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『EDGES -エッジズ- 2022』が見せる「ソングサイクル・ミュージカル」って何だ?

中本千晶演劇ジャーナリスト
※記事内写真 撮影:岡千里

 ゴールデンウィークの真っ只中、ミュージカル『EDGES -エッジズ- 2022』を有楽町よみうりホールにて観劇した。

 映画『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』といえば、ミュージカルにあまり詳しくない人でも聞き覚えがあるかもしれない。じつは、これらの楽曲を手掛けたベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのデビュー作が『EDGES』である。二人は何と、大学時代にこの作品を創ったのだそうだ。

 面白いのは、この作品が「ソングサイクル・ミュージカル」という形式をとっていることだ。

 「ソングサイクル」とは元々「連作楽曲」と訳されるクラシック用語なのだそうだ。そして「ソングサイクル・ミュージカル」とは、一曲一話完結のナンバーでつづるオムニバス形式のミュージカルである。

 むろん、全ての楽曲は緩やかなテーマでくくられている。この作品の場合、それが「大人になるとはどういうことか?」という問題提起だ。子どもと大人の境界(エッジ)に、鋭く(エッジに)迫る。だから、「EDGES -エッジズ-」というタイトルなのだ。

 一曲で一話完結するわけだから、全14曲はどれも聞き応えたっぷり。鋭くて繊細で、でも優しくて温かい。

 これを歌えて踊れて、でも異なる強みを持った6人の出演者(屋良朝幸・成河・草間リチャード敬太・豊原江理佳・ダンドイ舞莉花・植木豪)が、それぞれの持ち味を発揮しながら紡いでいく。

 たとえば、M3「Caitlyn and Haley ーケイリーとヘイリー」(歌:豊原・ダンドイ)は、思春期を迎えた姉と、まだ子どもっぽい妹との微妙な気持ちのズレを描いた一曲だ。あるいは、M4「Boy With Dreams ー僕の夢」(歌:草間)は、この年頃の男の子の内に秘めた思いをじっくり聴かせる。

 M6「In Short ー最後に言わせて」(歌:成河)は、彼女にフラれた男性が元カノに対する悪態を突きまくり、でも最後の最後に捨てきれない未練を吐露する。情けないけれどいじらしい男心をユーモラスに描いた一曲だが、そんな彼の表情が間近で撮影され、リアルタイムで映し出されるという演出まで付いている。

 M10「I've Gotta Run ーごめん行かなきゃ」(歌:ダンドイ・屋良・植木・草間)は、これまで非の打ちどころのなさそうな男性と何人も付き合ってきたけれど、何故か長続きしない女の子を描いた歌だ。今回は大胆にもラップにアレンジされ、彼女の男性遍歴と揺れる心がリズミカルに語られる。とかくラップは早口でついていけなくなりがちだが、映像でも歌詞が流れるのがわかりやすい。

 映像もうまく活用した見せ方の工夫が楽しく、変化に富んでいて飽きさせない。もちろんダンスの見せ場も多い。振付を主に担うのが屋良朝幸と植木豪だ。二人がコンビで踊るシーンもふんだんに盛り込まれている。

 一曲ごとに異なるストーリーは、最終的に「現実に向き合うことを恐れず、自分らしく生きていこう」という作品全体のテーマに収斂していく。14篇の珠玉のショートストーリーを堪能し、忘れかけていた気持ちなどを思い出した後、最後に元気がもらえるメッセージがついてくるという、濃密な85分間だった。

 作品の創作過程のことがもっと知りたくなり、5月4日に行われた、元吉庸泰(演出)×福田響志(訳詞)×成河(出演者)によるアフタートークも聴きに行ってみた。

 演出を手掛けた元吉庸泰によると、ソングサイクル・ミュージカルは「演劇に寄せるか、ショー的に見せるか」のバランスが難しいのだそうだ。楽曲のみの組み合わせで成り立つから、一歩間違えると何が伝えたいのかわからない歌謡ショーのようになってしまう。かといって演劇的要素を強め過ぎると、今度はグルーヴ感が失われてしまって面白くない。

 だが、私は特に混乱することなく作品世界に入れてしまった。これはもしかして、タカラヅカファンでもある筆者が「ミュージカル」と「ショー」の二本立て作品をよく観ており、両方の形式に馴染んでいるからではないか? 私のような観客は少なからずいるだろうから、「ソングサイクル・ミュージカル」という形式は日本に馴染みやすいのかもしれない。

 ソングサイクル・ミュージカルは作曲家渾身の楽曲の集まりでもあり、かつ、大がかりな装置などが必要ないため小回りがきくという利点もある。このためアメリカでは、若手作曲家が自らの才能をアピールするための格好の形式とも考えられているそうだ。

 今後日本でも、色々な作曲家によるソングサイクル・ミュージカルのオリジナル作品が生まれてくると面白いなと思う。

※本公演は大阪公演5月9日(月)千秋楽のライブビューイングが開催されます。また、上記アフタートークのオンデマンド配信も行われています。詳細は作品公式サイトをご参照ください。

演劇ジャーナリスト

日本の舞台芸術を広い視野でとらえていきたい。ここでは元気と勇気をくれる舞台から、刺激的なスパイスのような作品まで、さまざまな舞台の魅力をお伝えしていきます。専門である宝塚歌劇については重点的に取り上げます。 ※公演評は観劇後の方にも楽しんで読んでもらえるよう書いているので、ネタバレを含む場合があります。

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