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W杯開幕まで「あと500日」! ラグビーもまた「築城3年、落城1日」となるのか?

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
開幕まであと500日しかないのに、かつての“五郎丸フィーバー”はいずこに?(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 来年9月20日に開幕戦を迎えるラグビーW杯まであと500日となった。

 このニュースを、サンウルブズの快進撃といっしょに伝えることができれば、日本ラグビーの未来は明るいのだが、4月27日に遠征先のニュージーランドでハリケーンズと対戦した彼らは、15―43で敗れ、開幕以来負けっ放しの9連敗となった。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、サンウルブズが先制トライを奪い、後半も30分近くハリケーンズを守勢一方に追いやったことで、「今日の最終スコアは、試合全体を反映しているものではない。すべての側面において改善が見られた」と総括。W杯まであと500日のメモリアルデーを迎えることにも触れて「サンウルブズの目的の1つは、日本人選手に年数回のテストマッチを戦わせるだけではなく、こういった高い強度の試合経験を継続的に積ませることにある」と言い放った。

 コメントの字面だけを眺めれば、今は黒星続きでも、来年には日本代表の強化が果たされて、W杯に準備万端で臨めるようにも読めるが、実態は“真逆”だ。

 HC自ら「改善が見られた」と述べた内容も、日本的なラグビーからはほど遠い。

 HCがスーパーラグビーで好成績を挙げるために集めた選手たちの多くは、パスをするより自ら走り、突破することを得意とする「ランナー」だ。だから、ボールを持って走るときは力強く、コンタクトの局面でも見劣りしない。しかし、私たちが“日本代表に準じるチーム”に求める、パスをつないで相手防御に穴をうがつスタイルには適していない。

 そもそも、相手と接近した状態でピンポイントのパスを放れる選手が少ないのに、どうすればランナーを走らせることができるのか――というのが素朴かつ根本的な疑問。ベースボールで、一発長打を狙う4番バッターばかりを並べても打線につながりが生まれず、少ないチャンスを活かして効率的に得点を挙げることが難しいのと同じことだ。

コーチが「改善が見られた」と総括した試合のお寒い内容

 ハリケーンズ戦では、それがこういう現象となって表われた。

 たとえば10―14で迎えた前半29分。

 ペナルティキックを得たサンウルブズは、SH田中史朗が小さく蹴って速攻を仕掛けてNO8姫野和樹がゲイン。チャンスを作りだす。密集を作って左へ展開。田中からパスを受けたSOヘイデン・パーカーは左に待つCTBマイケル・リトルにパス。リトルは、相手防御に向かっていいスピードで直進する。しかも、左には、CTBラファエレ・ティモシー、FBウィリアム・トゥポウ、WTB福岡堅樹とラインができている。日本ラグビーがトライを奪う典型的な形だ。

 しかし、リトルはパスよりもランを選択。相手にタックルされたところで、オフロードパスを試みるが、左に並んだ3人は、その前にパスがくることを想定していたために対応できず、ボールは福岡に何とか渡ったものの、パスがスローフォワードと判定されてチャンスを逸した。

 リトルがオフロードを試みると察知したら、サポートの選手が瞬時にコースを替えて彼にぶつかるように走り込み、手渡しのような形でボールをもらいに行くのが「チームプレー」であるはずだが、そうした瞬間的な対応もできず、リトルもまた、パスすべきところでボールを離せなかった。

 “伝統のプレー”ができなかったのだ。

 後半の“健闘”も、ディーテイルを追えば、健闘というより課題山積と表現した方がいい。

 まず立ち上がりのキックオフをリトルが好捕してチャンスを作り、ラックから田中→パーカー→FLピーター・ラブスカフニとつないでゲイン。左には福岡が待つ。しかし、ラブスカフニは迷った末に自ら相手に突っ込んでノックオン。しかも、それをラブスカフニより前にいたサンウルブズの選手が拾って、ノックオン・オフサイドの反則を取られた。

