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日本代表、秋の初勝利に「改善点はいっぱいある」。収穫と課題は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
会見中の坂手、ジョセフ(左から。筆者撮影)

 ファンは歓喜した。現場は手応えと修正点を端的に整理していた。

 ラグビー日本代表は10月14日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムでの対オーストラリアA・3連戦のラストゲームで初勝利。「JAPAN XV」の名で臨んだ非テストマッチのシリーズを、1勝2敗で終えた。

 来年のワールドカップフランス大会での2大会連続8強入り以上を目指す日本代表は、29日、東京・国立競技場でニュージーランド代表と対戦。11月にはイングランド代表、フランス代表と敵地でぶつかる。

 試合後はジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、フッカーで好タックル連発の坂手淳史主将が会見した。

 以下、共同会見の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「今日はいいラグビーができた。選手の頑張りを誇りに思いたい。ここまでタフな2週間を過ごした。いい試合運びをしながら最後にミスを犯し、なかなか勝つことができなかった。ただ、選手は学んだことを修正しようと、毎週、毎週、過ごしてきました。最初の1試合目では勝っていた部分から集中力を切らしてしまい、負けた。先週もメンタルの維持ができず、最終的に負けた。

今日も同じような(追い上げられた)状況でした。勝っている状態から、オーストラリアAの質の高さに押されるようになった。ただ、随所で坂手がペナルティーキックからラインアウトを狙い、トライに繋げられた。選手のアタックするエナジーがよかったです。もちろん改善すべきところはまだまだありますが、2週間後のオールブラックス(ニュージーランド代表)戦に向け、今日の試合をパスできたと思っています」

坂手

「ジェイミーが言ったように改善点はいっぱいある。ただ、結果には皆で喜びたいと思います。1、2、3試合目と成長した部分はたくさんあるし、チームのなかで共通意識を持って、やるべきことを明確にしたことで、ゲームのなかでも(集中力が)途切れなかったですし、そこへの手ごたえがあります。今回も相手に流れの行く時間帯があって、そのまま崩れ切れかねないなか、本当にたくさんのリーダーがコミュニケーションを取りました。やることを明確にして、リセットできたのが収穫だった。これからのテストマッチでも難しい瞬間はたくさんあると思いますが、繋がり続け、やるべきことを明確にして戦いたいです。きょうは、その、やり方のひとつが学べた試合です」

 過去2戦では防御の乱れ、接点での被ターンオーバー、反則などが絡んで22―34、21―22と敗れていた。

 この日も後半13分までに45―21とリードしながら、直後の相手ボールキックオフで落球。自陣ゴール前で連続攻撃を許し、45―31と迫られる。以後、危険水域に足を踏み入れる。

 20分、敵陣中盤でのターンオーバー直後の反則により、一気に陣地を奪われる。以後はターンオーバーを交互に重ねた末、右タッチライン際の防御が乱れたところを相手フッカーのラクラン・ロネガンに走られる。ゴール成功で45―38。

 さらに27分には、自陣10メートル線付近左のラインアウトから攻め込まれる。

 坂手、フランカーの下川甲嗣が鋭いタックルを重ねるも、最後は右タッチライン際を大きく破られる。途中出場したディラン・ピーチがトライを決めた。

 対するオーストラリアAのライアン・ロネガン主将は言う。

「ハーフタイムが自分たちにとっていい時間帯だった。JAPAN XVにあったモメンタム(勢い)をリセットできた」

 直後のコンバージョン成功で、スコアは45―43。JAPAN XVは2点差に迫られる。

 デッドボールラインの後ろで円陣を組むなか、坂手は厳しい顔つきで激を飛ばしていたような。

——あそこでは、何を話していましたか。

坂手

「何を喋っていましたかね…。あそこは焦る時間ではない。ただ、ペナルティで自分たちからどんどん下がって、相手にいいポジションを取られて、やられていた。

プレッシャーをかけよう。キックオフからプレッシャーをかけるよ。そう話しました。ここでリーダーがコネクションしました。

試合を通して、リーチ マイケルさん(フランカー)、中村亮土さん(インサイドセンター)、流大さん(スクラムハーフ)が前向きにコミュニケーションを取って助けてくれた。それで、崩れなかったと思います」

