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韓国に苦戦した“ヤングジャパン”と、サンウルブズを破ったハイランダーズに見る「強さ」の違い。

永田洋光スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長
“ヤングジャパン”を率いて韓国に挑む流大キャプテン(撮影/齋藤龍太郎)

サンウルブズと若い日本代表を見比べてわかったこと

22日土曜日は、日本のラグビーファンにとって、せわしない午後だった。

12時7分に韓国の仁川でアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)第1戦・韓国対日本が行なわれ、試合終了後すぐに、今度はニュージーランドに遠征中のサンウルブズが14時15分からハイランダーズと戦ったのだ(いずれも日本時間)。

ARC韓国戦は、今春初めてのテストマッチだったが、この試合で初キャップとなったメンバーが11名いたことからもわかるように、その多くは、6月にルーマニア、アイルランドというヨーロッパの強豪と戦うことを見据えて可能性を試された若手たち。いわば、代表生き残りをかけたサバイバルマッチだった。つまり、“ヤングジャパン”とでも呼ぶべきチームだった。

ジャパンは47―29と勝利したものの、韓国に激しく食い下がられ、テストマッチがいかに厳しいものかを体感させられた。

一方のサンウルブズは、スーパーラグビー参入2シーズン目にして初めてのニュージーランド遠征第2戦で、前節のクルセイダーズ戦(3―50)より改善の兆しは見せたものの、世界最強国の奥深さと力強さを体験し、15―40で敗れた。

2試合続けてご覧になった方には、「なんか、日本に食い下がった韓国の姿がサンウルブズに重なるな」という感想を抱いたファンも多かったのではないか。

試合のレベルにはかなりの違いがあり、両者を単純に比較することはできないが、“格上のチームになんとしてでも食い下がり、あわよくば勝ちたい”というコンセプトは、確かに共通するものだった。ただ、問題は、挑戦を受けた側が捨て身のチャレンジにどう対処したか、という部分。その点においてハイランダーズはやはり世界有数の強豪であり、対照的にヤングジャパンは、非常にウブだった。

ハイランダーズはどこが「強い」のか?

まずハイランダーズの凄さから触れよう。

この試合、サンウルブズは、アタックのミスをターンオーバーされ、3分にトライを奪われていきなり先制されるが、11分にSO田村優がPGを決めて3点を返す。そこからゲームは膠着し、サンウルブズはハイランダーズから厳しいプレッシャーを受けながらもボールをキープし続けて、スコアが動かなかった。

ところが34分に、ハイパントの蹴り合いからWTB笹倉康誉がキャッチしに行ったときにボールがこぼれ、それをハイランダーズNO8ルーク・ホワイトロックに拾われて突破され、最終的にFLリーアム・スクワイアにトライを追加されてしまう。このとき、サンウルブズは誰も笹倉をサポートできなかった。それが失トライにつながった。

前半終了間際にも、防御が一瞬ぽっかり空いた密集の真ん中をハイランダーズが突破。サンウルブズ陣内に深く攻め込んでスクラムのチャンスをつかみ、そこからSHアーロン・スミスがトライを奪ってサンウルブズを一気に突き放した。

後半開始直後の2分にも、CTBマット・ファデスが鋭角的なランニングでサンウルブズ防御突き破ってトライを奪い、勝負を決めた。

サンウルブズに必死に食い下がられ、フラストレーションが溜まるような展開だったにもかかわらず、フィットネスが低下して集中力が途切れがちになる前半終了間際の10分間と、仕切り直しの後半立ち上がりに、ハイランダーズは一段“ギアを上げた”のだ。これが、「強い」と言われる所以である。

危機をみんなでカバーする意識がヤングジャパンには希薄だった

韓国と戦ったヤングジャパンは、2トライ2コンバージョンをアッサリ奪ったあとで反撃にあい、一時は14―12と2点差まで迫られた。

韓国の最初のトライは、ラインアウトモールから繰り出した、押すと見せかけてSHがボールを放すサインプレーで、これはもう相手を褒めるべき。ただし、その直後のキックオフからロングゲインを許して自陣ゴール前のラインアウトに持ち込まれ、そこから連続トライを奪われた辺りは、明らかに危機管理意識が欠如していた。

