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アフリカの子どもに銃を取らせる世界(1)「電気自動車のふるさと」の子ども兵―コンゴ民主共和国

六辻彰二国際政治学者
コンゴ民主共和国北東部モンブワルの金鉱山の採掘場(2016.11.26)(写真:ロイター/アフロ)

 アフリカ中央部にあるコンゴ民主共和国の南キヴ州一帯では政府軍と武装組織の衝突が相次ぎ、1月26日までに130万人の避難民を出す事態となっています。この国では騒乱が絶えませんが、それはコンゴをとりまく「闇」が形となって現れたものといえます。

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「電気自動車のふるさと」の闇

 英国人作家ジョセフ・コンラッドは1899年、当時ベルギー領だったコンゴを船員として訪れた経験をもとに『闇の奥』を発表。この作品でコンラッドは、コンゴの一大産業となっていたゴムの農園で過酷な労働を強いられるアフリカ人の苦しみや、「未開の地」におけるベルギー人の傲慢さや精神的倒錯を描き出しました。

 それから100年以上の月日が流れた現在、この地はコンゴ民主共和国として独立していますが、それでも深い「闇」がとりまいています。同国では金、錫、亜鉛、タンタルなど豊富な資源が産出されますが、国連児童基金(UNICEF)は同国の鉱山で働く子どもの数を約4万人と推計。そのなかには、貧困によって自ら働く子どもだけでなく、親の借金のカタとして、あるいは誘拐されて連れてこられた人身取引の犠牲者も含まれるとみられます。

 最近、特に注目されるのは、スマートフォンや電気自動車で用いられるリチウムイオン電池の原料となるコバルトの生産を取り巻く「闇」です。英国地質調査所の統計によると、2015年段階で同国におけるコバルトの生産量は8万3529トン。世界全体の約56.4パーセントを占めます。しかし、その採掘も児童労働と無縁でなく、2016年1月の国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によると、同国のコバルト鉱山で10歳に満たない子どもが働いているケースや、1日1-2ドルの賃金のために10-12時間の労働を余儀なくされているケースも珍しくありません。

 ところが、コンゴ民主共和国の「闇」は、これにとどまりません。冒頭で述べたように、この国では騒乱が絶えず、そのなかでアフリカの他の国にも増して「子ども兵」が多く用いられてきました。そして、豊富な資源と子ども兵の問題は、分かちがたく結びついているのです。

アフリカの戦場を駆ける子ども

 ここでコンゴ民主共和国を含むアフリカの子ども兵について簡単に紹介しておきましょう。

 アフリカでは内戦やテロの広がりとともに、15歳に満たない子どもが戦闘員として使われることが珍しくありません。日本では「少年兵」とも呼ばれてきましたが、実際には「少女」も含まれるため、英語のChild soldiers に沿って「子ども兵」と呼ぶ方が適切です。

 子ども兵の利用は、反体制的な武装組織やテロ組織に限らず、正規の軍隊でさえみられ、その数は世界全体で約30万人にのぼるといわれますが、正確には不明です。

 「子ども兵」と一括りに呼ばれても、全員が戦闘員ではなく、雑用係や調理係、さらに性奴隷などの「任務」に就く子どももいます。子どもが軍事組織の一員となるルートは一つではありません。誘拐されたり脅迫されたりして、その意思にかかわらず兵士となることを強要されるケースもあれば、自発的に参加するケースもあります。

 その非人道性から、子ども兵は1989年の「子どもの権利条約」や2002年の「武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書」で国際的に規制の対象となっています。これに基づき、近年では国連を中心に子ども兵の解放を促す国際的キャンペーンも展開されており、UNICEFは2017年、過去10年間で軍務を解かれた18歳未満の子どもの数を世界で6万5000人と発表しています(各国の軍隊からの除籍を含む)。

