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アフリカに北朝鮮制裁の「違反国」が目立つ理由:北朝鮮問題のグローバルな余波

六辻彰二国際政治学者
北朝鮮に支援を受けていたウガンダ軍によって逮捕された過激派(2012.5.13)(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮によるICBM発射や水爆実験を受けて、国連安保理は9月11日にこれまでになく厳しい制裁を決議。北朝鮮の反発や、制裁の強化そのものをめぐる日米と中ロの駆け引きが目立つ一方、北朝鮮制裁は世界のめだたないところにまで影響をおよぼしています。

 最新の制裁決議の6日前の9月5日、国連の専門家パネルは北朝鮮制裁に関する報告書を発表。このなかでは、2006年の北朝鮮制裁の導入以来2017年8月に至るまで、10ヵ国以上のアフリカの国が制裁に違反してきたと報告されました。

 一般的に経済制裁は、「抜け道」があると効果があがりにくくなります。北朝鮮がアフリカのいくつかの国を「抜け道」にしていることは、これまでにも指摘されてきたことです。

 しかし、北朝鮮をめぐる制裁が加速度的に強化されているなか、このテーマはこれまで以上に重要性を帯びてきており、9月以降英語メディアで頻繁に取り上げられるようになっています。例えば10月25日、CNNは「北朝鮮のアフリカ・コネクション」と題する記事を掲載しています。

 なぜアフリカには「違反国」が目立つのでしょうか。また、「抜け道」を防ぐことは可能なのでしょうか。

「違反国」はどこか

 9月の報告では、シリアに加えて以下のアフリカ7ヵ国が国連決議に基づく武器禁輸に違反してきたと報告されています。

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 アンゴラ、コンゴ民主共和国(DRC)、エリトリア、モザンビーク、ナミビア、ウガンダ、タンザニア(アルファベット順)

 さらに、同報告書では、各国で著名な政治家などの銅像を製作することで北朝鮮の宣伝活動を担ってきた美術製作会社、万寿台創作社が以下の7ヵ国で活動していると報告されました。

 アンゴラ、ベナン、ボツワナ、マリ、モザンビーク、ナミビア、ジンバブエ

 重複する国もあり、合計ではアフリカ11ヵ国がリスト化されています。

 もちろん、アフリカのほとんどの国は制裁に協力しており、北アフリカを含むアフリカ大陸54ヵ国(モロッコがその領有権を主張し、日本が国家として承認していない西サハラを除く)のうち、「違反国」は約5分の1に過ぎません。

 とはいえ、地域レベルでみたとき、他の地域と比べてアフリカに北朝鮮制裁の「違反国」が目立つことは確かです。そこには、大きく4つの理由があげられます。

もともと「脅威」とみていない

 第一に、アフリカでは北朝鮮に対する警戒感が総じて薄いことがあげられます。イランに対する警戒で日本とヨーロッパの間に大きな温度差があるように、北朝鮮に対する日米の警戒感が世界全体で共有されてきたわけではありません。少なくとも今年になって北朝鮮がICBM発射や水爆実験を行う以前、特にアフリカの多くの国にとって東アジアの対立は縁遠いもので、北朝鮮は必ずしも「脅威」ではありませんでした。

 2016年段階で北朝鮮は158ヵ国と国交がありましたが、ここには英仏などヨーロッパの大半の国とともに、全てのアフリカの国が含まれていました。さらに、2016年段階で国内に北朝鮮大使館を置く国は47ヵ国あり、アフリカの国がこのうち3分の1に近い13ヵ国にのぼります。これらは北朝鮮に対するアフリカの警戒感の薄さを示します。

 一方、日米との対立が続く北朝鮮にとって、多くの国と国交があることは「国際的に孤立していないこと」を強調する手段となります。その意味で、貧困国が多くとも、国連加盟国の約4分の1を占めるアフリカは、北朝鮮にとって重要な足場といえます。北朝鮮政府は10月28日、その核兵器が「北朝鮮の主権を脅かす大国」に向けられたもので、アフリカを標的にしていないとアフリカ向けの声明で発表しています。

 ただし、アフリカ各国からみて北朝鮮はとりわけ親しみのある国とも限りません。平壌に大使館を構える24ヵ国のうち、アフリカの国はエジプトとナイジェリアだけで、これは各国の財政事情によるものとみられます。ともあれ、多くのアフリカ諸国からみた北朝鮮は「特に重視すべき相手ではないが、とりわけ警戒すべき相手でもない」といえるでしょう。

冷戦時代からのつき合い

 第2に、アフリカには北朝鮮と歴史的に深い関係にある国が多いことです。特に国連報告で取り上げられた11ヵ国の政府・与党の多くは、冷戦時代に東側陣営から支援を受けた経験をもちます

