Yahoo!ニュース

新生宙組の大いなる可能性を感じさせる、宝塚歌劇『エクスカリバー』

中本千晶演劇ジャーナリスト
イラスト:牧彩子(『タカラヅカの解剖図鑑』より)

 宙組新トップコンビ芹香斗亜・春乃さくらのプレお披露目公演となるミュージカル『エクスカリバー』が7月23日、東京・池袋の東京建物 Brillia HALLにて開幕した。この作品は韓国のEMKミュージカルカンパニーが制作し、2019年に韓国で初演されて話題を呼んだ作品である。楽曲を『THE SCARLET PIMPERNEL』などでタカラヅカでもおなじみのフランク・ワイルドホーンが提供している。

 「アーサー王伝説」を題材にした作品だが、要所要所の設定や解釈が現代的で斬新だ。アーサー、グィネヴィア、ランスロット、そしてモーガン、マーリンなど主な登場人物たちの心情の変化を歌で丁寧に描きながら進んでいく。歌が持つ表現力の豊かさを改めて思い知らされる作品でもあった。

 芹香斗亜演じるアーサーが「選ばれし王」として成長していく物語には、やはり芹香自身のここまでの道のりが重なって見える。誰も抜くことができなかった聖剣をたやすく抜くシーンでは、固唾を飲んで見守っていた観客から拍手が湧き起こっていた。前半の「普通の少年」時代には芹香のピュアな持ち味が生かされ、見ていて楽しい。だが、一幕のラストから一転。ダークサイドに堕ちてしまったアーサーにも色悪の香気が漂う。数奇な運命に翻弄される役どころの中で、芹香の持つ多彩な魅力が発揮される。

 新トップ娘役・春乃さくら演じるグィネヴィアは、弓の遣い手であり、しとやかな王妃ではなく、アーサーと共に戦う同志という設定だ。今回ドレス姿はほとんど見られないが、男役の戦士たちと変わらぬ出で立ちが凛々しくて新鮮。現代の感覚からしてナチュラルに魅力的な女性である。アーサーとグィネヴィアの絆のありようからも、ただ寄り添うだけではない、同志のような力強さを持つ新トップコンビ像を期待したくなる。

 ランスロット(桜木みなと)は、これまでのタカラヅカでも様々な描かれ方をしてきたキャラクターだが、今回はアーサーの「兄貴」的な存在で、大人の男の包容力を感じさせる役どころだ。これから、トップスター芹香と様々な関係での芝居が見られることが、俄然楽しみになった。

 そして、観客の度肝を抜いたのは、真白悠希演じるモーガンだろう。前々から芝居のセンスが抜群の人だと思っていたが、ここに来てついにその本領発揮できる役に巡り会えたといったところ。真白演じるモーガンからは彼女が本来的に持っていたはずの温かい人間らしさも見え隠れし、普通に育てられたら普通に幸せに生きられたのかもしれないと思わせる。

 このモーガンと抜き差しならぬ関係があるらしい預言者マーリン(若翔りつ)。モーガンとマーリンの関係は、アーサーとマーリンの関係と表裏一体にあるとも言えそうだ。全てを背負ってアーサーに夢を託していくマーリンを、若翔が色濃く繊細に演じてみせる。

 アーサーを優しく導く育ての親エクターを演じるのが、新たに組長となった松風輝。新生宙組を引っ張るトップスターと、それを暖かく見守り支える組長の関係が垣間見えるようだ。

 アーサーの軍と対峙するサクソン族の王ウルフスタンを演じるのは、専科から出演の悠真倫。トサカのような髪型も猛々しく、まさに蛮族の頭といったところ。その息子アスガルに大路りせが扮し、悪役の色気を感じさせる(なお大路は2幕では円卓の騎士の一員ガラハード役として登場する)。円卓の騎士のひとりトリスタンを演じる泉堂成がやはり目を惹きつける。

 ラストシーンで王冠を模したセットの上にひとり立つ姿は、まさに今、満を持してトップスターとなった芹香そのもの。思わず胸が熱くなる瞬間だった。

 あの大量の楽曲を芝居に乗せて歌いこなすまでには、お稽古期間の大変な努力があったことだろう。各キャストの熱演ぶりから新生宙組への大いなる可能性を感じ、期待がふくらむお披露目公演だった。

演劇ジャーナリスト

日本の舞台芸術を広い視野でとらえていきたい。ここでは元気と勇気をくれる舞台から、刺激的なスパイスのような作品まで、さまざまな舞台の魅力をお伝えしていきます。専門である宝塚歌劇については重点的に取り上げます。 ※公演評は観劇後の方にも楽しんで読んでもらえるよう書いているので、ネタバレを含む場合があります。

中本千晶の最近の記事