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保守党-北アイルランド地域政党のもとで英国はどこへ向かうか:EU離脱と国家統一のジレンマ

六辻彰二国際政治学者
閣外協力に合意した保守党とDUPの会見(2016.6.26)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

6月26日、英国・保守党は北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)との閣外協力に合意6月8日の総選挙で議席数を317議席にまで減らした保守党は、第5党(10議席)DUPとの協力で、かろうじて議会(定数650議席)過半数を確保しました。一方のDUPは、保守党支持と引き換えに、北アイルランドに対する10億ポンドの追加予算を取り付けました

しかし、新政権のゆくえには、暗雲が立ち込めています。

メイ首相は、3月29日、EUに正式に離脱を通知。2年間で交渉をまとめる必要があります。

2016年6月のEU離脱をめぐる国民投票で、保守党ですら分裂したなか、党として「離脱」を鮮明にした政党は少なく、DUPはその数少ない例外の一つでした。基本的な考え方に近いところがあるにせよ、この点がメイ首相とDUPの協力を生んだ最大のポイントだったといえます。

その一方で、保守党とDUPの間には、EU離脱に関して深刻なギャップもあります。さらに、「英国の統一」を強調するDUPの台頭で、かえって英国の一体性が損なわれることも懸念されます。

新政権樹立後に英国のゆくえについて考えます。

DUPとは

DUPは「英国の一部としての北アイルランド」を強調する政党で、1971年に発足。民族主義的、キリスト教保守派的な傾向が強く、伝統、文化、家族などを重視する一方、性的少数派の権利や移民・難民の受け入れには否定的です。DUPのEU離脱支持は、経済よりむしろ、「文化的な同一性」に基づく移民・難民の拒絶によるものです。

DUPの特徴は北アイルランドの歴史と不可分のものです。

DUPの拠点である北アイルランドは、17世紀に英国に編入されました。以来、ブリテン島から渡ってきた英国国教会信者(プロテスタント)と、もともとアイルランドに多いカトリック信者は、ことあるごとに対立。国教会信者によって北アイルランドの実権が握られるなか、宗派の違いが政治的・経済的な格差に結びついたことで、対立は加熱していったのです。

特に1970年代以降、アイルランド共和国への編入を求める「ナショナリスト(民族派)」と、英国の一部であることを重視する「ユニオニスト(統一派)」の対立は激化。爆弾テロや襲撃が相次ぐなか、「内なる植民地」である北アイルランドの問題は、英国で「ザ・トラブル」と呼ばれるようになったのです。

DUPは、このうちユニオニストの系列に属する政党(だから党名に「統一」が入っている)で、英国の伝統や文化を重視する点では保守党とも共通します

メイ首相の選択肢

しかし、いわば当然ですが、DUPには保守党との違いもあります。特にEU離脱をめぐる両党の違いは深刻です

ロイターの整理にしたがうと、EU離脱に関して、これから6つのシナリオがあり得ます。

  • ハードだが円満な離脱(単一市場から離脱し、EUと自由貿易協定を結ぶ)
  • 合意なしのハードな離脱
  • 離脱を撤回
  • 離脱を延期
  • (国民投票で「離脱」支持が多かった)イングランドだけ離脱
  • ソフトな離脱(単一市場に残留)

ハードな離脱の「ハードさ」

これらのうち、メイ首相は「ハードだが円満な離脱」を目指してきました。しかし、これは加盟の負担(拠出金や難民受け入れなど)を負わないままに、単一市場との「特別な関係」による利益を得ようとするもので、EUにしてみれば「虫がよすぎる」話です。「タダ乗り」を認めてしまえば、悪しき前例になるため、EUにとって認められるものではありません

そのため、メイ首相は「悪い取り引きなら、取り引きしない方がよい」とも述べており、「EUとの交渉が行き詰まった場合には合意なしでも離脱する」という最強硬の方針も示唆しています。しかし、その場合、EUとの自由貿易協定の締結は、さらに困難になるでしょう。

さらに、今回の総選挙での「敗北」を受けて、保守党内からも強硬路線を改めるよう求める声が噴出。「ハードな離脱」はさらなる逆風にさらされています。

これに加えて、「ハードな離脱」をさらに難しくしているのが、DUPとの関係です。DUPはEU離脱そのものは支持していますが、フォスター党首は「ハードな離脱」を拒否。ヨーロッパ大陸との貿易で北アイルランドに関税が課されることに反対する姿勢が鮮明です。こちらも「虫がよい」話ですが、フォスター党首は国民投票で離脱に反対した人々の希望の星になるというねじれも生んでいます

いずれにせよ、DUPとの協力により、EUとの合意の有無に関わらず「ハードな離脱」はさらに難しくなったといえます。

「雪隠詰め」のメイ首相

かといって、あの国民投票の結果を踏まえて就任したメイ首相にとって、「離脱の撤回」を選ぶことはほぼ不可能です。フランスのマクロン大統領は「残留のための交渉のドアは開かれている」と述べていますが、これはフランス人的皮肉とみた方がよいでしょう。

