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23年W杯フランス大会、日本はイングランド、アルゼンチンと同組に!

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
昨年のW杯で史上初の8強入りを果たしたジャパンは前回以上の成績を残せるか?(写真:ロイター/アフロ)

恐れていた事態が起こった――それが、14日に行なわれたラグビーW杯2023フランス大会のプール分け抽選会を見て抱いた素直な感想だった。

 すでに報じられたように、日本(最新の世界ランキングで10位)はイングランド(同2位)、アルゼンチン(同8位)と同組のプールDに入った。

 抽選を前に、南アフリカや日本など、新型コロナウィルスの影響で今年テストマッチを戦えなかった国が出たため、抽選日時点での最新ランキングではなく、昨年のW杯終了時点(20年1月1日時点)のランキングで1位~4位、5位~8位、9位~12位とグループ(バンド)分けが行なわれると決まった。このとき、史上初の8強入りを果たした日本は5位~8位のバンド2に入ることになり、これで強豪国との対戦が避けられる――という楽観論が流れた。しかし、残念ながら、結果は真逆だった。

 「死のプール」入りとなったのだ。

エディーが日本対策を授ける百戦錬磨のイングランド

 イングランドは、パンデミックで中断されたシックスネーションズが秋に再開されたとき、最終節でイタリアを破って優勝を遂げている。続いて行なわれたオータム・ネーションズカップでも、決勝戦でフランスとサドンデスの延長戦にもつれ込む死闘を22―19と制して優勝した。

 決勝戦こそ、若いフランスの気迫溢れるカウンターラックにブレイクダウンで後手に回り、キャプテンのCTBオーウェン・ファレルが80分間でPGを3本外す不調にも陥って危うく勝利を逃すところだったが、それでも79分にトライとコンバージョンで同点に追いつき、延長戦の後半5分に決勝PGを決めた。こういう粘り強さと、ここぞというときにスコアできる底力が、このチームには備わっているのだ。

 メンバー的にも、ファレル以下、LOマロ・イトジェやSHベン・ヤングス、WTBジョニー・メイといった昨年のW杯日本大会で南アフリカと決勝戦を戦った主力がごっそり残り、まさに百戦錬磨の猛者揃い。他のホームユニオン勢が新旧交代を上手く果たせずにいるなか、北半球の盟主にふさわしいパフォーマンスを見せている。

 何よりも防御が堅く、オータム・ネーションズカップでは、アイルランド、ウェールズ、フランスにそれぞれ1トライずつ許しただけで大会を終えている。つまり、トライを複数取られた試合がなかったのだ。

 おまけに、HCとしてチームを率いるのはエディー・ジョーンズだ。ジャパンの強みも弱みも知り尽くした知将なのである。真剣勝負となるW杯では、徹底的にジャパンを揺さぶってくるだろう。

強靱なフィジカルが堅守を支えるアルゼンチン

 アルゼンチンもまた、11月にニュージーランド代表オールブラックスをノートライに抑えて、25―15という大金星を挙げたばかり。しかも、その後にオーストラリアとも2試合戦っていずれも引き分けている。そのうち1試合はやはりノートライに抑えている。ニュージーランド、オーストラリアとそれぞれ2試合ずつ戦って1勝1敗2分けという成績は、彼らがコンディションの調整さえ上手くいけば、底知れぬ可能性を秘めていることを示しているのだ。

 堅守の要因は、彼らの強靱なフィジカルにある。

 前述のオールブラックス戦では、激しく前に出るディフェンスで防御ラインを押し上げ、タックルに入ったところから――つまり接点で――1歩も引き下がらなかった。結果、組織防御が崩れずに黒衣軍団をノートライに封じたのである。

 こちらは12月1日に、キャプテンとしてオールブラックス戦勝利にも大きな貢献を果たしたFLパブロ・マテラが、過去に人種差別的で外国人を嫌悪するようなツイートをしたことを理由に、オーストラリアとの最終戦を前にキャプテンの任を解かれ、他の2選手とともにアルゼンチン協会から出場停止処分を受けた。オーストラリアに遠征しての長い代表活動の最終週に起こった処分劇に、チームの精神的な動揺が懸念されたが、そんな状況でもオーストラリアと引き分けたのだから、肝は据わっている。

 SHトマス・クベリとSOニコラ・サンチェスのハーフ団のゲームメイクは多彩で、パワフルなランナーたちを、角度や方向を変えて投入する。オールブラックスも、この変化になかなか対応できなかった。

 ただ、クベリを欠くとアタックが単調になって、サンチェスのPG頼みとなる傾向がある。その分、サンチェスの負担は大きく、この辺りが数少ない弱点だ。

 プールDを、さらに「死のプール」たらしめているのが、オセアニア地区予選1位チーム、アメリカ地区予選2位チームと同組であることだ。

 こちらは来年から始まる各予選の結果を見ないと対戦相手が確定しないが、オセアニア地区から出てくるのはトンガ対サモアの勝者が有力だし、アメリカ地区からはアメリカ、カナダ辺りが入ってくる可能性が高い。

 ジャパンはサモアに15年、19年と2大会連続で勝利しているが、彼らのポテンシャルを侮れないのは周知の事実。また、前回大会は日本開催ということで、ジャパンは試合が必ず週末に組まれる恵まれた日程で戦えた。しかし、フランスでの開催となる23年大会は、そこまでの日程的アドバンテージは望めないだろう。アメリカ地区2位チームも含めて、対戦相手はみなフィジカルが強いだけに、変則日程に泣くような事態だって考えられるのだ。

ジャパンが「前回以上」に成績を残すためには?

