「ツーブロック」の禁止、「下着の色指定」、「髪の一律黒染め」の見直しなど、日本でも校則見直しが進みつつあるが、少し先を歩いているのが、隣国・韓国だ。

以前は多くの学校で、日本と同様に、生徒の頭髪・服装などが過度に制限されていたが、徐々に緩和が進んでいる。

ただ必ずしも順調に見直しが進んでいるわけではなく、“行ったり来たり”を繰り返している。

日本と同じく家父長制の国である、韓国での校則見直し過程は、日本にも参考になるのではないだろうか。

そうした考えから、徐々に校則見直しが始まった2000年代頃からの動きを見ていく。

2010年代に条例策定、校則見直しに着手

韓国での校則見直しの大きな転機になったのが、若者や市民の声で進んだ、自治体の「学生(児童生徒)人権条例」だ。

韓国では2000年頃から、頭髪規制廃止を求める署名運動が起こり、児童生徒の人権問題が社会的な課題として認識されるようになった。

そして国政では、「児童生徒人権法」成立を目指し、革新系(リベラル)政党である民主労働党が2006年に「初・中等教育法」改正案を提出するが、任期満了により廃案に。

地方自治体では、光州市が「児童生徒人権条例案」を作成したが、生徒指導の困難化を恐れる校長や教育庁によって阻まれ断念。

その後、2010年の統一地方選で進歩派教育監(日本でいう教育長に相当)が当選し、2010年京畿道で「児童生徒人権条例」が制定されたのを皮切りに、光州市、ソウル市でも条例が制定された。

京畿道「児童生徒人権条例」は、「総則」「児童生徒の人権」「児童生徒人権の振興」「児童生徒人権侵害に対する救済」「補足」の5つの章によって構成されており、体罰の禁止、放課後や夜間に実施される強制自習の禁止、頭髪や服装など個性を実現する権利の保障、私生活の自由、児童生徒が学校運営や教育庁の教育政策に参加する権利の保障などが明記されている。

ほかに、例えばソウル市では下記のような条文になっている。

ソウル特別市児童生徒人権条例(2012年制定)

第三条(児童生徒の人権保障の原則)

1 この条例において制定される児童生徒の人権は人間としての尊厳を維持し、幸福を追求するために必ず保障されなければならない基本的な権利であり、教育と学芸をはじめあらゆる学生生活のために最優先的にかつ最大限に保障されなければならない。

2 児童生徒の人権はこの条例に挙げられなかったことを理由に軽視されてはならない。

3 学則等の学校規定は児童生徒の人権の本質的な内容を制限してはならない。

第十二条(個性を実現する権利)

1 児童生徒は服装、頭髪等の容貌において、自分の個性を実現する権利を有する。

2 学校の長及び教職員は児童生徒の意思に反して、服装、頭髪等の容貌を規制してはならない。但し、服装に関しては学校規則をもって規制できる。

条例制定後も「ブラック校則」残る

はじめて「児童生徒人権条例」が制定された京畿道では、体罰は少なくなり、校則見直しも行われた。

人権教育が進められたことにより、取り締まり中心の生徒指導から脱却し、生徒と教師の関係性が、相互尊重的なものに変わっている場面も見られるという。

また生徒の学校運営への参加が進んだことにより、学校文化そのものが変わり、市民教育も大きく前進している。

一方で、条例制定後も、「教権」(教師の教育する権利)が侵害され、学校が無秩序になるとの考えから、現場の教師や保守派からの反感もあり、必ずしも十分に現場に定着していないとも言われる。

条例制定後は教育庁や研究者などによって教師や児童生徒に対して各種質問紙調査などが行われてきた。条例制定1年後に教師・児童生徒・保護者に質問紙調査を行った金聖天は,学校が人権関連政策を進めるためにかなり疲労している反面,児童生徒の側は一部を除き大きな変化はないと考えているとし,問題の解決には教師と児童生徒の間,或いは児童生徒同士の「関係性」に着目する必要があるとしている⑸。また,『2014 京畿道学生人権実態調査』では,教師と児童生徒,保護者の間に児童生徒の人権の状況について認識の差が表れており,頭髪規制や体罰といった児童生徒への人権侵害について,教師よりも児童生徒のほうが多く存在していると認識している⑹。

 『〈全国学生人権実態調査〉結果報告書2014』によれば,手や道具を使用した体罰は16の広域自治体中,京畿道が最も少なく,他の部分でも児童生徒人権条例が制定されている地域の学校では条例が制定されていない地域に比べて児童生徒の人権は尊重されているものの,体罰や頭髪規制などは完全になくなってはおらず,人権保障のための総合的な対策を示す必要が指摘されている⑺。

引用元:京畿道児童生徒人権条例制定後の学校の変化に関する研究(龍谷大学 出羽 孝行)

※太字は筆者

しかも、必ずしも教師側がキツく制限したわけではなく、生徒自身が制限を課す場合もあるという。

校則の作成について,以前は生徒部(生徒指導部)の教師が主体となって行っていたものが,条例制定後は学級代表をはじめとした生徒や教師が集まった場所で生徒が投票を行うことになったものの,生徒自身が規則を主張するので,条例制定前と大きく変化したところはないという[教師A]。

引用元:京畿道児童生徒人権条例制定後の学校の変化に関する研究(龍谷大学 出羽 孝行)