 29分頃、オーストラリアAがキック合戦のさかなに反則を犯す。32分、敵陣ゴール前左へ進んだJAPAN XVは、31分にチーム7つめのトライを奪った。

 直後のゴール成功で52―43。残り2分で9点差と、セーフティーリードに近い状態を作った。

——改めて、後半に追い上げられたわけは。

坂手

「僕たちのミス、ペナルティもありました。相手にはクオリティが高い、モメンタムを作れる選手が揃っている。一度、勢いを渡すと一気に持っていかれる。要因はキックオフでのミス、ペナルティで自陣に相手を入れてしまったこと。それで、メンタル的にも相手を生き返らせた。改善点かなと思います」

——試合全体を振り返れば、チャンスでペナルティーキックを得た際、ペナルティーゴールよりもラインアウトを選択することの方が多かったですが。

坂手

「ショットを狙えるところもあったんですけど、ゴール前や、相手陣地の22メートルエリアに入ってからのプランがあったので、それを選択しました。どんなプレーを選ぶか、9、10番(司令塔団)とコミュニケーションを取って、全員が同じ絵を見られた。それで効果的だったのかなと思います」

——3連戦を通じての収穫と課題は。

ジョセフ

「まだ(若手も入った)新しいチームで、まだ100パーセントではない部分もある。怪我で練習できない選手もいて、そのなかで、自分たちのリズムがうまく作れない部分もあります。(フォワード第3列では)ピーター・ラブスカフニ、姫野和樹が抜けた。ただ、その代わりに新しい選手がチャンスを掴み、試合に出られているのはいいことです。全選手がゲームの準備をしていることが、よいことです。いい兆しが出ている。結果は望ましいものではなかったですが、ニュージーランド代表戦、イングランド代表戦、フランス代表戦と、慎重に我慢をしながら選手を準備させたいです」

坂手

「まぁ、1、2、3試合目と成長したこと、ゲームで自分たちのラグビーの強みを出したことは収穫です。アタックでも、ディフェンスでも全員が繋がり続けることで、いい形を出せている。ただ、ゲームの流れが悪い時、相手の勢いを止めていくことについては、もっと理解していかないといけない。このゲームの『ここ』が大事だというところを、しっかりと戦えないといけない。また個人のミス、ペナルティは、自分たちの首を絞めたり、相手を生き返らせたりする要因になります。そこは、しっかりと治していきたいです」

 収穫には、坂手の話す通り「自分たちのラグビーの強みを出したこと」が挙げられる。その背景には、試合ごとの「成長」もにじむ。

 攻めては18、22分、ラインアウトからのサインプレーが決まる。いずれの場面でも、ナンバーエイトのテビタ・タタフがスペースへ駆け込んだ。持ち前の突破力でスコアした。このエリアを担当するジョセフは言う。

「ラインアウトが決まったのは嬉しいです。3回、同じ相手と戦うなか、パターンを見極め、ブラウニー(トニー・ブラウンアシスタントコーチ)と色々とアタックを考えました。ショートウィーク(2試合目が6日前の8日)では色々とスキルを学ばなければいけないなか、選手はしっかりとやってくれた」

 前半27、39分には、連続攻撃のさなかに数的優位を作り、大外のユニットが首尾よくスペースを突く形でフィニッシュできた。トライスコアラーはそれぞれアウトサイドセンターのディラン・ライリー、ウイングの松島幸太朗。

 連続攻撃の過程では、接点の援護役が相手のジャッカルを鋭く引きはがしていた。

 振り返れば2戦目では、攻撃中の接点での被ターンオーバーに泣いていた。この日は、その課題を克服しようとするさまが見て取れた。試合前のウォーミングアップでおこなった強度の低い連携確認でも、援護役の動作を抜かりなくチェックしていたような。

 守っては総じて向こうの突進力に手こずりながら、いくつかのシーンで我慢しきった。

 前半5分頃には、自陣ゴール前で守備網を敷き続けて相手のミスを誘った。

 後半36分には、自陣ゴール前右まで攻め込まれながら、ウイングのシオサイア・フィフィタが孤立した走者へジャッカル。対するオーストラリアAの援護役に引きはがされるのとほぼ同着で、レフリーの笛を聞いた。

 ペナルティーキックを獲得し、一時的にはピンチをしのいだ。

 試合直後のインタビューで、坂手はこう発した。

「悪い部分もありましたけど、最後は勝ててよかった」

 チームの合言葉は「ボンド」。選手間の繋がりをプレースタイルの遂行力、細部のプレーの精度に昇華させたいようだ。

 試合前日練習では靴ひもを結ぶ選手を残して円陣を組むこともあったが、この日は、得点が動くたびにフィールドに立つ15人で固くまとまった。

 2019年の日本大会で8強入りするまでがそうであったように、時間をかけて絆を紡ぐ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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