たとえば、その昔、元木由記雄さんが現役代表だった頃は、こういうときに「ここだ、このキックオフだぞ!」と必ず声をかけていた。

得点したあとのキックオフリターンからロングゲインを許すと、完全に相手が勢いに乗り、主導権を奪い返すのが難しくなる。そして、そういう認識を、ゲームリーダーだけではなく、ピッチの上にいる15人全員が共有できないと、ナショナルチームは体を為さない。だからこそ、リーダーが一声かけて改めて認識を共有し直す――その辺りの機微が、若いチームにはまだ周知徹底されていなかった。

それでも、そこから20分間で3トライを奪い、前半を35―12として折り返したところは評価できるが、後半立ち上がりのキックオフが拙かった。LO宇佐美和彦がキャッチミスしたボールが韓国に入り、そこからボールをつながれて、わずか14秒で韓国NO8イ・ヨンスンにノーホイッスルトライを奪われたのである。

しかも、続くキックオフでも韓国FLキム・ヒョンスにファーストタックラーがかわされ、次のタックラーがハイタックルの反則をとられてマイボールをキープできない。結果として、ゴール前に攻め込まれ、そこからSHシン・キチョル(素晴らしい選手だ!)にトライを許した。

最初のノーホイッスルトライについて宇佐美は「自分のせい」と振り返った上で、「個人的にもチームとしても反省の多い試合」と総括したが、1人のミスを他の14人がカバーするのがラグビーだ。

ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、「一番残念だったのは11人が初キャップだったにもかかわらず情熱が足りなかったことだ」と厳しいコメントを残したが、逆に言えば、残る12人のキャップ持ちが、彼らに思う存分「情熱」的なプレーをさせられるようサポートできなかった――と見ることもできる。

この辺りが(比べたらムチャクチャ可哀想だが)、ハイランダーズとヤングジャパンの決定的な違いだった。

29日は秩父宮で、ヤングジャパンとサンウルブズの戦いに浸りきろう!

とはいえ、サンウルブズも、ヤングジャパンも、29日に次の試合を控えている。

サンウルブズは、ニュージーランド勢の厳しい圧力にも少しずつ慣れて、ようやくボールを継続できるようになってきた。興味深いのは、これまで散々なデキだったSOヘイデン・クリップスが、途中出場するや、素晴らしいパスを通し、周りを走らせて少し名誉を回復したことだ。これまでゲームメイカーとしてすべてを1人で背負ってきたが、田村という司令塔がいることで安心してプレーに集中できたが故の好プレーにも見えた。

どんなに高いレベルでも、チームに「使う人」と「使われる人」が生まれるのは事実。理想は、23人全員が「人に使われるのも上手くて、人を使うのも上手い選手」であることだが、サンウルブズもヤングジャパンも、まだまだ発展途上のチーム。それが、これからの課題となる。

ジョセフHCは、このジャパンについて「スコアではなく、どこまで練習内容を試合に反映させられたかを見る」と言っているが、それがプレッシャーとなったのか、選手たちはゲームプラン通りに試合を進めようという意識が過剰となって、目の前の出来事に臨機応変に対処できていないような印象も受けた。その辺りは、それこそキャプテンのSH流大が、持ち前の強気のゲームメイクで仲間をどんどん使い倒して打開して行くしかない。

HCがどんなに優秀でも、ラグビーには予想もできないことがしばしば起こる。

あのW杯南アフリカ戦で、リーチ・マイケルがエディー・ジョーンズの「ショット!」という指示に反して逆転トライにつながるスクラムを選択したように、選手が指示をわきまえた上で一歩踏み出してこそ、チームは化けるのだ。

連休初日の29日の秩父宮。

今回の苦い経験を踏まえて流がどんなリーダーシップを発揮するか。

続くチーフス対サンウルブズ戦では、W杯でジャパンを率いたリーチに、サンウルブズの面々がどんな戦いを挑むのか。

韓国戦の後には、そのまま秩父宮でサンウルブズ戦のパブリックビューイングも予定されている。土曜日は、思う存分ラグビーに浸りきろう!

スポーツライター/週刊メルマガ『ラグビー!ラグビー!』編集長

1957年生まれ。2017年に“しょぼいキック”を連発するサンウルブズと日本代表に愕然として、一気に『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)を書き上げた。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。他に『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、共著に『そして、世界が震えた。 ラグビーワールドカップ2015「NUMBER傑作選」』(文藝春秋)などがある。

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