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韓国の松坂世代が振り返る 怪物との20年前の対戦と現在地

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
(写真提供:ロッテジャイアンツ、ストライク・ゾーン、サムスンライオンズ)

今年(2018年)、復活を遂げた松坂大輔(中日)。同学年の選手たちは「松坂世代」と呼ばれ、この20年余りお互いがその存在を意識してプロの世界で生き続けてきた。

松坂世代。

それは日本だけの言葉ではない。海を越えた韓国の1980年生まれもまた、松坂世代として同期の怪物のことを特別な視線で見つめている。

高校時代、松坂との鮮明な記憶

1998年初秋、甲子園球場で行われた第3回AAAアジア野球選手権大会。横浜高校を春夏連覇に導き、日本のエースとして代表入りした松坂のことを、当時の韓国代表メンバーは鮮明に覚えていた。

善隣情報高校の3年生だったサイドスロー右腕のクォン・オジュン(サムスン)は、「日本とは宿舎が同じで真夜中まで『松坂くん!』って女性ファンの声が聞こえた。松坂がマウンドに上がると観客のカメラのフラッシュがすごくて、試合が中断する程の大人気だったよ」と懐かしそうに振り返った。

かつてオ・スンファン(現ロッキーズ)とのリレーは「KOパンチ」と呼ばれ活躍を見せたクォン・オジュン(写真:サムスンライオンズ)
かつてオ・スンファン(現ロッキーズ)とのリレーは「KOパンチ」と呼ばれ活躍を見せたクォン・オジュン(写真:サムスンライオンズ)

また同じく投手のソン・スンジュン(ロッテ)は松坂に記念撮影を求めたという。「チームメイトのペク・チャスン投手(元マリナーズなど)と3人で一緒に撮ったのを覚えています。ただ残念なことにその写真は失くしてしまったんです」

ロッテの先発投手として活躍し、代表入りも経験したソン・スンジュン(写真:ロッテジャイアンツ)
ロッテの先発投手として活躍し、代表入りも経験したソン・スンジュン(写真:ロッテジャイアンツ)

分かれた松坂との明暗

1998年9月10日、日本と韓国は2次予選で顔を合わせた。日本の先発は杉内俊哉(巨人コーチ)。試合は韓国が2回に杉内から1点を先制し、さらに5回、韓国は先頭打者が出塁。追加点のチャンスを作った。ここで日本の2番手のマウンドに松坂が上がった。チャンスを広げたい韓国だったが、松坂に併殺に打ち取られ無得点。試合の流れは日本へと傾いていく。

その裏の守りで韓国はリリーフ登板のクォン・オジュンが二塁走者の東出輝裕(広島コーチ)に三盗を許し、さらにワイルドピッチで1点を献上。1-1の同点とされる。

そして7回裏には同点のマウンドに上がったソン・スンジュンが赤田将吾(西武コーチ)にタイムリー二塁打を喫して1-2と勝ち越しを許す。1点を追う韓国はその後も松坂を攻略できず1-2で敗れた。

韓国打線を完璧に抑えて勝ち投手になった松坂に対し、クォン・オジュンとソン・スンジュンはそれぞれ1失点。この大会で日本は決勝戦で台湾を下して優勝。韓国は3位と明暗が分かれた。

果たせなかったアメリカでの再会

ソン・スンジュンは慶南高校を卒業後、韓国のプロには進まずメジャーリーグを目指した。契約金80万ドルで入団したのはボストン・レッドソックス。後に松坂が所属するチームだ。

「アジア選手権で戦った松坂、台湾の王建民(元ヤンキースなど)の動向はプロに入ってからもずっと気にしていました。松坂ともアメリカで再会できると思ったけど、入れ替わりになってしまったのが残念です」

ソン・スンジュンはマイナーリーグで8シーズンプレーするもメジャー昇格はならず、松坂がレッドソックス入りした2007年に活動の場を韓国に移した。アメリカでは花開かなかったソン・スンジュンだったが、帰国後はロッテの右のエースとして2けた勝利を6度記録。北京五輪、2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では代表入りを果たしている。

メスを入れた同士に送るエール

今年(2018年)2月、所属チームのキャンプを沖縄で行ったクォン・オジュンとソン・スンジュンはテレビのスポーツニュースで報じられる松坂の投げる姿を見て喜んだ。それは「松坂世代」としてだけではなかった。

クォン・オジュンは過去3度、右ひじのトミージョン手術(内側側副靱帯再建手術)を受け、ソン・スンジュンは右ひじの軟骨除去手術をした経験があるからだ。ともにリハビリを経てマウンドに戻ったという共通点が松坂への思いをさらに強くした。

クォン・オジュンはこう話した。「ひじはリハビリすれば回復する可能性があるけど、松坂は肩も手術したから相当大変だと思う」

またソン・スンジュンは松坂の映像を見て、「直球は以前のようではないが、投球に巧さが出てきた」と評価した。

今季、松坂は11試合に先発し6勝4敗。見事に復活を果たした。一方、クォン・オジュンとソン・スンジュンも今季、自らの役割を全うした。

クォン・オジュンはリリーフとして3年連続40試合以上となる47試合に登板。3勝1敗1セーブ2ホールド。またソン・スンジュンは主に先発起用され22試合3勝4敗、防御率6.15という成績だった。

シーズン前、韓国の松坂世代の2人に「もし松坂にエールを送るなら?」と尋ねると彼らはこう答えた。

「体がダメでも心が昔と同じならきっと復活すると思う」(クォン・オジュン)

「野球は歳でやるものではないからね」(ソン・スンジュン)

その言葉は松坂だけに向けられたものではなく、現役生活の終盤を迎えた自身に向けたもののようにも聞こえた。

クォン・オジュンとソン・スンジュン。韓国の松坂世代は39歳となる来年も現役投手として、プロ21年目のシーズンを迎える。

◇2018年に韓国KBOリーグでプレーした松坂世代9人のうち、5人が今季限りでの引退を表明。その顔ぶれには第2回WBCで日本戦に3度先発し好投したポン・ジュングン(前LG)、WBCでの好守から「国民的右翼手」と呼ばれたイ・ジンヨン(前KT)らのスター選手がいる。

※2021.7.7追記 クォン・オジュンは2020年限りで現役を引退。ソン・スンジュンも2021年に引退を宣言した。

※本記事は筆者がスポーツ朝鮮に韓国語で寄稿したコラムを、スポーツ朝鮮の承諾を得て日本語で加筆し再編集して執筆したものです。

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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