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「現状を考えてください」と指揮官。ジャパンの規律、どう正す?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
左から坂手、ジョセフ(筆者撮影)

 ラグビー日本代表は10月8日、福岡・ベスト電器スタジアムでの対オーストラリアA・3連戦の第2戦に「JAPAN XV」として挑み、21―22で敗れた。ラストワンプレーで逆転された。

 後半40分間で犯した反則は6。相手の10よりも4つ少なかったものの、その6つのうち5つは6点リードで迎えた残り13分間以降に起きた。

 鋭く前に出る防御が機能する時間帯、中盤からの攻撃が奏功するシーンがあった。それだけに、重要局面、特に試合終盤の順法精神、プレーの遂行力が焦点となりそうだ。

 試合後、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチとフッカーの坂手淳史主将が会見した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「先週からパフォーマンスを成長させられた部分もある。もちろん結果が出なくて残念に思っています。勝っている部分もあったが、勝ち切れなかった。勝つか負けるかで言えば、勝った方が気持ちはいい」

坂手

「結果、勝てなかったので、それに関しては凄く残念に思っています。先週からのチーム皆の努力、グラウンドでの努力はいい部分があった。ただ最後のゲームを決める部分、簡単に得点を挙げた部分、ミス、ペナルティが、自分たちの首を絞めていると感じます。修正していきたいです。皆のやっていること、方向性は間違っていない。いい形でチームは成長している。このままさらに成長していって、結果をどんどん出していきたいと思っています」

 立ち上がりはよかった。試合開始早々、ウイングのシオサイア・フィフィタが自軍キックオフの球を確保すると、複層的な陣形を操り左右に揺さぶる。久々に先発したウイングの松島幸太朗のトライで5―0と先制した。

ジョセフ

「チームとしても怪我から復帰したばかりの選手がいて、その他にもキープレーヤーがいないなかでの対応。自分たちのやり方でスタートを切れました。準備して費やしたことが形に出た」

 続く10分にも、連続攻撃でスコアを8―0とした。その他の場面でも好機を作った。守っても鋭い出足を重ね、オーストラリアAの展開力を最小化しにかかった。

 しかし試合中盤は、相手の短いハイパントの多用、接点での球への絡みに苦慮し、後半4分までに8―15とされる。

 以後はボールの保持率を高めて13、22、27分と加点して21―15とするも、以後の展開が悔やまれた。

 敵陣深い位置でのチャンスを逃した直後となる後半31分頃には、自軍の接点を乗り越えられた直後にオフサイドと判定される。直後のラインアウトでも空中でのプレーが咎められ、自陣深い位置に閉じ込められた。

 以後はJAPAN XVの好守とオーストラリアAの落球が交互に続いたものの、35分、カウンターアタックを仕掛けたフルバックの山中亮平が、ノット・リリース・ザ・ボール(倒れた選手が球を手離さない反則)を取られた。

 ここには、この日好タックル連発のフランカーの下川甲嗣が援護に入ったものの、途中出場した相手センターのハミッシュ・スチュワートのジャッカルがはがれなかった。

 JAPAN XVは、ノット・リリース・ザ・ボールの反則を前半から走者、援護役の顔ぶれを問わず頻発させていた。会見でも話題に挙がった。

ジョセフ

「アタックで複数のペナルティがあった。クリーンアウト(援護)、ボールキャリー(突進)の精度は修正が必要」

坂手

「僕自身もクリーンアウトをミスしてペナルティーキックの3点を与えました(前半12分)。また、キャリーのミス、ノックオンもあった。インディビジュアル(個人)のミスはいますぐ治せる。

クリーンアウトは(走者に)速く寄る、スペースに入る、低さ…という部分でどんどん良くなる。相手がアタックしてくる、いますぐ治さないといけない部分。チーム全体で取り組んでいきたいです。僕自身も練習して、修正したいです。

プレーしすぎてしまったことでのミス(接点で走者が孤立した場面などを指すか)もある。どんどんアジャストしていきたい。今週はボールグリップ(飛んできた球を掴むこと)などの基本をやってきたのですが、それを来週もやっていきたいです」

 最後の約3分間は、自陣ゴール前右で相手のラインアウトからモール攻勢にあった。40分、フッカーのリッチー・アシアタに左隅にフィニッシュされ、最後のゴールキックもスタンドオフのテイン・エドメッドに決められた。