 そのうちコンゴ民主共和国の人数は2万人にのぼり、これは飛び抜けて多い数字です。「解放された子ども兵の多さ」は、裏を返せば、それだけ盛んに子ども兵が用いられていることを意味します。

豊富な資源が支える「戦国時代」

 なぜコンゴ民主共和国で子ども兵が目立つのでしょうか。そこには武装組織の「独立」という問題があります

 東西冷戦が終結した1989年以降、外部の大国は味方となるアフリカの国や武装組織への支援を縮小。それにともない、アフリカ各国で反政府活動を行なっていた組織は、経済的、物質的な「独立」を余儀なくされ、そのなかで天然資源、木材、象牙、さらにヒトの密輸が横行するようになったのです。

 コンゴ民主共和国でも1990年代末から内戦が絶えず、国内に武装組織が林立してきました。その多くは基本的に民族ごとに地域に根を張った集団です。内戦が長期化し、政府が地方を管理しきれず、軍や警察が治安を維持できないなか、それぞれの土地を軍事力で支配する勢力が台頭した結果、現在では大小あわせて50以上の武装組織が林立。それはちょうど、室町時代後期の日本で幕府の権威・権力が衰えるなか、戦国大名や「悪党」と呼ばれた豪族がそれぞれの土地を軍事力でもって支配した状況に似ています。

 その多くは、豊富な天然資源を違法に採掘・輸出することで資金を得てきました。例えばキヴ州を根拠地とするルワンダ解放民主軍(FDLR)の場合、そのほとんどはフツという民族で構成され、金や錫などを主にルワンダ経由で密輸しているとみられます。折しもモノやカネが国境を自由に越えるグローバル化が進んだことで、アフリカの武装組織は「独立」しやすくなったといえます。

生きるために戦う

 こうして武装組織が「独立」したことは、二重の意味でコンゴの紛争を深刻化させました。

 まず、「内戦の日常化」です。資源を採掘し、それを輸出して利益を得ている勢力にとって、内戦の終結は、その利益を手放すことを意味します。いわば天然資源が豊富であるがゆえに、紛争の当事者に戦闘を終わらせる意思が生まれにくくなったといえます。

 それは反体制的な武装組織だけでなく、政府・軍でも同様です。国連は2017年8月、同国北東部のツォポ州で金鉱山の管理を行うコンゴ軍のクンバ将軍が天然資源の密輸を行っていると報告しています。

 次に、「内戦の低年齢化」です。

 内戦が長期化するなか、「独立」した武装組織には「人員の補充」をも自前で行う必要が生まれました。しかし、グローバルなテロ組織と異なり、ローカルな武装組織の「補充人員の調達先」はごく狭い範囲に限られ、しかも地域社会の大人からは警戒されがちです。その結果、大人より従順な兵士として、貧困に直面する若者や行き場のない子どもが用いられることが増えたのです。

 このような資源の違法な採掘・輸出によって「独立」した勢力が子ども兵を用いる構図は、コンゴに限りません。2006年に公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の映画「ブラッド・ダイヤモンド」の舞台となったシエラレオネなども同様です。

 しかし、コンゴの場合、その国土は234万平方キロメートルに及び、これは西ヨーロッパで面積の大きいフランス、スペイン、スウェーデン、ノルウェー、ドイツの合計に匹敵します。広大な土地の各地で「掘れば資源が出る」という状況は、結果的に他の国以上に「独立」した武装組織を林立させ、彼らによる子どもの利用を広げたといえるでしょう。

 母親に捨てられ、12歳の時から5年間FDLRのメンバーとして戦った経験のある少年は、アルジャズイーラのインタビューに以下のように答えています。「僕らは生き残るために、生きる場所のために戦っていた。だから茂みのなかにいたんだ。彼らが必要とした時、僕は戦った」。