 では、ジャパンが目標とする「前回以上」の成績を残すには何が必要か。

 まずは何よりもフィジカルの強い選手を揃えることだ。

 サイズの大小にかかわらず、タックルに入ったところから一歩も下がらず、逆にコンタクトしてきた相手を押し戻すような身体の強さが代表選手には求められる。

 その上で、先のオータム・ネーションズカップ決勝戦で、フランスがイングランドから奪ったトライのような、バックスの仕掛けで防御の裏に出て一気に攻め落とすような精度と緻密さが求められる。実際、フランスは、SOマチュー・ジャリベルが、立ち上がりからほとんど走らず、パスに徹していたところから一転。イングランド防御のわずかなギャップを見逃さずに勝負を仕掛けて抜け出し、FBブリス・デュランのトライにつなげている。

 つまり、これまでジャパンが結果を残したW杯同様(あるいは以上)に、フィジカルを徹底的に鍛え上げ、その上で、どんなプレッシャーのなかでもスペースを見つけて攻め落とすような賢さが、「前回以上」の成績を残すためには必要なのである。

 ハードワークが求められるのは言うまでもない。

 ジャパンは今年、新型コロナウィルスの影響でチームとしての活動ができなかった。

 イングランドやアルゼンチンがコロナ禍でもテストマッチを戦い、確固たる成果を残したのとは対照的だ。

 この、1年間のブランクが強化にどう影響するかも、23年大会を占う重要なポイントになる。もし、コロナの影響がなければ、ウェールズ、イングランド、スコットランド、アイルランドのホームユニオン勢すべてとテストマッチを戦えたのだから、実戦経験という面から見れば、これはかなりの痛手だ。

 一方で、昨年の大会終了までハードワークに明け暮れ、肉体的にも精神的にもギリギリの状態でプレーしてきた選手たちにとっては、今年は個人トレーニングを重ねながら休養もとれる“恵みの1年”となったことも事実。心身ともにリフレッシュして、来年1月16日開幕のトップリーグを戦い、その上で6月26日にスコットランドのエディンバラで予定されているブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとのテストマッチに向けたハードワークに取り組むことになる。

 これがプラスに働く可能性はかなりある。単なるリフレッシュにとどまらず、ずっと抱えていた故障箇所をじっくり治すこともできただろうし、ラグビーをプレーすることへの飢えも、強化にはプラスに働くだろう。その意味では、この期間にどれだけ充実した日々を過ごしたかが、23年の結果に跳ね返ってくるのだ。

各プールの顔ぶれが揃って、またハラハラドキドキの日々が始まる!

 最後に他のプールも紹介しておこう。

 プールAは、ニュージーランド、フランス、イタリア、アメリカ地区予選1位チーム、アフリカ地区予選1位チーム(ナミビアが有力)で、ニュージーランドとフランスが勝ち抜く可能性が高い。

 プールBは、南アフリカ、アイルランド、スコットランド、アジア・パシフィック予選1位チーム(トンガ対サモアの負けたチームが有力)、ヨーロッパ地区予選2位チーム(ルーマニアが有力)で、アイルランドとスコットランドは前回大会に続いて同じ組で8強進出を争う。

 プールCは、ウェールズ、オーストラリア、フィジー、ヨーロッパ地区予選1位チーム(ジョージアが有力)、最終予選勝ち上がりチーム(ウルグアイが有力か)。この組も、シードされた3チームの組み合わせは前回大会と同じだが、実はこちらもプールDに劣らず混戦となる可能性が高い。現時点では、ウェールズが新旧交代に苦しんでいるのとは対照的に、フィジーが着実に力をつけているからだ。

 オータム・ネーションズカップでフィジーは、チームにクラスターが発生したため、4試合中3試合が不戦敗となったが、最終週の順位決定戦に登場すると、強力なスクラムを誇るジョージアFWを押し込んで快勝している。

 フィジーの課題は、大会前にチーム全員を揃えた強化時間をどのくらい確保できるかにある。つまり、世界各国に散らばってプレーする選手たちが全員揃って練習する時間を長く取れさえすれば、素質的にはベスト8を狙えるだけのものを秘めているのだ。07年フランス大会で、ウェールズを破ってベスト8に残った実績だってある。フランスTOP14で活躍する選手も多く、地元の声援を浴びてプレーできるのも、台風の目に推す要因だ。

 さて、この組み分けで大会が始まるのは、23年9月8日。

 その日まで、またハラハラドキドキの楽しい時間が続くのだ。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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