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Kit Catが活動終了を発表 「解散」ではなく「活動終了」の理由とは

宗像明将音楽評論家
Kit Cat。「SCRATCH YOU!」ジャケットより。

昨年に決まっていた活動休止

2017年9月13日に六本木 Varit.で開催されたKit Catのワンマンライヴ「緊急キャット集会」で、Kit Catが2018年春に活動終了となることが発表された。楽曲が制作順に披露されたライヴのアンコールでの出来事だった。

Kit Catは、ジョゼまっしぐら、猫屋敷アスカ、イヴにゃんローランによる女性3人組シンセポップユニット。Dr.Usuiのプロデュースのもと2013年5月からライヴ活動を開始し、フリーダウンロードとCDによって、1980年代~1990年代の洋楽を髣髴とさせるポップな楽曲を届けてきた。

特に2015年にリリースされた初のCD「SCRATCH YOU!」収録の「ハングアラウンド」は、Dr.Usuiの弾くエレキ・ギターが1980年代のアメリカやイギリスのヒット・チャートの匂いを強烈に感じさせる傑作だった。

同じく「SCRATCH YOU!」に収録されているTom Tom Clubのカヴァー「おしゃべり魔女(Wordy Rappinghood)」は、iTunesエレクトロニックチャートで初登場5位を記録している。

2017年6月25日のライヴから猫屋敷アスカが体調不良で休養中だが、2017年8月29日に開催されたDr.Usuiの活動20周年イベント「Dr.Usui20周年感謝祭 ~Only Dr.Usui's Songs Fes.~」には2人体制で出演していたKit Cat。

それだけに活動終了の知らせには絶句したが、メンバーとDr.Usuiによると活動終了は昨年の段階ですでに決まっていたという。では、なぜ「解散」ではなく「活動終了」なのだろうか。

元々の友人同士がグループを組み、そしてまたKit Catの枠を抜け出して、普通の友人同士に戻る

Kit Catのアーティスト写真。左から猫屋敷アスカ、イヴにゃんローラン、ジョゼまっしぐら。
Kit Catのアーティスト写真。左から猫屋敷アスカ、イヴにゃんローラン、ジョゼまっしぐら。

取材に対して、Kit Catとサウンド・プロデューサーのDr.Usuiから寄せられたコメントは以下の通り。

ジョゼまっしぐら

Kit Catは元々友達3人で結成したグループです。3人で面白い事、ワクワクする事をしよう! と思いアイドルを始めて、たくさんの人に助けられながら頑張ってきました。

私はKit Catをずっと続けるんだろうと考えていたし、メンバーチェンジしません、解散しませんと発言していました。しかし年月が経つにつれて、みんなの人生という広い目で見るとこのタイミングで区切りを付け、それぞれの道を歩むのが1番だという考えになりました。

解散ではなく活動終了です。解散してバラバラになるのではなく、メンバーから友達に戻るだけ、しかも様々な経験を一緒に積んだ最高の友達になるでしょう!

この先どんな時でも、私は強くてクールでカッコよくて、周りのみんなにハッピーを分ける女でいたいと思ってます。

残り僅かな時間となってしまいますが、Kit Catを応援して良かったと思えるよう精一杯頑張ります。最後まで応援よろしくお願いします。

イヴにゃんローラン

活動終了は1年ほどまえから決まっていたけど全然実感が湧かなくて、今この文章を考えていてやっと実感が湧いてきました。5年間続けてきて、活動していることが当たり前だったしずっと続けるつもりでいたので正直言って信じられないです。これまでKit Catを応援してくださった皆様、期待に添えることができず本当にごめんなさい。