「紛争鉱物」の取り締まり

 このような武装組織の「独立」がもたらす問題に対しては、国際的な取り組みもみられます。

 先述のシエラレオネなどでみられた「紛争ダイアモンド」への関心の高まりを受け、2002年に発足したキンバリー・プロセスは、ダイアモンドが武装組織の資金源となることを防ぐため、国際取引における原産地表示を義務化し、追跡性(トレーサビリティ)を高めて消費者が「倫理的なダイアモンド」を選択できるようにする取り決めで、2018年現在で日本を含む81ヵ国が参加しています。

 その後、規制の対象はダイアモンド以外の鉱物にも拡大。2012年に経済協力開発機構(OECD)が「紛争鉱物」の輸入に関するガイドラインを定め、これに沿ってコンゴ民主共和国からの金、錫、タンタル、タングステンの輸入は規制されています。これは武装組織の資金源を締め上げることとともに、子ども兵や児童労働を減らす効果も期待されます。

「紛争鉱物」規制の落とし穴

 ただし、「鉱物資源」の規制には限界もあります。アフリカでは公務員の腐敗が深刻で、ワイロで原産地証明や国境での検疫を「買う」ことは、「紛争鉱物」規制の効果を引き下げます。

 パブリック・ラジオ・インターナショナルの調査によると、南キヴ州に拠点をもつ5つの武装組織はルワンダやウガンダなど近隣諸国への密輸ルートをもち、控えめに見積もっても、金だけで1年間に3~6億ドル相当が密輸されています。その結果、近隣諸国からの金の輸出額は増加し続けていますが、「紛争鉱物」規制の対象になっていない国から輸出される資源は「紛争鉱物」とみなされずに売買されるため、先進国企業もそれを用いることになります。

 さらに重要なことは、「紛争鉱物」規制の対象が「反体制的な武装組織」に限られていることです。既に述べたようにコンゴでも軍高官などによる資源の密輸や、正規軍による子どもの徴用が報告されています。ところが、政府や軍は規制の対象にならないため、これら公的機関を通じた「紛争鉱物」は止まりません。

 リチウムイオン電池の原料であるコバルトに関しては、主に軍の管理下にある土地で採掘されていることもあり、OECDのガイドラインではコンゴからの輸出規制の対象になっていません。しかし、政府や軍による「紛争鉱物」への関与を考えれば、控えめにいっても「グレー」と言わざるを得ないでしょう。

 もちろん、「紛争鉱物」規制の効果がゼロだったわけではありません。実際、規制の導入によって資源の輸出はしにくくなり、コンゴ国内での買い取り価格を下落させてきました。

 ただし、それは同時に、思いもかけない逆効果ももたらしています。違法に取引している業者は公式の買い取り価格に左右されにくい一方、密輸に関与しない鉱山で働く人々ほど収入が減るというジレンマが生まれたのです。

 その結果、鉱山で働いていた子どもが「食えなくなって」武装組織に加入するという現象さえ報告されています。武装組織によって支配されない鉱山で働いていたという16歳の子ども兵は、2014年11月のワシントン・ポスト紙のインタビューに「もし鉱山でもっと稼げていたら、武装組織に加入しなかった」と答えています。

我々の日常、彼らの日常

 改めていうまでもなく、現代の我々の日常生活が多くのものを輸入することで成り立っています。しかし、その原料や製品が「クリーン」という保障はどこにもありません。言い換えると、我々の日常生活そのものが、アフリカで子どもに銃を握らせる大きな背景になっているのです。

 かといって、国産品だけで生活することも、文明の利器を手放すことも、多くの人にとって非現実的な選択です。また、「紛争鉱物」の規制が予期せぬ逆効果を生んだように、動機付けのよさが結果のよさを保証するとも限りません。

 こうしてみたとき、子ども兵をとりまく矛盾を正すことは容易ではありません。そのなかでせめて個々人ができることの第一歩は、消費しているものがどこからきているかを意識することです。彼らの日常は我々にとっての非日常ですが、我々の日常は、少なくとも部分的には、彼らの日常によって支えられているのです。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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