 例えば、アンゴラの与党・アンゴラ解放人民運動(MPLA)、エリトリアの与党・エリトリア人民解放戦線(EPLF)、モザンビークの与党・モザンビーク解放戦線(FRELIMO)、ナミビアの与党・南西アフリカ人民機構(SWAPO)、ジンバブエの与党・ジンバブエ・アフリカ民族同盟・愛国戦線(ZANU-PF)などはいずれも、もとをただせば冷戦時代に西側が支援する政府や組織と戦火を交えたゲリラ組織で、その時期に北朝鮮を含む東側から軍事・民生の両面で援助を受けた経験をもちます。また、タンザニアの革命党(CCM)は内戦こそ経験していないものの、冷戦期に東側から援助を受けていました。

 冷戦期に北朝鮮は「中国の後ろにくっついて」アフリカへの進出を開始。軍事援助やインフラ整備などを通じて、各国政府との関係を築いてきました。一方、奴隷貿易や植民地化だけでなく、独立後の政治的・経済的な介入もあって、西側先進国からの投資・援助を期待しながらも、その影響力が大きくなりすぎることに警戒感をもつアフリカの国も少なくありません。

 北朝鮮との関係を指摘された国のほとんどは、必ずしも西側先進国と敵対的ではありません。しかし、この歴史的な関係に基づく人的ネットワークと西側からの「独立志向」は、アフリカで「違反国」が目立つ大きな背景になっているといえます。

軍事援助の必要

 第3に、多くのアフリカ諸国が軍事力の強化の必要に迫られている一方、西側諸国が必ずしも軍事援助を強化していないことがあげられます。

 アフリカでもイスラーム過激派の台頭は目立ち、テロ事件は増加傾向にあります。アフリカを根拠地とするテロ組織がヨーロッパ方面に勢力を拡張することへの警戒感から、例えばEUは今年末までに5000万ユーロ(約6000万ドル)の資金協力を約束しており、フランスとドイツはニジェールなどに約5000人の兵員を派遣する計画です

 その一方で、欧米諸国は人権侵害の目立つアフリカ諸国の軍隊に兵器を提供することに慎重です。例えば米国には、人権侵害が疑われる国に軍事援助を行うことを禁じる国内法があります。

 そのため、アフリカ各国にとって、相手を構わず軍事援助を提供する北朝鮮は、少なからず存在意義があるといえます。国連報告で取り上げられた11ヵ国のうち、例えば国内にISが勢力をひろげつつあるコンゴ民主共和国に関しては、北朝鮮軍が兵員の訓練や9ミリ砲の提供などを行ってきたと報告されています。

 これに加えて、資源開発によって経済成長が進むアフリカ各国では軍の近代化が進められており、そのなかで北朝鮮はミサイルなど国際的に取り引きが規制されている軍需品を輸出しています。モザンビークやタンザニアでは、北朝鮮のHaegeumgang Trading Corporationが対空ミサイルS-125やレーダーを納入していたといわれます。

中国の影

 第4に、そして最後に、アフリカにおける中国の影響力が、これら各国が北朝鮮との関係を維持することを間接的に後押ししてきたことです。

 2000年代以来、中国はアフリカ進出を加速。最近ではユーラシア一帯をカバーする経済圏「一帯一路」構想にアフリカの一部も含まれており、アフリカにとっては中国が影響力を伸ばすほど西側先進国の影響力をかわしやすくなります。その中国が北朝鮮制裁に慎重な姿勢を保ってきたことは、国連制裁に率先してつき合わないアフリカの国を生みやすくしてきたといえます。

 さらに、アフリカで活動する中国系企業には現地の法令違反などが目立ちますが、中国政府はこれをほとんど管理できていません。8月25日、日本はナミビアで活動する中国系企業の青建を北朝鮮制裁の対象に加えましたが、中国政府による管理の限界に鑑みると、これが「氷山の一角」である可能性は大きいといえます。その場合、中国系企業の関与には北朝鮮に対するアフリカ諸国の警戒感をさらに押し下げる効果があります。

「違反国」は制裁に加わるか

 国連報告やそれを踏まえた国際メディアの報道を受けて、「違反国」では北朝鮮との関係を見直す発言が相次いでいます。

 9月13日、モザンビーク政府は国連制裁への協力を約束。10月20日にはAP通信が、ウガンダ副外相が北朝鮮の軍関係者などの国外退去を発表したと報じています。多かれ少なかれ、「違反国」とみられる国には国際的な圧力がかかっており、アフリカにおいて北朝鮮がこれまで通り活動することは困難とみられます。

 ただし、その一方で、制裁がアフリカで十分履行されるかは不透明です。例えば、ウガンダの場合、2016年にも今回と同様、北朝鮮との軍事協力を打ち切ると発表していましたが、今回の報告書によるとその後も北朝鮮との関係は残っていたことになります。ナミビアなど、その他の国でも同様の傾向があります。

 アフリカに限らないことではありますが、アフリカ各国政府の場合も、公式の声明と実行との間に少なからずギャップがあります。まして、冒頭に述べたように、アフリカにとって北朝鮮問題は縁遠いものです。それらに自発的な協力を促さない限り、形式的な取り締まりでは効果が薄いことは言うまでもありません。その意味で、北朝鮮制裁をめぐる問題は、関心の乏しい者の関心をいかにしてひくかという課題を浮き彫りにしているといえるでしょう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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