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自由な働き方が広がれば、出生率は上がっていくはずだ

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
毎日の通勤(=痛勤)は肉体的および時間的な負担が大きい。(写真:アフロ)

企業の生産性はテレワークで容易に2割~3割上がる

 みなさんは「テレワーク」という言葉を聞いたことがありますか。テレワークとは、「テレ(tele)=離れたところで」と「ワーク(work)=働く」を組み合わせた造語であり、情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを指しています。テレワークは働く場所によって、主に「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」「モバイル勤務」の3つに分けられます。

 総務省の2016年度の調査によれば、テレワークを導入する企業の生産性は、導入していない企業の1.6倍にもなるという結果が出ているということです。実際に、テレワークを導入した企業の9割が効果を実感することができたと回答しています。2016年の段階では調査対象となるサンプル数が少ないことから、生産性における効果をそのまま鵜呑みにするのは控えたいですが、それでも感覚的には生産性が少なくとも2割~3割は容易に上がるということは理解できます。

 

 なぜかというと、大都市圏では毎日の通勤が「痛勤」と表現されるほど肉体的および時間的な負担が大きいので、その負担をなくせるだけでも効果が大きいはずだからです。総務省の2016年の統計によれば、通勤時間の中位数を都道府県別にみると、神奈川県が49.4分ともっとも長く、次いで千葉県が47.9分、埼玉県が45.7分、東京都が44.0分となっており、全国の中位数が27.8分であるのと比べると、東京圏ではとくに通勤時間が長くなっているのです。

 在宅勤務を選択した場合、通勤時間がなくなる分、会社勤務より早い午前8時から仕事を始め、夕方の4時~6時には終わらせることができるようになります。なおかつ、満員電車に揺られる通勤で体力を消耗することもなく、最初から仕事に集中できるというメリットもあります。当然のことながら、仕事における生産性を高めながら、残業となるべき時間も減らすことができるというわけです。

 

 これまで毎日の通勤に当てていた時間を遠慮なく仕事に振り向けることができれば、どれだけの成果が得られるか想像してみてください。かくいう私も自宅と勤務地はできるだけ近いほうが効率性は上がるはずだという考えから、この仕事を始めた時から両方の場所を5分~10分以内に移動できる地点に設定して活動してきましたが、その効果は想定していた以上に大きいものとなっています。

 そういった意味では、政府の働き方改革に沿って労働時間の短縮を進める企業が多いなかで、テレワークによって働く場所が重要な位置づけになってきている流れは大いに評価したいです。大企業では社員に出社を義務付けないなど大胆に方針を変えるのは時間がかかりそうですが、中小のベンチャー企業のあいだでは社員は自宅やカフェなど好きな場所で働ける環境づくりが広がってきているからです。結果的には、地方から通勤圏に縛られない優秀な人材を集めやすくなったばかりか、生産性が高まる効果もしっかりと出てきているということです。

テレワークの広がりで出生率が上がるわけとは

 なぜテレワークの話をしているのかというと、少子化に対して主に3つの大きな効果を期待しているからです。

 1つめの効果とは、地方に良質な雇用を提供できるということです。地方でリモート社員として東京圏と同等の賃金が得られるようになれば、地元に残りたい、あるいは地元に帰りたいという若者たちは意外に多いので、地方から若者の流出を抑えると同時に若者が戻ってくるという成果が考えられます。東京圏より地方のほうが結婚率や出生率が上がるのは間違いないことから、若者が地方にとどまったり戻ったりするという意義は殊のほか大きいはずです。

 2つめは、長時間労働を是正できるということです。在宅勤務が標準となれば、東京圏であろうが地方であろうが通勤に要する時間を節約することができます。東京圏に勤める人々は平均して1日90分以上の時間が節約できることになるのです。おまけに、通勤による疲弊がなくなれば仕事への集中力が高まり、労働時間をいっそう減らすことができます。フランスやスウェーデンなどの事例を見れば、労働時間を短くするように改めれば出生率が上がるということは実証されていますし、厚生労働省の2014年の調査によれば、夫の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が増えているという実態が明らかにされています。

 3つめは、育児や子育てで離職せざるを得なかった女性が再び働く機会を得られるようになるということです。夫婦で働くことで経済的に安定するのに加えて、女性が自由な働き方を選択できるのであれば、第2子や第3子を欲しいと思う強い動機付けになると考えられます。厚生労働省の2014年の調査によれば、子どもを2人以上持ちたいと思っている夫婦は少なくないということです。夫婦の希望が叶った場合の出生率は1.80程度になる見込みであるといいます。

 

 今のところ、テレワークを本格的に導入しているのは中小のベンチャー企業が主体となっていますが、多くの大企業が少子化対策と生産性向上の両立が可能だとだと認識したうえで、テレワークを勤務形態の核として取り入れることに大きな期待を寄せています。多くの大企業が本社機能を地方に分散させるとともに、働き方を「週2日は会社勤務、週3日は在宅勤務」といった形に変えることができれば、日本の将来はそんなに悲観するものではないということが明らかになってくるのではないでしょうか。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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