これは日本の学校現場でも起きており、これまでの延長線上で校則を考えるのではなく、一度ゼロベースで「自由」やそれを制限する意味を考える必要があるのだろう。

ソウル市では、中高生の髪型や髪色を規制する校則について、2018年に市教育庁が2019年秋季からの撤廃を各校に要請したが、2021年に、国家人権委員会が調査したところ、行き過ぎた校則を設けている学校は31校(中学校44校のうち9校、高校85校のうち22校)にのぼり、そのうち27校では違反者に対する罰点の付与その他の指導・取り締まりが行われていたことが明らかとなっている。

残っていた校則として、たとえば、▽生徒の染髪やパーマの全面的制限、▽宗教的アクセサリーを含むすべてのアクセサリーの着用禁止、▽制服をジャケットまですべて着用しなければコートを着ることを認めない運用など、10項目以上の制限を設けていたと指摘されている。

そうした実態を踏まえ、韓国・国家人権委員会は、個性を表現する権利、一般的な行動自由権などの基本権を侵害しているとして、「中高生に対して頭髪・服装などの容姿を制限する過度な学則は改正しなければならない」と、31校全ての校長に対し、校則改正、指導の見直しの勧告を出している。

“Appearance restrictions such as excessive hair and clothing for middle and high school students should be revised” (2021-11-23)

国家人権委員会は、政府から独立した機関であり、今回の調査・勧告もソウル市内の学校で生徒の頭髪・服装などが過度に制限されているという一般市民からの多数の申立てを受けて出されている。

日本への示唆

今後この勧告がどこまで尊重され、学校現場が変わっていくかはまだ不明であるが、今後日本でも本格的に「ブラック校則」の見直し、生徒の学校運営への参加を進めていくにあたって、参考になる点は多い。

韓国の事例を踏まえると、重要なポイントは3つあるように思える。

一つ目が、根拠となる法律・条例の策定

二つ目が、定期的に行政が実態調査、介入(外部からも申立てできるように)

三つ目が、大人・子どもへの人権教育

である。

⑴根拠となる法律・条例の策定

まずは、人権侵害となっている校則の見直しを進めていくための根拠となる、法律や条例の必要性だ。

本来的には憲法で規定されている人権は学校内でも守られるはずであるが、特に子どもに関しては教育指導の必要性から軽視される傾向が強い。

実際、日本の判例では学校にある程度の「部分社会」の法理を認めており、校則や児童生徒に特化した法律・条例の制定が望ましい。

部分社会論=日本の司法において、団体内部の規律問題については司法審査が及ばない、とする法理。部分社会の法理とも言われる。

ここ数年、教育委員会の方で校則に関するガイドラインを出しているところもあるが、法的根拠(拘束力)を明確にするため、やはり法律・条例が望ましい。

また教育の自治の考え方があるとはいえ、最低限の人権保障はどの地域、どの学校に通っていようが守られるべきであり、法律で制定することが望ましいのではないだろうか。

⑵定期的に行政が実態調査、介入(外部からも申立てできるように)

これまで見てきたように、法律・条例は必要であるが、それだけで十分ではない。

きちんと実態に反映されているか、外部から定期的に実態調査を行う必要がある。

現に日本の教育委員会が校則について調査を行っているように、既存の行政内部の組織でも調査を実施することは可能だが、教育長などに大きく左右されることもあり、本来的には独立した機関が実施することが望ましい。

しかし日本では、「こども基本法案」において、こどもコミッショナーの設置が見送られたように、子どもの権利を守るための国レベルの第三者機関は存在しない。

1993年に国連総会で決議された「国内人権機関の地位に関する原則」(パリ原則)では、人権を守るための国内人権機関の設置・運営を求めており、民主党政権時代などに本格的な議論も行われたが、日本では設置に至っていない。

またソウル市では、子どもの権利侵害事例の公募を行うなど、子ども本人が自分の権利を守るために訴える環境が作られており、それも参考になる。

⑶大人・子どもへの人権教育

最後が、大人、子どもへの人権教育の必要性である。

やはり法案・条例が制定されても、その精神が理解されなければ、実態は大きくは変わらない。

特に、これまで子どもの権利侵害が“問題ない”とされてきた、既存の指導方法を大きく変えることは簡単なことではない。大人、特に子どもと密接に関わる専門職への人権教育を強化しなければならない。

先日、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが公表した調査結果(「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート調査」)では、子どもの権利について「内容までよく知っている」教員は、約5人に1人(21.6%)と、現状は全く十分ではない状況が明らかになっている。

関連記事:学校教員は「子どもの権利」をどこまで理解しているのか?教員向けアンケート調査結果から(室橋祐貴)

今国会で「こども基本法案」が成立見込みとなり、文部科学省「生徒指導提要」も改善の方向で進むなど、徐々に子どもの権利に関する社会的認識は変わりつつある。

ただ、一度行政が条例や方針を策定して終わりではなく、各関係者間において、児童生徒の権利を尊重する意識が定着するよう努力を続ける必要がある、というのが、最大の示唆だろう。

そしてそれは、「国連子どもの権利委員会」が、子どもの権利条約第二八条第二項「学校の規律」を遵守するために必要な指針を示している通りである。

子どもの権利条約第二八条

第二項 締約国は、学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。

国連子どもの権利委員会

・締約国に対し、公立および私立学校における体罰および子どもの権利を侵害するその他の懲戒を禁止するための立法措置をとるよう要請

・意識向上のキャンペーンを実施すること

・条約に沿わない処罰を監視するメカニズムを設置すること

・苦情処理システムを確立して苦情を調査すること

・体罰に代わるオルタナティブな規律の形態を導入してそれらを実施する教員を育てること

・学校の規律方針の設計・開発への子どもの参加を促進すること