彩風咲奈主演、雪組梅田芸術劇場公演『炎のボレロ』で、凝縮されたタカラヅカの美学を堪能

『炎のボレロ』人物相関図  ※筆者作成

 宝塚歌劇団雪組による梅田芸術劇場公演『炎のボレロ』『Music Revolution! -New Spirit-』が千秋楽を迎えた。もともとは雪組選抜メンバーによる全国ツアーとして5月に上演されるはずだったのがコロナ禍で中止に。8月17~25日に梅田芸術劇場での上演が決まったが、公演関係者の中に感染者が出たことで延期に。波乱に次ぐ波乱の末に8月29日ようやく開幕、こうして無事に千秋楽が迎えられたことを何より喜びたい。

 

 9月2日には全国の映画館でのライブビューイング、およびRakuten TV・U-NEXTによるライブ配信も実施されたため、私もライブ配信にて視聴することができた。

 

 『炎のボレロ』は1988年星組で、トップスター日向薫のお披露目公演として上演された作品だ。物語の舞台は1860年代、フランスの支配下にあるメキシコだ。ナポレオン3世の要請により、ハプスブルク家のマクシミリアン(ちなみに、この人はミュージカル『エリザベート』でおなじみのオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの弟だ)がメキシコ皇帝となっている。

 

 メキシコで大農園を営んでいた貴族・カザルス侯爵家の次男であるアルベルトは父と兄をフランス軍に惨殺され、首謀者であったブラッスール公爵への復讐を心に誓っている。だが、共和派の仲間たちとの交流の中で、私怨ではなく大義のために生きたいと考えるようになる。

 

 久しぶりにメキシコに戻って来たアルベルトは、お嬢様ながら自由奔放に振る舞うカテリーナという娘に出会い、心惹かれる。二人は祭の日に「太陽の若者」と「月の女神」に選ばれたことで再会できるが、じつはカテリーナはメキシコ貴族ながら唯一フランスに恭順の意を示したドロレス伯爵の娘だった。

 いっぽうフランス軍のジェラール・クレマン大尉は不治の病を押し隠し、アルベルト逮捕に奔走する。腐敗した宮廷に疑問を持ちながらも、残された時間で職務を全うすることが彼の生き方だった。

 

 いかにも予定調和的なストーリー展開なのだが、それゆえにタカラヅカの美学を凝縮させて見せることができる。アルベルトとカテリーナのデュエットや、アルベルトとジェラールが火花を散らす歌の掛け合いなどは「待ってました!」と声をかけたくなるほどの見せ場である。

 まさに「タカラヅカの古典」といえるような作品で、安心して見ていられる。これはやはり全国ツアーで各地のタカラヅカ初体験の人にも見て欲しかったなという思いが募った。

 初演の作・演出は柴田侑宏だ。柴田は最初に出演者ありきでストーリーを考えるタイプの作家であり、この作品も初演メンバーにぴったり当てて書かれている。こうした作品を違うキャストで再演するのは普通は難しいものだが、今回の再演メンバーにも意外とうまくはまっていることに驚いた。これは作品選定の勝利といって良いのではないだろうか。

 

 彩風咲奈のアルベルト。初演の幕開き、長身のスター日向薫が全身白の衣装に身を包んで登場するシーンが印象的だったが、スタイル抜群の彩風もこの衣装をばっちり着こなしていたのはさすがだ。「一生懸命生きていこう」というちょっと気恥ずかしくなるようなフレーズが台詞や歌詞で繰り返されるが、これが彩風の誠実な芸風にうまくはまっていた。

 

 天真爛漫なカテリーナも初演の南風まいに当てた役だろうが、今回演じた潤花にも似合っていた。潤はこの作品後に宙組への組替えが決まっているため、思いがけず本作がこのコンビの見納めとなってしまったのを名残惜しく見守った。

 

 ジェラールも、日向薫と対照的な雰囲気を持つ紫苑ゆうに当てて書かれた役柄だろうが、「あばよ」が似合う斜に構えた雰囲気や、健気に想いを寄せるモニカ(彩みちる)へのツンデレな接し方が朝美絢にもよく似合っていた。そして何より軍服姿が麗しい。

 

 共和派のリーダー、フラミンゴは初演時に麻路さきが演じているが、今回演じた縣千も熱い闘士としての存在感が抜群だ。

 初演時にタカラヅカの名脇役たちが演じた役に、今の雪組の芝居巧者たちが挑戦するのも注目だった。麻月鞠緒が演じていた宿敵ブラッスール公爵を久城あす、萬あきらが演じたドロレス伯爵を奏乃はると、一樹千尋が演じた酒場の主人ウパンゴを透真かずき、夏美ようが演じていた謎の従僕(じつはフランス軍の密偵)タイロンを真那春人が、それぞれの持ち味を活かしながら色濃く演じていた。

 雪組らしい細かい作り込みを感じるのは群衆芝居の場面だ。たとえば、ブラッスール公爵邸をカテリーナが不本意ながら訪れる場面。心を病んだふりをするカテリーナを囲んで、父ドロレス伯爵、カテリーナに下心のあるブラッスール公爵、公爵の息子でカテリーナの婚約者であるローラン(叶ゆうり)、公爵の愛人であるオノリーヌ伯爵夫人(千風カレン)、それぞれの思惑が複雑に交錯する。

 あるいは、アルベルトが共和派の仲間たちにカテリーナを紹介する場面。「あの裏切者ドロレス伯爵の娘?」と一瞬凍りついた場がアルベルトの曇りなき言葉で解けてゆき、カテリーナの抱く不安が安堵と喜びに変わるさまが、瞬時に伝わってきた。

 後半に上演されたショー『Music Revolution! -New Spirit-』は昨年、宝塚大劇場・東京宝塚劇場で上演されたもののリメイク版だが、ほとんどの場面が変更されており、事実上の新作ショーといっていいほどの目新しさだった。どの場面も今回の出演者に合わせて変更されているため、若手に至るまで見どころがたくさん詰まっていた。

 カーテンコールで、愛媛県出身の彩風が「愛媛県の皆さん、見ていますか?」と声をかけたときは、思わず私もじーんときてしまった。本来行われるはずだった全国ツアーの愛媛公演、地元の皆さんはどれほど心待ちにしていたことだろう。再び各地の劇場で安心して公演ができる日が来ることを願ってやまない。