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55歳、今の方がずっと若い――リクオが仲井戸麗市らを迎えて見せた「今も解けないロックンロールの魔法」

宗像明将音楽評論家
リクオ(撮影:小山雅嗣)

大人だろ、勇気を出せよ

2019年11月26日、東京・下北沢Gardenで、リクオによる「リクオ スペシャル・ライブ『グラデーション・ワールド』」が開催された。

そのライヴで、異様なほどの熱気に会場が包まれた楽曲があった。「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」である。

1964年生まれ、55歳のリクオは歌う。

すぐに白黒つけたがった 冷笑主義 時間のムダ

自意識過剰 老いぼれだった 今の方がずっと若い

出典:リクオ「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」

そして終盤で繰り返す。「大人だろ 勇気を出せよ」。自身について歌っているはずなのに、聴き手の胸を激しく揺さぶる。

「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」を作るにあたっては、忌野清志郎の「激しい雨」が念頭にあったという。彼の2006年の遺作「夢助」の収録曲であり、RCサクセションで30年近く活動をともにしてきた仲井戸麗市との最後の共作曲のひとつである。そこで忌野清志郎は繰り返した。「RCサクセションがきこえる」と。

「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」は、仲井戸麗市をギターに迎えつつ、リクオにとって同世代のブルーハーツを題材にしている。歌詞には、ブルーハーツ「人にやさしく」、RCサクセション「激しい雨」、佐野元春「SOMEDAY」、かまやつひろし「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」、ソウル・フラワー・ユニオン「死ぬまで生きろ!」、小沢健二「愛し愛されて生きるのさ」、般若「あの頃じゃねえ」などを踏襲した歌詞が登場する。しかし、最終的にはリクオの作品以外の何物でもない。

「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」は、2019年5月にリリースされたアルバム「グラデーション・ワールド」のリード・ナンバーだ。その5月、大阪のFM COCOLOのマンスリー・アーティストにリクオが選ばれ、「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」はヘヴィー・ローテーションされ、YouTubeのMVのコメント欄には、ラジオで聴いてきたという人たちの投稿も多い。

ラジオで聴いて突き動かされた人々と同じように、この夜の下北沢Gardenでも「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」にフロアの熱気は格別のものとなった。

リクオ(左)と仲井戸麗市(右)(撮影:小山琢也)
リクオ(左)と仲井戸麗市(右)(撮影:小山琢也)

日本のロック史の一側面を物語るゲストたち

リクオは京都出身のシンガーソングライターにしてピアノ・マン。この夜の主役であるリクオ with HOBO HOUSE BANDでは、ベースを寺岡信芳(亜無亜危異)、コーラスを真城めぐみ(ヒックスヴィル)、ギターを高木克(ソウル・フラワー・ユニオン)、ドラムを小宮山純平、ペダルスティールを宮下広輔が務めた。

さらにゲストとして、仲井戸麗市(ex.RCサクセション)、古市コータロー(ザ・コレクターズ)、山口洋(HEATWAVE)、ウルフルケイスケといった、「グラデーション・ワールド」に参加したミュージシャンたちを迎えた、まさにスペシャルなライヴだった。その顔触れだけで、日本のロックの歴史の一側面を物語る。

ポジティヴなメッセージに包まれた「だんだんよくなる」で幕を開け、メロウな「夜更けのミュージック」では、リクオはラップと歌の間を行き来しつつ、ヴォーカルをグルーヴに乗せる。「海さくら」に続く「希望のテンダネス」も、「夜更けのミュージック」と同様のヴォーカル・スタイルだ。

アルバムのタイトル・ナンバーである「グラデーション・ワールド」は、リクオの現在地を歌うかのような楽曲だ。彼は歌う。濃淡があり、複雑で、一層ではない世界を。

割り切らない僕らは 少しずつ少しずつ 丁寧に物語を紡いでゆく

白と黒を反転させても同じ事さ 単純な物語はもういいよ

たゆたいながら変わり続けていこう このグラデーションの世界で

変わらないものを手に入れて 僕らは変わり続けていく

出典:リクオ「グラデーション・ワールド」

そして、ゲストを迎えたパートへ。ここからは、リクオの楽曲にゲストのギターが入ったステージと、ゲストの楽曲を本人が歌うステージが展開されていった。

最初のゲストはウルフルケイスケ。リクオの「明日へ行く」「夢じゃない」と、ウルフルケイスケの「ずっと歩こう」「夢は続く」が交互に歌われた。リクオの「夢じゃない」は、ウルフルケイスケとの共作で生まれた楽曲だ。ウルフルケイスケは演奏の手応えを「10代、20代にロックバンドをやってた頃を思いだす」と表現した。

ウルフルケイスケ(撮影:小山雅嗣)
ウルフルケイスケ(撮影:小山雅嗣)

続いて古市コータローが登場し、リクオが「グラデーション・ワールド」の制作まで面識がなかったと語ると、古市コータローは「1992年に、そこのSHELTERで見てます」と笑った。レコーディングやライヴで初共演したのは昨年であるものの、ずっとお互いの存在を意識していたわけだ。リクオは「千の夢」「ミラクルマン」を歌い、その2曲の間で古市コータローが「モノクローム・ガール」「ホンキートンクタウン」を歌った。

