東京オリンピックが延期になれば、日本経済に光明が差す理由とは

(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナで脚光を浴びる働き方とは

 新型コロナの感染拡大が、日本の経済・社会を揺るがしています。感染拡大が5月までに止まらなければ、オリンピックの開催が延期になるのではないかといわれています。

 しかし私は、新型コロナがオリンピックを延期させるほど長引くことになれば、日本経済にとって「災いを転じて福となす」大きなチャンスになると考えています。なぜなら、「テレワーク」という働き方がやっと多くの人々に認知される契機となったからです。

 テレワークの普及は、日本の生産性を大幅に引き上げるポテンシャルを秘めています。人口減少が加速度的に進む日本では、今の経済規模を維持するためにもっとも有効なツールのひとつになるはずです。

テレワークは生産性を2割~3割引き上げる

 2019年1月24日の記事『自由な働き方が広がれば、出生率は上がっていくはずだ』でも申し上げたことですが、テレワーク(主に在宅勤務の場合)を導入する企業の生産性は、少なくとも2割~3割程度は上がると考えられます。なぜなら、日本の会社員にとって毎日の「通勤」は「痛勤」と表現されるほど肉体的および時間的な負担が大きいからです。

 総務省の最新の統計によれば、都道府県で1日の通勤時間が長いのは神奈川県(1時間45分)をトップに、千葉県(1時間42分)、埼玉県(1時間36分)、東京都(1時間34分)と続いています。このように東京圏(一都三県)の通勤時間は、全国平均(1時間19分)と比べてとりわけ長くなっているのです。

 神奈川県にしても千葉県にしてもあくまで平均の時間ですから、通勤に2時間程度かかっているケースも決して珍しくありません。また、東京圏に次いで大都市圏である大阪圏に通勤している人であれば、通勤に1時間30分以上を費やしているのは当たり前の状況となっています。

 そういった通勤の負担がなくなるだけでも効果が大きいのは、誰にでも容易に理解できることでしょう。

 在宅勤務の最大のメリットは、通勤時間がなくなることです。会社勤務より早い午前7時~8時に仕事に取り掛かり、午後3時~4時には終わらせることが可能となります。満員電車による通勤で体力を消耗することもなく、最初から仕事に集中できるというメリットもあります。

 その結果として、仕事における生産性を高める一方で、残業時間を減らすことができるというわけです。

給与が「時間給」から「成果給」へと変わる環境を後押し

 2018年の日本の1時間当たりの労働生産性は46.8ドルであり、データが取得可能な1970年以降、先進7カ国のなかで最下位の状況が続いています。実にアメリカの74.7ドルの6割強の水準にまで落ち込んでおり、2017年と比べても両国の差は3.4ドルも拡大しているのです。

 2019年11月25日の記事『日本の生産性が低いのは、日本人の価値観の問題だ』において、日本の生産性が低いのは企業全体に占める中小企業(中規模企業と小規模企業)の割合、とりわけ小規模企業の割合が最も高いからだと申し上げましたが、その他の要因としてはホワイトカラーの非効率な働き方や企業の古いシステムなども生産性向上の足かせになっています。

 ホワイトカラーの働き方が柔軟なアメリカでは、企業のテレワーク導入割合が7割を超えています。日本では2割をやっと超えた程度であり、やはりこの差は大きいといえるでしょう。現状では大企業の導入割合が増え続けているものの、中小企業への導入は一向に広がっていません。

 たしかに、すべての仕事を在宅で行うのは不可能なので、ある程度の出社は必要だと思います。しかし、企業のなかでよくいわれている「労働時間の管理が難しい」といった懸念は杞憂です。労働時間は原則1日8時間として、開始時と終了時に会社や上司にメールで報告するだけで十分です。

 というのも今後は日本でも、雇用契約が職務や勤務地が限定されない「メンバーシップ型」から、限定される「ジョブ型」へと大きく変わっていくからです。「ジョブ型」での給与は年齢ではなく職務に対して支払われるので、日本型の「終身雇用」や「年功序列」の制度が崩れていくのは不可避な情勢なのです(2019年12月13日の記事『AIG損害保険への就職希望者が10倍に増えた理由とは』参照)。

 これは、私たちの働き方の意識が「時間」から「成果」へと変わっていくと同時に、給与が「時間給」から「成果給」に変わるということを意味しています。成果を効率的に発揮できる人にとっては、会社に通勤するメリットが少なくなり、会社の外で自由に働くメリットへの関心度が高まっていくはずです。

日本企業の古いシステムを刷新する契機にも

 全社で在宅勤務ができるかどうか検討した大企業のなかには、社内システムに外部から大量の接続があるとパンクするという理由から、テレワークを見送ったというところがあります。

 日本の低生産性の原因のひとつに、ITの分野でかなり遅れているという事情があります。日本企業はIT投資の8割を既存の古いシステムの維持や運用に使っているからです。IT投資の額が米欧に比べて少ないばかりか、その多くは運用コストが高く生産性の低いシステムの維持費に使用されているのです。

 とくに経団連に加盟する大企業では、サラリーマン社長ゆえに大型のIT投資に踏み切ることができないでいます。これでは遅かれ早かれ、多くの大企業が競争力を失ってしまうのではなかと危惧しているところです。

 そういった意味でもテレワークの導入は、大企業が減損を伴う古いシステムの除去に躊躇することなく、システムをクラウド型に切り替えるという決断をする契機にもなります。もちろん、これまでシステムを導入していない割合が高い中小企業でも、減損が生じないというメリットを生かして、業務のクラウド化によって効率化を推し進めることができます。

 テレワークはまた、大規模な地震や大型の台風など自然災害が起こって公共交通機関が麻痺した時に、会社員が安心して自宅で働く機会を提供するツールになりえます。企業は活動が停止するリスク、会社員は通勤できないリスクを抑えることができるのです。

働く人が元気になれば、日本の未来は明るい

 グーグルやヤフーで「会社」と検索すると、「辞めたい」「行きたくない」という言葉が上位に出てきます。残念ながら今の日本では、働いている人の5割以上がストレスを感じ、3割以上が疲れているといいます。そのうえ、日本人は他の先進国と比べて睡眠時間が短く、運動不足の割合が多いといわれています。

 たとえば、東京圏で勤める人がテレワークの積極的な利用によって毎日の通勤時間を1時間でも短縮できれば、1年間で240時間(年間240日勤務を想定)、すなわち、1か月の勤務時間分を節約することができます。その節約できた時間を運動や睡眠の時間に充てることができれば、ストレスや疲れを軽減するだけでなく、仕事に集中することも期待できます。

 今回の新型コロナ騒動を発端として、将来的に日本人が働き方を「週2日は会社勤務、週3日は在宅勤務」といった形に変えることができれば、働く人が元気になるので生産性は間違いなく上がります。そういった意味では、日本の将来はそんなに悲観するものではないのかもしれません。