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台風19号が日本にベスト8をもたらす? スコットランドとの横浜決戦に中止の可能性!

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
サモア戦でボーナスポイント獲得のトライを挙げた松島幸太朗(左)と福岡堅樹(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ジャパンがサモアから4トライを奪い38―19と勝ってプールAの首位に立った。

 緊張で動きがぎこちなかったロシア戦はともかく、アイルランド戦、そしてこのサモア戦と、ジャパンは「キッキングラグビー」を封印。パスを多用してボールを動かす「日本流」で3連勝して、国内に“にわかファン”を急増させている。

 ファンゾーンでは、ジャパンのレプリカジャージーが飛ぶように売れて品薄状態。海外からきたサポーターにつられるようにビールも飛ぶように売れている。知人に聞いた話では、生ビールの樽を大量に注文したスポーツバーに、問屋から「本当にこんなに仕入れて大丈夫なのか」と問い合わせが入ったものの、日本対アイルランド戦当日にきれいに売り切れたという。

 大会が始まる前は、放送権を持つテレビ局以外は比較的静観していたラグビーW杯が、今や各局のワイドショーやニュース番組で取り上げられて、4年前に南アフリカを破って「スポーツ史上最大の番狂わせ」と言われた当時の熱狂ぶりを、さらに上回っている。

 おかげで、あまり一般の日本人に馴染みのなかったこの大会が、お祭として一気にこの国に定着した。

たくましさを増した選手たち!

 この間、選手たちの成長ぶりには目をみはるものがある。

 特に、サモア戦で後半32分にトライを奪われて、26―19とワンチャンスで同点に持ち込まれかねない7点差になってからのプレーぶりは、たくましかった。

 途中出場のLOヘル・ウヴェが、SO田村優が蹴り込んだリスタートのキックオフを確保したサモアFWに突き刺さり、腕力でボールを奪って攻勢に出る。

 残る数分間に2つトライを奪えば、ジャパンに、4トライ以上を挙げたチームに与えられるボーナスポイントが転がり込む。

 4年前には同じサモアからボーナスポイントを奪えず、勝ち点差で大会史上初めてグループリーグで3勝しながらベスト8に進めなかったが、今はリスクを恐れずにトライを奪いに行けるところまで成長したのだ。

 しかも、選手たちは確実にパスをつなぎ、一度もボールを手放さなかった。

 左へ展開してWTB松島幸太朗がゴールラインに迫ると、今度は右方向にFWがボールを持ち出して、ゴールラインに向かって激しく挑みかかる。そして、ジャパンのFWの突進に備えて密集近くに固まったサモア防御を、最後はボールを大きく右に動かして引きはがし、途中出場のWTB福岡堅樹がトライを挙げた。

 ヘルが相手ボールを奪った瞬間に、「トライをとるんだ!」というスイッチが入り、それを全員が共有して、レフェリーに一度も止められずにノーホイッスルトライに仕上げたのだ。

 さらに終了間際には、田村がスペースに短いパスを出して、途中出場のCTB松田力也が突破。もう一度サモアのゴール前に迫って、松島がトドメのトライを奪った。

 最高の内容で、ジャパンが総勝ち点を14ポイントに伸ばしたのだった。

ベスト8がかかったスコットランドはリアリズムに徹して勝利を狙う!

 しかし、ジャパンのグループリーグ突破が、これで確定したわけではない。

 5日に逆転で破ったアイルランドも、13日に対戦予定のスコットランド(横浜国際 19時45分キックオフ)も、まだベスト8に到達する可能性を残している。

 この辺りのポイント計算は、さまざまな媒体で繰り返し報じられているのでここでは肝となる部分だけを記す。

 プールAの最終戦であるスコットランド戦を前に、もっとも可能性が高いと思われる並び順は、1位アイルランド(16ポイント)、2位ジャパン(14ポイント)、3位スコットランド(10ポイント)だ。これは、アイルランドがサモアから5ポイントを奪い、スコットランドがロシアから5ポイントを奪って勝つことを前提にしている。つまり、ジャパンにとって一番厳しい条件が揃った場合の想定順位だ。

 W杯の勝ち点は、勝利チームに4ポイント、引き分けた場合に両チームに2ポイントが与えられるが、それ以外に、勝敗にかかわらず4トライ以上挙げたチームに1ポイント、7点差以内で惜敗したチームに1ポイントが、それぞれ与えられる。

