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第23回 全国高等学校女子硬式野球選手権大会 決勝

中川路里香フリーランスライター
作新学院サヨナラの走者が生還し、優勝を決めった瞬間

『第23回 全国高等学校女子硬式野球選手権大会』は、8月2日に履正社対作新学院での決勝戦が行われ(兵庫県丹波市つかさグループいちじま球場)、作新学院が4対3で逆転サヨナラ勝ちし、初優勝を果たしました。

【試合結果】

履正社 001 101 0  3

作新学院 001 000 3x 4

作新学院、逆転サヨナラ劇で初優勝を果たす

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1対3で迎えた最終回、作新学院は、一死から七番・金山さんがセンター前ヒット、八番・代打上岡さんはフォアボール、一番・関さんがセンター前ヒットで二死満塁とすると、打撃好調の二番・海老沼さんが二遊間を抜けるタイムリーヒットを放ち、金谷さん、上岡さんが生還し、同点に追いつきます。なおも、二死一三塁のチャンスに、続く三番・本間さんがセンターへヒットを放ち、逆転のランナー関さんが生還し、サヨナラ勝ちをおさめました。

土壇場で追いつく素晴らしい粘り

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「リラックス、リラックス。(打つべき球が来るのを)待っとけばいいから」。作新学院、田代監督が打席にいる二番・海老沼さんにベンチから声をかけます。最終回、1対3で迎えた二死満塁の場面です。今大会、二回戦の大商大浪商戦ではランニングホームラン、準々決勝の京都両洋戦ではサヨナラ逆転タイムリーヒットを打つなど、当たりに当たっていたラッキーガール海老沼さんですが、この日はここまで3打数ノーヒット。履正社の投手陣に対策を練られていました。しかし、田代監督のこの言葉が効いたのか、この打席は、見事、二遊間を抜け、土壇場で同点に追いつきました。

絶好調、海老沼さんが最終回でも魅せた

2ストライクと追い込まれていたので、ストライクボールは見逃さずに思い切り振ろう、と思っていた海老沼さん。「ボテボテでしたが、うまく抜けてくれました」と話すとおり、打球は決して強くはありませんでしたが、見事、二者を生還させました。

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この当たりについては、田代監督も「打球は速くはなかった」と言いつつ、「パチン!と思い切り叩いたから抜けた」と称えます。

が、「海老沼を警戒したのか、向こうのショートが三塁へ少し寄った守備位置をとっていた」とも言い、「通常の守備位置なら、取られていてもおかしくなかった」と振り返りました。さらに、弱い当たりだったことも功を奏したとも言いました。

「女子の場合、外野への強い当たりのヒットでは二塁から生還するのは難しいのですが、球足が遅かった分、帰ってこられた」(田代監督)からです。

幾つかの要因が重なって生まれた逆転劇でした。

海老沼さん、「この大会がこれからの糧になる」

大会前、打撃の調子を崩していた海老沼さん。自身、「12試合ノーヒットで。随分悩んだ」といいますが、「やる気をなくさないようにして、打てない分、バットを振り込んで大会に臨んだ」そうです。その努力が実り、一回戦こそノーヒットでしたが二回戦以降の活躍は、先に書いた通り。決勝戦では優勝を引き寄せる活躍を見せました。

海老沼さんはまだ2年生。試合後、「3年生とできる最後の試合だったので、絶対に日本一になりたかったです」、「先輩方の諦めない気持ち、点を取らないといけないところでしっかり取る集中力を教わりました。この大会を通じて自分も成長できたと思います」と、話しました。

そして、この大会を振り返りこうも話しました。「これからもまた打てない時期がくるかもしれません。その時は、この大会のことを思い出して、がんばろうと思います!」。

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選手を称える田代監督

「お前たちがやってきたことは全て正解だよ」。優勝を決めた後、このチームでの最後のミーティングで、田代監督は選手たちにそう話しました。今まで積んできた練習が、優勝という結果となって現れたことを指したのです。準々決勝に勝利したときも、準決勝に勝利したときも、次の試合へ向けて「一年間やってきたことをやるだけ」と話していました。

作新学院女子硬式野球部には専用グランドはなく、室内練習場のみ。おのずと守備練習よりも打撃練習に重きを置かざるを得ない状況です。相手に打ち勝つ攻撃型野球を追求してきました。その通り、全試合を通じて、走者が出ても送りバントはありませんでした。最後まで自分たちのスタイルを貫いたのです。

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それができたのも、選手たちの練習の賜物。海老沼さんの他にも、決勝打を打った三番の本間さんは田代監督によると朝早く出てきて練習をし、夕方は最後まで残っていたなど、監督が舌を巻くほどの練習熱心な選手が多かったのは想像に難くありません。

「守備あっての攻撃」(田代監督)というように、攻撃型とはいっても守備も堅く、随所に好プレーが出ていました。

先輩の背中を追いかけ走り抜けた一年間

優勝インタビューで「練習環境は決して良くないけれど、一人一人が努力をすれば、日本一になれると証明できました。ぜひ、みなさんも夢を追いかけて欲しい」と、野球少女たちへメッセージを送った、作新学院主将、生井さん。

主将で、キャッチャーで四番。まさにチームの中心に居ながら、優勝へ貢献しました。それだけに、「四番だからチャンスで自分が打たないと」と、常に口にしていた責任感の強い選手です。

一年前の代も、主将はキャッチャーで四番。昨夏、新チームとなってそれを受け継いだときから、前主将の背中を追いかけて一年間やってきました。その先輩とは今でもLINEで連絡を取り合う仲だといい、決勝戦前夜も『自分らしく頑張ってください』と、メッセージをくれたのだそうです。

そして、見事、優勝。先輩たちの上を行く結果を出しました。「いえ、先輩たちの思いを遂げたのだと思います」。全ての戦いを終えて見せた、満面の笑顔でそう話してくれました。

卒業後は、同じく野球をしている姉のいる大学へ進学し、自身も野球を続けていくそうです。

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写真は筆者

フリーランスライター

関西を拠点に活動しています。主に、関西に縁のあるアスリートや関西で起きたスポーツシーンをお伝えしていきます。

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