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選手会提案の「現役ドラフト」 韓国では8年前から実施。その成果は?

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
「現役ドラフト」をきっかけにエースになったイ・ジェハク(写真:NCダイノス)

日本プロ野球選手会(以下、選手会)が導入を要望している、出場機会に恵まれない選手の移籍を活発化させる制度「現役ドラフト」(仮称:ブレークスルードラフト)。韓国KBOリーグでは「2次ドラフト」という名称で2011年から実施されている。その内容と現況をまとめた。

韓国野球委員会(KBO)は2011年3月の実行委員会で、メジャーリーグの「ルール5ドラフト」を参考にした制度、2次ドラフトについて審議した。

韓国での制度導入の目的は、日本の選手会が提案している「出場機会の確保、飼い殺しの防止」だけではなく、戦力の均衡化が主体。翌12年に9球団目(当時)となるNCダイノスの新規参入に合わせて、導入が検討された。

当初、球団ごとに設定するプロテクト選手(獲得できない選手)の人数は50人で検討されたが、6月の理事会で45人、最終的に40人で決まった。

韓国の2次ドラフトは2年に1度の実施。11年11月に初めて行われて以後、今年11月20日の2次ドラフトが5度目となった。

これまでプロテクト選手40人という数は変わらず、若干の変更のみで続けられている。現在の制度ではその40人の他、FA権を所持する選手、外国人選手、プロ1、2年目の選手(育成、軍入隊中の選手を含む)も2次ドラフトでは指名出来ない。

実施方法は当該年度の順位が下のチームから順に指名。3巡目(3ラウンド)まで行う。指名した球団には指名順ごとに異なる補償金が発生し、1ラウンドは3億ウォン(約2,700万円)、2ラウンドが2億ウォン(約1,800万円)、3ラウンドが1億ウォン(約900万円)を元の球団に支払う必要がある。指名される側の球団の最大制限人員は4人だ。

過去5度の2次ドラフトで一番の成功例と言われているのが、初実施となった11年にNCが指名した投手のイ・ジェハクだ。

右のスリークォーター投手のイ・ジェハクは高卒3年目を迎える21歳の時にトゥサンからNCに移籍。それまでの成績は16試合1勝1敗、防御率5.01だったが、NCの1軍参入初年度の13年に先発として10勝をマーク。以後、16年まで4年連続2けた勝利を挙げ、チームのエース格として活躍を見せた。

しかしその後の2次ドラフトではイ・ジェハクのように埋もれていた逸材が発掘されたというケースは少なく、どちらかというとプロテクト漏れした古株の選手が移籍し、再び出場機会を得て活躍するということが目立つ。

15年オフの2次ドラフトでは「国民的右翼手」として名を馳せた、その年のLGのキャプテン、イ・ジンヨン(当時35歳)がプロテクト漏れし、KTが指名。新球団の主力選手として結果を残した。

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その他にも17年にロッテに指名されKIAから移籍した左腕投手のコ・ヒョジュン(当時34歳)は、新天地でリリーフ投手として再び機会をつかみ、36歳の今年はリーグトップの75試合に登板した。

同じくロッテではコ・ヒョジュンと同じ年にロッテに指名されたリリーフ右腕のオ・ヒョンテク(トゥサンから。当時32歳)も役割を得て、移籍した年に72試合に投げている。

先月20日に行われた今年の2次ドラフトでも長らく代表チームのセカンドを務めたチョン・グンウ(37)がハンファの保護リストから外れ、LGに指名されている。

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その他にも投手のキム・セヒョン(32、KIAからSK)、左の中距離砲のチェ・テイン(37、ロッテからSK)らの主力級が2次ドラフトによってチームを移る。

今年の2次ドラフトでは優勝チームのトゥサンと準優勝チームのキウムが指名をパス。KT、KIA、サムスン、ロッテの4球団が1ラウンド、もしくは2ラウンドで指名を終え、プロテクト外選手には目ぼしい選手がいないことを露呈した。

韓国の場合、現役ドラフトが球団新規参入時の戦力調整には有効だった。しかし日本と比べると1軍クラスとそれ以下の実力差が大きく、選手層が薄いため、日本の選手会が目指すような、「出場機会に恵まれない中堅、若手選手に機会を与える」という姿にはなっていない現状がある。

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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