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日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、成否の鍵握る「アライメント」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
雨中のジョージア代表戦ではキックの使い方などで優勢に立った。写真中央は立川理道。(写真:アフロ)

 2016年秋に就任したラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが6月27日、東京・秩父宮ラグビー場で会見した。同月のテストシリーズを振り返り、今後の展望を語った。

 9日にイタリア代表を34―17で下すも(大分・大分銀行ドーム)、続く16日は同じ相手に22―25と敗戦(兵庫・ノエビアスタジアム神戸)。23日にはジョージア代表に28―0と完封勝ちした(愛知・豊田スタジアム)。

 2016年秋の就任から昨秋まではティア1(強豪国)相手に未勝利だった。今回のツアーでは現体制の存在意義を示すためにも結果が求められていた。会見中のジョセフは、2勝1敗で終えた今回の戦いを「いいツアーになった」と総括し、成功の秘訣にサンウルブズでの活動を挙げた。

 サンウルブズとは、国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦3季目のプロクラブ。指導者や戦術、選手の多くを日本代表と共有する、いわば兄弟チームだ。

 今季はジョセフが日本代表とサンウルブズの指揮官を兼務し、1月末からの事前キャンプ、2月末に始まったスーパーラグビーのレギュラーシーズンでサンウルブズを指揮していた。

 6月の代表活動に向けては、スーパーラグビーのレギュラーシーズン中だった5月中旬にサンウルブズを離れ、一部の代表選手には休暇を付与。同月下旬から事前合宿をおこない、万全を期した。

 以下、共同会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「対イタリア代表2連戦では、我々のラグビーのブランドを示せました。選手は自信を持ってプレーできたし、いい判断も見せられた。スキルも最高レベルのものを発揮し、試合中の素晴らしいいくつかのトライに繋がりました。ジョージア代表戦は完封だったのが素晴らしかった。世界20位以内の相手とのテストマッチにおいて、無失点は初ではないかと聞いております。アライメント、コミットメントも見えて、チームのキャラクターが確立された。それは私としても嬉しいことでした。

 そして加えて、チーム内での関係性について。これまで色々な選手に(リーダー職を任せるなどの)チャンスを与え、リーダーシップを育成しました。過去に堀江翔太、立川理道が務めてきたキャプテンはリーチ マイケルが務めていますが、このシリーズでは流大の役割が大きかった。彼はサントリー、サンウルブズの経験は大きく(両チームでキャプテン)、サポートしてくれた。田中史朗も個人としていろいろなところで自分の経験を活かし、チームをサポートしてくれた。これらのことは、勝負とは別に特筆すべき点です。

 最後にこの場で言いたいのは、スーパーラグビーが果たす役割です。来日時、日本代表のレビュー書類を読みました。エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチによって書かれたものです。『今後の日本ラグビー界の強化発展のためには、選手やコーチがよりハイレベルな競争、ハイレベルなラグビーへアクセスしなければならない』。その基盤をなすのがサンウルブズです。ここにいるメディアの皆さまも含め、サンウルブズに結果を求める方は多いと思いますが、サンウルブズには面でナイーブな点がある。他のスーパーラグビーのチームは20年くらいプロとして運営してきている。一方、サンウルブズの選手の一部はアマチュアで、会社に所属される形が多い(国内リーグ所属の社員選手を指しての表現か)。そのなかで、サンウルブズは、少しずつ機能してきています。いま、過去ベストシーズンを送っている。日本協会が(2014年に)スーパーラグビー参戦を決断したことで、選手コーチへの今後のパスウェイが築かれたと思います」

――これからは、どれくらい選手を集めて強化できるのか。

「我々のやろうとしていること、準備していることをするためには、選手たちとある程度、一緒に時間を過ごしてラグビーをするのが重要になります。この件に関し、私は意識的にアライメントという言葉を使ってきましたが、そのアライメントができ始めている。日本協会としてワールドカップ8強入りという目標を持っている。それが叶えられるということは、背景には十分なアライメント、(首脳陣が選手を招集するなどの)アクセスがあったということを意味するでしょう。

 ワールドカップを見据えると、これ(アライメント、アクセス)が必要なこととなります。それができた(スーパーラグビーを活用するなどして首脳陣と選手とのアライメントが取れた)ことで、6月の結果が得られた。

 もうひとつ。昨秋はオーストラリア代表に負けてしまいましたが、それ以降の遠征でトンガ代表に勝ち、(ティア1の)フランス代表と――あれはいまでも勝つべきだったと思いますが――引き分けた。長く選手たちと過ごして成し遂げたことは、私にとってもハイライトとなるべきものです。

 一方で、選手にレストも与えなくてはいけない。というのは、2019年にいいパフォーマンスをするには、ウェルフェア(福利厚生)にも目を向けなければならない。ラグビーから離れ、家族と過ごす時間も必要。ひとつの大会が終わったらまたすぐ次の大会がある現状は、少し、気になっています」

 ここでの「アライメント」は選手間、および選手とスタッフとが団結しているさま、「コミットメント」はそれぞれが主体的にチームを作ろうとする態度のことを指しているだろう。

 特にジョセフが重視しているであろう「アライメント」の質を高めるには、サンウルブズの期間も活用した選手とスタッフとの連携が不可欠とされる。

 なおジョセフは会見で、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチの言葉を用いてスーパーラグビー参戦の重要性を語っている。前任者との比較を好まぬ傾向にあるジョセフがジョーンズを引き合いに出した背景には、サンウルブズの効能を強く訴えねばならない事情があったと読み取れる。会見が進むにつれ、真意が明らかになる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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