妖精の国にいた頃はロックばかり聞いていて、でも地球に来てみたらアイドルというとんでもなくきらきらしていて衝撃的なものに出会い自分もなりたいと思うようになりました。やるならば1番になりたい、1番かわいくなりたい、1番アイドルになりたい! そういう気持ちがとても強いけれど、実力が全然追いつかなくて、自分の中の理想に追いつけなくて悔しくて悔しくて。活動はじめたばかりの時のライヴは人が全くいなくて毎日家に帰ってきては悔しくて泣いてました。なので一昨年下北沢シェルターでワンマンライヴができた時やはじめてCDがリリースできた時は本当に嬉しかったです。今年の7月にはストロベリースウィッチブレイドのローズの来日公演に出演して、自分たちの好きな海外のアーティストと共演するという念願の夢が叶って、続けてきてよかったって心から思いました。Kit Catの活動を通して、本当にかけがえのない経験をたくさんさせていただきました。応援してくださった全ての方、関わってくださった全ての方のおかげです。本当にありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。

Kit Catが活動終了したら、自分はソロで活動しようかなとも真剣に考えました。でもたくさん考えた結果、自分はソロではなくKit Catがやりたいんだなということに気付きました。

それぞれの人生を長い目で見て考え活動終了することが決まりましたが活動終了しても2人のことは大好きだしずっと友達です。この3人だからこそこんなに長い間続けてこれたなって思うし、奇跡的な3人だと思ってます。そして皆さんと会えなくなってしまうのは本当に心苦しいですがイヴにゃんは変わらずずっとイヴにゃんでいたいなって思ってます。

Kit Catはあなたの1番になりたいし、イヴにゃんはあなたの1番のアイドルでありたい。そう思ってずっと活動してきました。その気持ちは今この瞬間も変わりません。活動終了の日まで全力でKit Catを届けたいです、全力でイヴにゃんでありたいです、全力でアイドルしたいです。みんなにたくさん会いたいです。みんなにたくさんライヴを観てもらいたいです。みんなの心に永遠に残るようなものを届けたいです。最後まで、よろしくお願いします。

猫屋敷アスカ

まず最後まで2人と一緒にライブ活動が出来ず、Kit Catとして完全体ではないまま活動が終了になってしまいご心配、ご迷惑をおかけしました。残念な思いをさせてしまった方、本当に申し訳ございません。

体調の面でどうしてもライブ活動は復帰断念ということになり、悔しい気持ちはありますが、残りの期間楽曲制作やライブ制作において、Kit Catを陰ながら支えていきたいと思います。

メンバー内では、昨年位からそれぞれいろんな思いを相談し合っていて、このタイミングでそれぞれの道に進んでいくことを3人で決めました。

Kit Catを始めて、素敵な曲を頂いて、いろんな場所へ行き、たくさんの方々と接して頂き、3人で試行錯誤し、周りに協力して頂きながら少しずつ作り上げていきました。

かけがえのない時間だったと思います。

元々友達だった3人ですが、この活動を通していろんな経験を共にして、仲間として成長出来ました。私のいい所も悪い所もわかってくれている、大切な理解者です。

それはこれからも変わりません。

ライブに足を運んで下さった方や、CDを聴いてくれた方、イベントに携わって下さった方など、Kit Catに関わった全ての方達の大切なお時間を頂きました事を、感謝致します。

楽しんで活動を続けてこれたのは、本当に、皆様のお陰です。

あたたかい応援が本当に励みになっていました。ありがとうございました。

最後までKit Catをよろしくお願い致します。

Dr.Usui

2013年5月5日に初ライブを行ってから4年半。さらにさかのぼると、ジョゼとイヴという音楽好きの2人の少女に最初に出会ってから10年近い年月が経とうとしています。試行錯誤を重ねた末、2人の元々の友人であったアスカを招き入れKit Catが始まりました。

友人同士だからこそ出せるほどいい湯加減の温度感(時にユルすぎる! とのご指摘もいただきましたけれど)と趣味の合い方、センスの良さでこれまでいろんな方に応援を頂きました。本当にありがとうございました。