 53分には、ラインアウトからモールを押し込んでチャンスを作り、ゴールポスト正面から左へとFWで攻めて、右に大きなスペースを作りだした。

 人数は3対3だが、最初にボールをもらう位置にいたWTBホセア・サウマキに、2人のディフェンダーが左右から挟み込むように飛び出したため、そこでパスを放れれば完全に2対1の状況ができていた。けれども、サウマキは、自ら“突撃”して捕まった。ここは、アドバンテージが出ていたので攻撃を続行できたが、こういうチャンスをモノにしなければトライは生まれない。

 63分には、パーカーからパスを受けたリトルが横に走り込んだHOジャバ・ブレグバゼにパスを通してきれいなラインブレイクを生んだが、そこからのアタックでテンポが落ち、キックで福岡を走らせたものの、ボールは結局タッチラインを割った。

 その前には、ターンオーバーで相手ボールを奪いながら、すべてのアタックがSH(この時間は田中から流大に交代していた)からの“ワンパス”で、ひたすら相手防御に突撃し、最終的にボールを失っている。

 ディフェンス理論が発達した現在のラグビーではそう簡単にスペースが生まれず、相手もまた密集戦で激しく抵抗してテンポ良くアタックするのを妨害するので、ワンパスの単調なアタックを繰り返す場面は確かに多い。けれども、そうやってひたすら突進を繰り返しながらも、どこかで外側に大きくボールを動かすチャンスを作り出す工夫をしなければ、相手防御は破れない。

 サッカーと同様に、いくらポゼッション(ボール保持時間)が相手より多くても、得点で相手を上回らなければ、ラグビーは勝利を得られないのだ。

 サンウルブズの個々の選手に対する海外メディアの評価は高く、実際、多くの選手が献身的に戦っている。しかし、個々の力をどうコーディネートするのかが明確でなければ、結果は出ない。

 だからこそ、この9連敗の原因は、HCその人にある。

 しかも、W杯まであと500日しかないというのに、肝心の日本人選手に経験を積ませることがおろそかにされて、スーパーラグビーは海外出身選手のセレクションの場と化している。

 これでは、肝心の「日本代表強化」という大目標が、いつまで経っても達成されないままだ。

エディー・ジョーンズが3年かけて築いたラグビー文化は落城寸前!?

 「築城3年、落城1日」という言葉が、政治の世界で言われて話題になったが、ラグビー日本代表もまた、エディー・ジョーンズが12年から15年まで3年以上の歳月をかけて築いた(というか復活させた)ラグビースタイルを、ジョセフHC就任以来の1年7か月で失った。

 サンウルブズは、12日にレッズと秩父宮ラグビー場で今季日本国内で最後となる試合を戦う(12時5分キックオフ)が、運営母体のジャパンエスアールは、当日に『スクールウォーズ』であの“泣き虫先生”を演じた山下真司さんを招き、ハーフタイムには主題歌『HERO』を歌った麻倉未稀さんのミニコンサートを行なうと発表した。

 落ち込みが著しい観客動員を少しでも回復させようという試みだが、現在のサンウルブズのラグビースタイルは、素早くパスを回して外にスペースを作るよう教えられてきたスクールウォーズ世代のラグビー観に、まったくマッチしていない。

 こんなラグビーをやったら、「泣き虫先生にボコボコにされるぞ」というのが、その世代でささやかれる笑い話なのである。

 マーケティング的にサポーターのコア層と考えられている人たちにまったく魅力的に映らない現在のスタイルが、それでも結果を出していれば、まだ多少の救いはあるが、現実は9連敗だ。しかも、日本代表の主力と思われている日本人選手たちの多くは、サンウルブズでスポット的に使われるばかりで、チームの主軸として活動していない。

 W杯まであと500日という、本来ならばお祭気分でラグビー場が盛り上がるべき時期に、W杯に向けた壮大な強化プランとして始まったスーパーラグビー参戦がこんな体たらくでは、「顧客」が抱く不安が一向に解消されない。しかも、15年W杯終了時に彼らの心のなかにあった高揚感は今や跡形もなく消え、彼らは秩父宮で歯ぎしりしながらラグビーを見ているのだ。

 あと500日。

 これを機にHCを解任し、挙国一致の強化スタッフで6月のテストマッチに臨む――それが、低迷するラグビー人気を一気に盛り上げる唯一のカンフル剤なのである。

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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