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「清原の分身」として生きる48歳 リトル清原「仕事ゼロ」でも通す男気

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
清原和博さんの「分身」として生きるリトル清原さん(写真:ストライク・ゾーン)

2020年6月15日、覚せい剤取締法違反で4年前に逮捕された、元プロ野球選手・清原和博さん(53)の執行猶予期間が満了した。

多くの野球ファンが清原さんの今後の活動に注目する中、筆者は「もう一人の清原」がどう過ごしているのか気になっていた。清原さんのそっくりさんとして活動する、リトル清原さん(48、以下リトルさん)のことだ。

「好きな選手と顔が似ている」が原点

身長168センチと清原さんより約20センチ小柄なことを除けば、佇まいはご本人そのままのリトルさん。彼は今年6月をどう迎えようとしていたのか。

「特別に何かしようというのはなかったですね。清原さんが実際にどういう活動をするのかわからなかったので、ご本人の邪魔をしないということを考えていました」

リトルさんは常に「自分が何をしたいか」ではなく、清原さん本人の動きが、自身の行動指針となっている。そもそも、なぜリトルさんは清原さんに心酔し、今の仕事をするようになったのか。

「小学校低学年の時、地元(埼玉県)に西武ライオンズがやってきて、友の会にも入って応援していました。そこに高校生の時からスターだった清原さんが入団して以来、一番好きな選手が清原さんです。『ここで打って欲しい』というところで打ってくれるのが魅力でした」

「高校生になると『清原に(顔が)似てる』と言われるようになって、大学に入ったら会う人全員が『清原!』と声を掛けてきました」

憧れの人に顔が似ていくという運命めいたものに引っ張られ、「笑っていいとも!」などテレビの素人参加コーナーに顔そっくりさんとして出演するようになったリトルさん。しかしそれを仕事にしようと当時は思っていなかった。

「大学で電気工学を勉強していたので、卒業後は電気工事関係の会社に就職しました」

ところが20代後半、転職先を探していた時に、母親の「テレビでそっくりさんを募集している」という言葉を耳にして応募。再びテレビ出演が決まり、本格的な活動が始まった。

「その番組(ものまねバトル大賞)で、初めてものまねをやったらウケてしまいました。ただ、何が面白いのかわからなくて不思議でした。やろうと思って始めたわけではないんですが、『やっていたら大好きなご本人に会えるかも』と思って続けていたところがあります」

清原さんが投手の内角攻めにカッとするシーンなど、高い再現力を見せるリトル清原さん(写真:ストライク・ゾーン)
清原さんが投手の内角攻めにカッとするシーンなど、高い再現力を見せるリトル清原さん(写真:ストライク・ゾーン)

口下手で一本気な性格

リトルさんがテレビデビューした2000年、同時期に松井秀喜さんのものまねで、はなわさんがブレイク。はなわさんとの「MK砲」での共演もあって、リトルさんは数多くの番組に出演した。

「最初の年が一番テレビに出ました。ですが元々芸人ではないので気の利いたことも言えず、テレビ以外のイベントとかの仕事はしていなかったので、ものまねタレントとしては食べていけなかったです。だから親からは怒られました」

笑いを主戦場にしているタレントさんは普段からにぎやかで、盛り上げるような話し方をする人が多い。しかしリトルさんはどちらかというと口下手だ。

ステージでも野球ファンにはたまらない「清原模写」を見せるものの、それを無理に笑いに変えようとはしない。多くの人の爆笑を誘う「ものまねタレント」というカテゴリーではないと筆者は感じていた。

「テレビに出初めの頃はタレントっぽくしようとしましたが、全て空回りでした。『他の人のものまねもやって、30分のショータイムができるように』と、周りから勧められたこともあります」

「ただ僕は清原さんに顔が似ていて、清原さんが好きだというだけ。そもそもタレントには向いていないとわかって、『無理をするのはやめよう』と決めました」

西武のユニフォームも持っているが、在籍当時のイメージと今の容姿が違うため、着る機会は少ないという(写真:ストライク・ゾーン)
西武のユニフォームも持っているが、在籍当時のイメージと今の容姿が違うため、着る機会は少ないという(写真:ストライク・ゾーン)

清原ファンの言葉でわかった自分の使命

4年前の清原さんの逮捕はリトルさんにどんな影響があったのか。

「決まっていた仕事は9割キャンセルになりました。僕も『仕事をやっちゃいけないんじゃないか、続けていいのか?』と思いました。しかしプリティ長嶋さんが『リトルは仕事がなくて大変だ』と発信してくれて、そんな時でもイベントに呼んでくれる地方の人がいました」

リトルさんはその時、全国にいる清原ファンの存在を実感。そしてこんな言葉をかけられたという。

「俺は今でも清原ファン。清原に元気と勇気をもらってきた。だからファンはやめない。本人は捕まっても、リトルには清原のことを伝えていって欲しい」

その言葉を聞いてリトルさんは、「やっていいんだ」と仕事を続けることを決めた。

リトルさんがイベントなどで披露するネタは10分に満たない。その内容は清原さんの現役時代の名シーンを切り取ったもので、何年も変わっていない。

「清原さんのことを知らない人のところに行って、無理に頑張ることはやめました。僕を求めてくれるところに行けばいい、存在が嬉しいと思ってくれる人のところに行くことにしました。だからテレビで清原さんを変に扱うような企画の時は、出演をお断りすることもあります」

「番長キャラ」のスイッチを切ると優しい表情を見せる、和歌山ファイティングバーズのユニフォーム姿のリトル清原さん(写真:ストライク・ゾーン)
「番長キャラ」のスイッチを切ると優しい表情を見せる、和歌山ファイティングバーズのユニフォーム姿のリトル清原さん(写真:ストライク・ゾーン)

一途に分身として生きる

リトルさんには企業パーティーや結婚披露宴の余興、また飲食店の一日店長などで全国から声がかかる。その場にいれば一緒に写真を撮りたいと思わせる存在感は絶大だ。また仲間のものまねタレントが出演するイベントを、音響スタッフとしてサポートすることもある。

しかし今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、状況は一変した。

「3月以降、去年の仕事が100だとしたら今年はゼロ。イベントは入っても月に1回位で、収入はお世話になっている飲食店「チャーシュー力(りき)」(埼玉県三芳町)でのアルバイトが中心です」

一方で新たなスタートもある。今年からさわかみ関西独立リーグの和歌山ファイティングバーズの応援団長に就任した。

「これまでなかなか縁がなかった野球関係の仕事ができて嬉しいです。このチームには生島大輔(34)という大阪桐蔭高でキャプテンを務め、早大からJR東日本に進んだ選手がいます。彼のひたむきな姿には惹きつけられますね」

和歌山ファイティングバーズの公認応援団長に就任
和歌山ファイティングバーズの公認応援団長に就任

そっくりさんではあるが、ものまねタレントとも異なるリトルさん。自身の肩書について尋ねると、少し考えてこう口にした。

「清原さんの『分身』ですね。清原さんが活躍したら周りの人は僕に喜びを伝えてきます。ダメな時は文句も言われるので、いつも清原さんとリンクしています」

不器用なところもご本人と通ずると感じさせるリトル清原さん。これからも一途に「分身道」を歩んでゆく。

◇リトル清原さんプロフィール

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韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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