。幸運にも、16日(金)の12時の部を観ることができたので、その様子をお伝えしよう。

 文化祭は3部構成となっており、「歌・芝居・ダンス」をそれぞれ披露する。第1部は緑の袴姿による日舞「清く正しく美しく」、予科生によるコーラスの後、クラシック・ヴォーカル、ポピュラー・ヴォーカルと歌のコーナーが続く。

 毎年、歌の上手い生徒2名が選ばれるクラシック・ヴォーカル。今年は男役と娘役がそれぞれ1名で、オペレッタ『微笑みの国』より「君はわが心のすべて」と、オペラ『トスカ』より「歌に生き、恋に生き」(こちらは原語)を聴かせた。

 宝塚歌劇の名曲を歌い継ぐポピュラー・ヴォーカルは『ザ・レビュー』の「アイ・ラブ・レビュー」に始まり、『ザ・レビュー2』の「この愛よ永遠に(TAKARAZUKA FOREVER)」で締め括られる。「華」とでもいうべき煌めきのある人を発見するのも、このコーナーの楽しみだ。

 第2部は演劇。今年は珍しく日本物の「吉野山・雪の別れ」である。脚本・演出は谷正純。このパートはA組、B組の2チームに分かれての上演となる(つまり、ほぼ全ての役がダブルキャストである)。私が観た回はA組での上演だった。

 兄、頼朝に追われて吉野に落ち延びた義経一行が、静御前を都に逃れさせて、奥州に向かう決意をするまでが描かれる。義経が主人公、静御前がヒロインのようだが、実質的な主人公は義経の身代わりを買って出る佐藤忠信のようでもある。この他、男役では義経に仕える弁慶、娘役では忠信を想う阿沙黄も重要な役どころで、芝居心のある人がキャスティングされているようだ。とはいえ、一人ひとりに見せ場を設ける工夫はされている。義経一行が落ち延びる様を客席降りで見せたのは新たな趣向。一人舞台に残った忠信の決めポーズで幕切れとなる。

 衣装の着こなしも所作ごとも慣れない日本物を熱演する姿に胸打たれた。例年以上に大変だったと思うが、その分、糧にもなったのではないか。タカラヅカの日本物の伝統を受け継いでいこうという心意気を感じさせる試みである。

 第3部のダンスコンサートでは、娘役がトウシューズを履く王道のバレエから、ジャズダンス、タップダンスまで、タカラジェンヌがカバーするダンスジャンルの広さを感じさせる。シンプルな衣装での群舞が中心なだけに、ダンスの技量で勝負ということになる。フィナーレは「よろこびの歌」「Joyful, Joyful」で盛り上がりが最高潮に達したところで幕となった。

 魅力的な歌声を持った人、芝居に味がある人、キレのあるダンスで惹きつける人…文化祭を観るたびに、一人ひとりの多彩な個性を感じる。今期は特に、首都圏や関西以外の全国各地出身の生徒が集まっているのが、個人的には嬉しい。文化祭を観るたびに感じることだが、あの空間に居られるだけで清々しい気分になれる。全力の笑顔に、こちらも背筋がシャンと伸びる気がする。

 数年後振り返ると、今回目立った人が順調に成長しているかもしれないし、思いがけない人が輝いていることもあるだろう。いずれにせよ、文化祭を観ることができた期には特別な愛着がわくものだ。110期の皆さんを、これからも見守り、応援し続けたいと思う。

演劇ジャーナリスト

日本の舞台芸術を広い視野でとらえていきたい。ここでは元気と勇気をくれる舞台から、刺激的なスパイスのような作品まで、さまざまな舞台の魅力をお伝えしていきます。専門である宝塚歌劇については重点的に取り上げます。 ※公演評は観劇後の方にも楽しんで読んでもらえるよう書いているので、ネタバレを含む場合があります。

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