また、「ソフトな離脱」は、メイ首相の拠り所になっている離脱支持者を満足させるものではありません。

さらに、離脱交渉を始めた以上、EUは早期にこの問題を決着したいため「延期」に応じる見込みは薄く、メイ首相も「延期はない」と断言しています

最後に、「イングランドだけ離脱」という選択は、「英国の一体性」だけでなく、ヨーロッパ大陸との無関税貿易を求めるDUPにとって「本末転倒」になります。その場合、北アイルランド-EU間で関税がかからない措置を講じるためには、「北アイルランドとEUから離脱したイングランド」との間に貿易障壁を設けなければならなくなるからです(これに関してはEU残留を求めるスコットランドも同様)。

こうしてみたとき、DUPが方針を変更しない限り、メイ首相は遅かれ早かれ、行き詰まりかねません。その場合、メイ首相が辞任に追い込まれるのはもちろんですが、保守党とDUPの関係は大きく変わらないため、誰が首相になろうとも、混迷がさらに深まることが見込まれます。誰しも「ババ」を引きたくないため、それを今のメイ首相は保守党内での自分の存在価値にしているとさえ言えるかもしれません。

DUPが方針転換する可能性

だとすると、メイ首相率いる保守党にとって、一周回って「ハードな離脱しかない」という結論に行き着くことも充分あり得ることです。実際、総選挙での「敗北」後に示された施政方針でも、EU離脱に関しては単一市場・関税同盟からの脱退や移民制限などの方針が維持されています

総選挙後、保守党内部からも「ハードな離脱」に反対する声があがるなか、メイ首相はあくまで「ハードな離脱」を目指す構えです。そこでの焦点としては、「DUPが方針を転換するか」があげられます

DUPがメイ首相に協力することは、可能性としては低くないとみられます。

スコットランドなどと同様、イングランドと比べて、北アイルランドは所得が低く、そのため2016年の国民投票でも55.8パーセントが「残留」を支持。これだけみれば、DUPが「EUとの無関税貿易」を諦める必然性は低いようにみえます。

その一方で、政党にとって、不特定多数の世論より、固い支持基盤の意見の方が重要になりがちなのは、日本で女性・女系天皇を支持する人が8割以上いるなかで自民党がこれを基本的に黙殺していることからもみてとれるように、珍しいことではありません。

DUPの優先事項とは

その成り立ちをみれば、DUPにとっての優先事項は「EUとの取り引きで恩恵を得ること」より「英国の一部であること」にあるといえます。つまり、その支持者にとって地域政党DUPは、「カトリック信者あるいはナショナリストの影響を抑え、『自分たち』が北アイルランドの中心であり続けるようにすること」にこそ存在意義があります

ユニオニストの立場からすれば、これは保守党には期待できないものです。英国の伝統や歴史を重視する点で共通しながらも、ユニオニストにとって保守党は因縁のある相手なのです

1990年代、保守党のメージャー政権は爆弾テロを繰り返していたアイルランド共和国軍(IRA)を取り締まる一方、ナショナリスト政党のシン・フェイン党とも交渉を重ね、北アイルランド自治に向けた下準備を進めました(1998年に労働党政権のもとで両派が参加する北アイルランド議会設置のためのベルファスト合意が成立)。また、ナショナリストの勢力拡大に反発するユニオニストの暴動が激化した2013年、やはり保守党のキャメロン政権は、これを批判して取り締まりを強化。これらがDUP支持者やユニオニストの目に、「ザ・トラブル」の解決に向けてロンドンの保守党政権が自分たちを「切り捨ててきた」と映ったとしても不思議ではありません

だとすると、DUPにとって優先すべきは「北アイルランドが英国の一部であることや、この地で(彼らのいう)『英国らしさ』を守ることを、ロンドンに認めさせること」になります。その確約を得るために、DUPがEU離脱に関して保守党に「恩義を売る」とするなら、いわば合理的な戦術とさえいえるかもしれません。

前門の虎、後門の狼

しかし、DUPが「EU離脱」をテコに「国内統一」を進めることは、英国あるいは保守党にとって、別の大きな懸念を呼ぶ材料になりかねません。

シン・フェイン党は、DUPが「勝ち取った」北アイルランドへの追加予算そのものは評価しながらも、保守党の後ろ盾のもとにDUPが勢力を増すことは、1998年の和平合意で定められた「英国政府の中立性」を脅かすと警戒を隠しません。また、メージャー元首相も「暴力への回帰」への懸念を表明しています

その一方で、DUPの閣外協力によって北アイルランドに追加予算が配分されることに、スコットランドやウェールズからは「公正な資金配分が損なわれる」と批判が噴出

保守党強硬派が「EU離脱を途中で降りられない」なかで進めた、「英国の統一」を求めるDUPとの政権協力は、かえって北アイルランドだけでなく英国の分裂のアクセルになっているといえます。

英国はどこへ行くのか

複雑な変数のなか、先述のように、現状においてメイ首相は「ハードな離脱」を基本的に維持しているようです。そして、(北アイルランドへのさらなる支援など)条件次第でDUPがこれに協力する可能性は小さくないといえます。

しかし、それは「円満離婚」にはほど遠いもので、英国、EU双方の経済にとって少なからずダメージになることは避けられません。それはさらに、「英国の統一」を強調すればするほど分裂が進むというジレンマも呼んでいます。

引き際を誤まったメイ首相のもと、そして国民投票で「離脱」を選びながら総選挙で保守党を敗北させるなど、錯綜した民意のもと、英国自身が「ザ・トラブル」への道を進んでいるといえるでしょう

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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