これまでメンバーたちは「友達だからKit Catは解散はしない!」と無邪気に繰り返し発言して来ました。私も皆さんと同様に微笑ましく見守ってきたつもりですが、昨年あたりからそれぞれのモチベーションに微妙な変化を感じるようになり、仲の良し悪しとはまた別のところでそれぞれ自分の人生を考えるのも必要と考えるようになりました。どんなに仲の良い友達同士でもその時々で想いが微妙にずれてくるということはありますし、友達だからこそ言いにくいこともあるかと思います。私は「仲がいいからこそ解散という選択肢もあるのかもしれないよ」とあえて提案してみました。昨夏のことです。きっとそこからそれぞれに色々と自分の考えを温めたことと思います。

私自身のこれまでの人生を振り返ると、あの時止めておいたら良かったかもしれない、もっと続けておいたら良かったかもしれないということが多々あります。3人にはそういう話も沢山してきました。グループ活動を一つの「作品」として考えた場合、いい時に辞めるというのも一つの美学です。

喧嘩別れや行き詰まりでもなく、卒業式や成人式のような節目。元々の友人同士がグループを組み、そしてまたKit Catの枠を抜け出して、普通の友人同士に戻るということです。

来年春まで限られた時間となりますが、引き続きKit Catを応援していただけましたらうれしいです。

ソロではなくKit Catがやりたい

もともと友達であった3人が音楽活動を始めたグループがKit Catだ。そして、音楽活動を終了しても3人は友達のままなので「解散」とは呼ばないのだという。これまで聞いたことがないケースだが、Kit Catの成り立ちを考えればごく自然なことだとも感じる。

もちろん、Dr.Usuiが参加する(M)otocompoとのコラボレーションによる2016年の「POPLOT TIMES 2016」や、イヴにゃんローランと富山県のアイドルの空野青空のユニットであるザ・にゃんとかにゃるずの2017年の「地球がとにかく変わってる」といった、Kit Catから派生した作品群も生まれてきただけに、惜しくないと言えば大嘘になる。

しかし、イヴにゃんローランの「自分はソロではなくKit Catがやりたいんだなということに気付きました」という言葉は、Kit Catというグループの成り立ちを象徴しているかのように感じた。Kit CatはKit Catがやりたかった。それだけの話なのだ。

「ふらっと現れた猫達」が生んだもの

コメントにもある通り、Dr.UsuiとKit Catとの出会いは、10年近く前、「Dr.USUI」名義でエレクトロのソロ活動をしていた頃にさかのぼるという。最初に出会ったのは、当時のDr.Usuiの年齢の半分程度ながら、音楽の趣味が妙に合うジョゼまっしぐらとイヴにゃんローラン。その後、彼女たちの友達である猫屋敷アスカ(当時は『惣流・アスカ・ニャングレー』)を加えて活動を始めたのがKit Catだった。

Dr.Usuiによれば、当時のイヴにゃんローランは、インディー・ロックやエレクトロ、ダンスミュージックのほかにも、アニソンや電波ソングが大好きで、彼女のDJによってプリキュアシリーズを知ったという。「プリキュアはエンディングテーマの方がダンスがついていて振りコピして楽しまれていることを知りました」と振り返るDr.Usuiは、「ドキドキ!プリキュア」でエンディングテーマを2曲(2013年の『この空の向こう』『ラブリンク』)も手がけることになる。不思議なめぐりあわせだ。

Dr.Usuiが語る20年「若者に向けて音楽を作り続けたい」

Dr.Usuiは「私の前にふらっと現れた猫達がいなかったら、秋葉原に向かうことはなかったかもしれません」とも語ってくれた。秋葉原に向かった彼は、ディアステージのでんぱ組.incや妄想キャリブレーション、そしてシンセカイセンに出会い、楽曲を提供することになる。シンセカイセンに関しては、現在サウンド・プロデュースも担当中だ。

そうした意味でも、後にKit Catとなる3人の少女とDr.Usuiの出会いは、Kit Catの楽曲のみならず、さまざまな楽曲を生みだすきっかけともなった。そのKit Catの3人が、「メンバー」ではなくもともとの「友達」の関係に戻ろうとしている。残りの約半年間にKit Catがどんな活動をして、どんな楽曲を残してくれるのかを、いくばくかの感傷を噛みしめながら見守りたい。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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