リクオ(左)、古市コータロー(中央)、高木克(右)(撮影:小山雅嗣)
リクオ(左)、古市コータロー(中央)、高木克(右)(撮影:小山雅嗣)

山口洋を迎えたパートでは、まずリクオが「(What's so funny bout)Peace,love & understanding」、山口洋がHEATWAVEの「TOKYO CITY HIERARCHY」を歌った。後者はリクオ with HOBO HOUSE BANDのアレンジにより、シティ・ポップ的なアプローチに変化していた。

山口洋(撮影:小山雅嗣)
山口洋(撮影:小山雅嗣)

続いてリクオが歌った「満員電車」は、「グラデーション・ワールド」を聴いたときに非常に胸にしみた楽曲だ。47歳の私にとっては、まるで自分のことのようである。

鏡にうつる自分の姿 まるで他人のようさ

あの頃のままじゃいられないと

ずっと前に気づいてたはずだろ

出典:リクオ「満員電車」

そして、次の楽曲をリクオは「人生で一番伴奏した人の曲」と紹介した。山口洋がソウル・フラワー・ユニオンの中川敬と共作した「満月の夕」である。リクオは中川敬と一緒に多くのツアーを行い、私が初めてリクオのステージを見たのも、東日本大震災後、2012年の宮城県女川町でリクオと中川敬が一緒にライヴをしたときだ。そのときもふたりは「満月の夕」を歌っていた。この夜の山口洋の歌う「満月の夕」でも、下北沢Gardenに「イーヤーサーサー」というお囃子が響いた。

最後のゲストである仲井戸麗市は、ステージ袖からギターを弾きながら登場。そして、マイクの前で歌いはじめたのはRCサクセションの「君が僕を知ってる」。忌野清志郎が書いた楽曲を仲井戸麗市が歌う流れから、記事冒頭で触れた「オマージュ- ブルーハーツが聴こえる」は歌われることになった。

リクオ(左)と仲井戸麗市(右)(撮影:小山雅嗣)
リクオ(左)と仲井戸麗市(右)(撮影:小山雅嗣)

MCでは、リクオがデビューする前、いまはなき渋谷ジァン・ジァンで友部正人のサポート・ピアニストを務めた際に、仲井戸麗市も出演しており、さらに誰にも告げずに忌野清志郎もそのライヴを見に来ていたというエピソードが紹介された。

2015年にこの世を去った石田長生へ捧げられたのが、トム・ウェイツの「OL'55」のカヴァー。日本語詞を書いたのは仲井戸麗市と有山じゅんじだ。そして、最後に歌われたリクオの代表曲「アイノウタ」では、仲井戸麗市によるギター・ソロが鳴り響き、さらにファンが歌っている間に、ステージ上の全員が楽器を手放してクラップをする光景もあった。

これからずっと積みあげていきたい

アンコールの1曲目は、リクオと宮下広輔のみによる「黄昏と夜明け」。「グラデーション・ワールド」ではストリングスとともに歌われていたが、この夜はペダルスティールを伴奏に歌われた。リクオは「これで終わりじゃないからね、これからずっと積みあげていきたいので、長いおつきあいをお願いします」とファンに語りかけた。

そして、この夜に登場した全員をステージに招き入れて、「永遠のロックンロール」へ。ステージ袖から、うじきつよしも飛び入り出演した。彼は、昨年3月にリクオ with HOBO HOUSE BANDのライヴにゲスト出演して以来、リクオのライヴをよく訪れ、客席から声援を送っているのだという。

左から仲井戸麗市、古市コータロー、ウルフルケイスケ、山口洋、高木克(撮影:小山雅嗣)
左から仲井戸麗市、古市コータロー、ウルフルケイスケ、山口洋、高木克(撮影:小山雅嗣)
(撮影:小山琢也)
(撮影:小山琢也)
うじきつよし(中央)(撮影:小山雅嗣)
うじきつよし(中央)(撮影:小山雅嗣)
(撮影:小山雅嗣)
(撮影:小山雅嗣)

「永遠のロックンロール」では「ロックンロール・ミュージック 今も魔法がとけない」と歌われるが、この夜のリクオは何度も「音楽が好きで良かった!」と叫んでいた。その姿は、まさに解けない魔法とともに音楽の喜びを体感しながら、複雑な世界で日々を重ねていこうとするリクオの姿勢を象徴するものだったのだ。

私と同じ40代後半ともなると、周囲は音楽を聴くこと自体をしなくなる。新しいものへの興味を失っていく。しかし、年齢を重ねたうえでリクオは「今の方がずっと若い」と歌う。人生を積みあげたうえで、新しい気づきを獲得して、未来を見すえる。そんなリクオの音楽を必要とする人々はもっといるはずだ。届いてほしい。そう願った夜だった。

画像

〜Rock'n Roll Goes On!Tour 2020〜

【出演】リクオ with HOBO HOUSE BAND(ベース:寺岡信芳/コーラス:真城めぐみ/ギター:高木克/ドラム:小宮山純平/ペダルスティール:宮下広輔)

2020年2月8日(土)東京代々木・Zher the ZOO

※東京公演のみ「グラデーション・ワールド」のサウンド・プロデューサーである森俊之がキーボードで参加

2020年2月15日(土)名古屋・TOKUZO(得三)

2020年2月16日(日)京都・磔磔

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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