 つまり、勝利チームが獲得できる勝ち点の最大値は5ポイントで、負けたチームの最大値は2だ。

 で、前述した想定順位に戻れば、ジャパンは2ポイントを獲得すれば首位のアイルランドと16ポイントで並ぶことになる。しかも、規定で「勝ち点同数の場合は当該チーム同士の対戦で勝ったチームを上位とする」と定められているから、アイルランドに勝ったジャパンが1位になる。

 逆に、ジャパンがスコットランドから1ポイントも奪えずに敗れた場合は、日本は14ポイントにとどまってスコットランドに並ばれるか上回られるかのいずれかだ。勝ち点同数では当該チームの勝敗で順位が決まるから、ジャパンはこの場合、いきなり3位に転落する。つまり、これだけ日本中を沸かせながら、前回同様グループリーグ敗退という結果に終わるのだ。

 対戦相手のスコットランドは、過去8大会で、グループリーグ敗退が11年大会でアルゼンチンに1点差で敗れたときの一度だけ。それ以外は、勝利に徹したラグビーでベスト8に勝ち残っている。

 この、ベスト8がかかったときの戦い方が、なんというか、リアリズムの極致。相手の弱みを徹底的に攻め、レフェリーを味方につけるように戦うのだ。

 99年大会では、サモアが準々決勝プレーオフで、スコットランドにスクラム勝負を挑まれ、さほど押し込まれたわけではないのにペナルティトライを奪われて敗れている。

 03年大会でも、試合前に優勢と見られたフィジーが、真綿で首を絞められるような戦い方に苦しんで20―22で涙を呑んだ。

 当然、ジャパンに対しても、最大の弱点であるキック処理をつくべく、SHグレイグ・レイドローとSOフィン・ラッセルからキックの雨を降らせ、弱点をグリグリえぐると予想される。

 対するジャパンは、これまでのようにキックでボールを手放さずに積極的に動かし、高温多湿の気候に弱いスコットランド人を疲弊させるまで走らせるのがベストの戦い方だ。

 W杯本番でようやく到達できた、早くボールを動かしてスペースに運ぶラグビーを貫くことが、ベスト8を手繰り寄せる最良の方法なのである。

突然現れた予想外のファクター「台風19号」!

 ところが――。

 ここにきて予想外のファクターが現れた。

 週末に日本接近が予想される、大型で猛烈な台風19号だ。

 現在の進路予想では、対戦前日の12日に本州に接近。13日には、最悪の場合、上陸の恐れも出てきた。

 実は、台風18号が日本に接近したときも、福岡で2日に行なわれたフランス対アメリカ戦が、台風の影響で中止になるかもしれないという情報が発表された。幸いなことに進路が当初の予想よりも日本列島から離れたため、2日前の30日時点で試合開催が決定され、大会史上初の「中止」という事態を免れたが、今回は台風の勢力が強く、しかも、関東地方が台風の進路の東側――つまり、風雨がもっとも強い部分――にあたる可能性があり、これから中止も含めてどう対処するかがワールドラグビーと大会組織委員会の間で検討されることになる。

 日程が過密なグループリーグでは、悪天候の際に場所を移して代替開催する可能性はないとされ、対戦予定の両チームを0―0の引き分け扱いにして両チームに勝ち点2を与えることになっている。

 しかし、もし本当に試合が中止になってこの規定が適用されれば、ジャパンは労せずしてプールA1位となり、スコットランドは、逆転のチャンスを活かすことができず、戦わずして敗退する。

 日本ラグビーの悲願である「W杯ベスト8」が、こんな形で転がり込むのは喜ばしいことではあるけれども、一方で、アンチクライマックスな結末ということもできる。誰だって、ジャパンが4年前に、南アフリカ戦から中3日でチャレンジして10―45と跳ね返されたスコットランドに、同じ条件でリベンジしてベスト8を決める瞬間を見たいのだから。

 しかも、他ならぬ選手たち自身が、この対戦を熱望しているのだ。

 果たして、今や国民的関心事となったスコットランドとの「横浜決戦」は行なわれるのか?

 ここまで盛り上げておいて、台風で中止という“肩すかし”で日本のベスト8進出が決まるのがいいのか、それとも敗れるリスクを覚悟で正面からチャレンジして、実力で悲願を達成するのがいいのか――これから最終決定が下される「試合開始6時間前」(『日本-スコットランド戦、台風中止なら引き分け扱い』=日刊スポーツ )まで、大会を運営する関係者はもちろん、すべてのラグビーファンは、心に葛藤を抱えながら、天気図と気象情報に釘付けの日々を送ることになりそうだ。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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