 惜敗。現地に訪れた8163人のファンは、落胆したかもしれない。

 ただし日本代表が今秋、見据えるのは、29日以降の代表戦だ。

 さらには、来秋のワールドカップフランス大会という大目標がある。いまおこなわれているのは、代表戦級の相手との強化試合だ。トライアルアンドエラーをしていること自体に価値があると、指揮官は強調する。

 印象的だったのは以下のやり取りだ。

——本番であればゲームに向けてコンディションを調整すると思いますが、いまはハードワークと体調管理とのバランスをどう調整しているのでしょうか。

ジョセフ

「現状を考えてください。もし今日、相手が最後のコンバージョンをミスして我々が勝っていたら、同じ質問が出ましたか? チーム作りに関しては、これまで長く選手と一緒にできないところがあった(2020年の活動がなかった)。さらにキープレーヤーも怪我でなかなかいないところがあった。チーム作りには時間がかかる。先週からの学びはあり、それがよくできたところもあった。ただ、それは十分ではないとわかった。これからもよくなれると思っています。日本代表はこの秋、計6試合をおこない、その後は国内のリーグワンがあるためチームの準備はできなくなる。私は、私のコンディショニングプランを作り、そのバランスを適宜、変更、調整しようと考えてやっていきます。どのコーチもそうしていると思います」

 いま抱えている問題を把握しながら、その問題が生じる背景への理解を求めていた。その他にはかような問答があった。

——前回のゲームから修正できた点は。

「自分たちの最初に考えていた戦術、プランはよかった。いいスタートが切れた。ただ、相手もいいチームなので、ひとつトライを獲ったらそれで終わりではない。スーパーラグビーでプレーしてきた相手に順応してきた部分を示すことはできたが、個人的なミスで自分たちにプレッシャーがかかることがあった。個々でミスをした利、プレーをしすぎてさらにミスが増えることもあった。最後まですごくよかったが、最後の5分で大きな学びがあった。終盤、リーチが相手のラインアウトのボールを取ったことがありましたが、その後はしっかりコントロールすべきだった。そこで、パニックになった(陣地挽回のためのキックをチャージされたり、球を持った走者が反則を取られたりした)」

——2つしかトライできなかった攻撃について。

ジョセフ

「2トライしか? 2トライも取れたのは前向きに評価できる。ただペナルティを与えた部分はすぐに修正する必要はある。ただアタックの強い意思は見られた。その部分はよかった」

——スタンドオフの李承信選手について。

「7月に最後の試合に出てから2カ月半。パスもうまくなっているし、可能性の高い選手。時間をかけて起用していきたいです」

——スターターに復帰した姫野和樹選手、中村亮土選手、松島幸太朗選手については。

ジョセフ

「姫野は久々に出て貪欲にボールを追いかけていい活躍。長い間、離れており、精度と判断は今後も高めていく必要があります。時間はかかる。ただ、意志、やる気は素晴らしかったと思っています。怪我の要因で姫野が7番に移り(当初7番の予定だったピーター・ラブスカフニ選手が怪我で欠場)、そこで下川も入った。彼もいいプレーができた。改めて、李に関してはしっかりしたゲーム時間を与えられた。それは亮土も然りです。クオリティの高い選手と試合をすること、ワールドカップに向け復帰しながらパフォーマンスを上げることは、重要だと考えます」

 オーストラリアAでは、スタンドオフのテイン・エドメッドが出色のパフォーマンスを披露。長短を織り交ぜたキック、防御をひきつけながらのパスで、チームを前に出した。

 かたやJAPAN XVでは、ナンバーエイト、フランカーでプレーしたリーチ マイケルは獅子奮迅の活躍。鋭いタックルと、その後の素早い起立からジャッカル、何よりスタンドの歓声を呼ぶ突進で、身体のきれをアピールする。

 4点差を追う後半22分には、敵陣ゴール前右中間でペナルティーキックからの速攻で前進。まもなく一時逆転となるトライを決めた。さらに流れを失いかけていた後半36分頃には、自陣22メートル線付近前左のラインアウトを好スティール。額を切りながらもファイトした。

 4度目のワールドカップ出場を目指す34歳。現チームの試合終盤のプレーの遂行力について、こう所感を述べた。

「簡単なミスをどれだけ減らせるか。それには、アンダープレッシャーの練習でどれだけできるか鍵になる。(すべきプレーが)癖になるくらい(にできるようになり)、疲労のたまった状態でもできるかどうかが、ティア1(強豪国)とそれ以外との差になると思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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