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プロ指名漏れの元エース左腕 日本に渡り大阪・履正社学園で努力を重ね、25歳で母国の1軍マウンドに

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
ハン・ドゥソル(写真:SSGランダーズ)

韓国の野球名門校のエースとして18歳以下の代表にも選ばれた左腕が高校卒業から7年、ようやく1軍のマウンドに立った。その道のりには日本に渡り、大阪で過ごした努力の日々があった。

街中でも雪の日でも続けた鍛錬

韓国KBOリーグ・SSGランダーズに所属するハン・ドゥソル(25)は17歳の時、野球名門校・光州(クァンジュ)一高のエースとしてU18韓国代表入りを果たした。しかし高3夏のドラフトでの指名は無し。ハンが選んだ進路は「日本で野球を続ける」ことだった。

2015年春、ハンは大阪府の履正社国際医療スポーツ専門学校の野球コースに入学した。同コースは社会人野球チーム、履正社学園の選手として活動出来るというのが特徴だ。ハンについて同チームの土井幸大(こうた)監督は当時を振り返った。

「努力家という言葉では失礼なくらい、周りのことは気にせず一生懸命に頑張っていました。その頃のハン君は体は大きいですが体幹が弱く、コントロールにばらつきがあって自信もなさげでした。色々なことを試す中で『ランジをやったらどうか』と言ったら、ずっとそれを繰り返していました」

「ランジ」とは片足を1mほど前に踏み込み、前の足の膝を90度に曲げ、重心を地面に向かって沈みこませる動き。足の前後を入れ替えたり歩行することで、体幹や下半身を鍛えるトレーニングだ。

「吹田のエキスポシティというショッピングモールの周りを、ハン君がランジの姿勢でずっと歩いていたという目撃情報をよく聞きました。また冬の休日には雪が降る中、グラウンドで一人でランジを続けていて、戻ってきた時には体から湯気を出しながら、頭の上に4、5cmの雪が積もっていたのが印象に残っています」(土井監督)

ハンの1年後輩で、現在は履正社ベースボールクラブの監督を務める大田将也氏も「ハンさんはとにかくストイック。常に一生懸命で『上(プロ)でやりたい』と言っていました」と話した。

「ヤバいくらい真面目」な愛されキャラ

土井監督はハンとの思い出を楽しそうに語る。

「すごく頑張っていたので、韓国に帰る時にスタッフそれぞれがお別れ会を開きました。僕の家でもたこ焼きパーティーをして、あいつ100個くらい食べましたよ。喰い過ぎやろって(笑)」

ハンは専門学校を卒業し帰国。18年にKTウィズに育成選手として入団し、夢のプロ野球選手になった。だが1年目にファームで45試合に登板するも1軍昇格はなし。その年限りで戦力外通告を受けた。退団後のハンは韓国の成人男子の義務、約1年半の兵役(軍服務)の日々を過ごした。

除隊したハンは、プロ復帰を目指して21年途中にSSGの入団テストを受けると見事合格。再びユニフォームに袖を通した。そこでもハンの真剣な姿は変わらなかった。SSGの芹澤裕二2軍バッテリーコーチはハンのことを、「ヤバいくらい真面目」と表現した。

「1日中トレーニング室でシャドーピッチングや補強運動をやっています。韓国では珍しく、とても体に気を遣っている選手です。あんな選手は初めて見ました。一番頑張っていると思います」

SSGで2年目の今季はファームで好成績を残すと5月3日に1軍に昇格。6日のキウムヒーローズ戦でプロ初登板を果たした。その試合と12日のサムスンライオンズ戦ではいずれも1回を打者3人に抑える好投。平均145キロの直球とスライダーを低めに集めた。

その映像を履正社学園の土井監督に見てもらうと、「一緒にやっていた時より、テークバックが極端に小さくなった気がします。よく投げていると思います」と話した。

3度目の登板のトゥサンベアーズ戦では打者2人にヒットと四球を与えて2失点。その5日後には1軍エントリーを抹消となったが、ファームで安定感のある投球を続けると6月3日に再登録。同日のLGツインズ戦の6回に登板し1~3番を三者凡退に抑えた。

レジェンド左腕も可能性に期待

3日のテレビ中継でのこと。元中日ドラゴンズの左腕投手でメジャーリーグでのプレー経験もある解説者のイ・サンフン(サムソン・リー)氏が、ハンの可能性について言及。そしてハンに呼びかけた。

「コンパクトな腕の振りがメジャーで活躍したクローザー、ビリー・ワグナーを思わせる。もう少しボールの角度が鋭くなったら、いいピッチャーになる能力があります。『ハン投手、試合が終わったらビリー・ワグナーの動画を探してみてください』」

また履正社学園の人たちのハンへの思いも高まっている。

土井監督は「ハン君は前まで悩んだ時には連絡してくれましたが、最近はなかったので『うまくいっているのかな?』と思っていたところでした。今回の1軍登板を聞いて、スタッフみんなが大喜びしています。早速動画を共有しました」と声を弾ませた。

また後輩の大田氏は「1軍で投げたと聞いてすごいなと思っています。今の学生たちにも励みになります」と話した。

重ねた努力が実ろうとしている25歳の左腕投手ハン・ドゥソル。彼の今後の飛躍を大阪で見守っている人たちがいる。

⇒ SSGランダーズ紹介(ストライク・ゾーン)

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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