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男子7人制日本代表・岩渕健輔新ヘッドコーチ、就任会見ほぼ全文。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
手腕やいかに。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 日本ラグビー協会(日本協会)は5月21日、男子7人制日本代表の新ヘッドコーチに岩渕健輔・男女7人制日本代表総監督を就任させると発表。本人と坂本典幸・日本協会専務理事が都内で会見した。

 2016年のオリンピック(五輪)リオデジャネイロ大会で4位入賞も、日本協会は同年11月にダミアン・カラウナ前ヘッドコーチを招聘。体制刷新を打ち出していた。

 しかし現政権は、世界中を転戦するワールドシリーズの16―17シーズンでは15位と沈み、同シリーズに常時出場できるコアチームから陥落。15人制の国内トップリーグとの兼ね合いなどから、リオデジャネイロ大会出場組ら経験者の確保に難儀していた。

 カラウナ前ヘッドコーチは2017年のアジアシリーズでは総合1位となり今年7月のセブンズワールドカップ(アメリカ)の出場権を獲得し、年4月には来季のコアチーム復帰を争う昇格大会(香港)を制したが、2018年5月末までだった契約を延長できなかった。

 岩渕新ヘッドコーチは、15人制日本代表のゼネラルマネージャーとして2015年のワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を後押し。それ以前はウェールズ代表とのマッチメイクに成功するなど国際交渉力に定評がある。もっとも今回は、セブンズワールドカップ(サンフランシスコ)が7月に控えるなど緊迫したタイミングでの就任。カラウナ前ヘッドコーチの辞任が決まった折から、動向が注目されていた。

 以下、共同会見時の一問一答(編集箇所あり)。

坂本

「男子7人制日本代表は、2016年のリオ五輪で4位になりましたが、ワールドシリーズでは昇格と降格を繰り返してきました。2014年は(ツアー常時参戦の)コアチーム入りも、15年は降格。また翌年上がって、その翌年に降格。また今年、コアチームへ昇格という形です。

 リオ五輪後、その時点での成果への反省をさせていただきました。今年はワールドカップセブンズが目の前にありますが、昇格したもののコアチームに比べて足りない点はまだまだあります。何より2年後に迫った東京五輪では、前回の4位より上を目指すのを目標にしております。

 その意味で、世界と戦うのに新しい知見を知っていて、ニュージーランドで選手として戦ってきたカラウナさんが適任だろうとご就任いただいたのは、就任時の会見通りです。

 カラウナさんはセブンズの選手がなかなか集まらないという特殊事情を身体で感じながら、今年4月のセブンズの大会でコアチームに引き上げるという成果を残してくれました。この功績は大きいし、一定の評価はしたいと思っております。

 しかしながら、もともとワールドカップに向けてこの時期までの契約としておりましたし、そのさらに上を目指すには事情を知った日本人コーチで、日本企業とより良好な関係を保ちながら、選手の技術、精神面をより理解できる人間がふさわしいのではないかという議論を昨年来、続けてまいりました。強化委員会、技術委員会と議論を続け、最終的には岡村正会長にもご相談をして、今までのセブンズを(強化委員長として)担ってきた岩渕さんに男子ヘッドコーチに就任してもらうことに決定しました。次のワールドカップのみならず、2020年にメダルを獲るには岩渕さんの力は必要だと思っています。

 カラウナさんも世界に通じるチームを作ってくれました。しかしながら、より強く、継続的に世界とのネットワークを持ってやるには岩渕さんの力で強化をしたいと思っています。

 2019年には15人制のワールドカップがあります。選手召集は難しいと見られます。選手層があり、15人制と7人制の棲み分けができればいいのですが、日本の実態はそうではない。それを理解して、セブンズワールドカップ、2020年に、岩渕さんのキャリアを生かしてほしい。現場はすべて任せる。男女総監督も引き続き務めていただき、男子ヘッドコーチとして現場に立ってもらいます」

岩渕

「このタイミングでこういう職務に就くことがどれくらい大事かは、十分に認識しております。オリンピックまで800日少しの間(次第)で、その先の日本ラグビーが大きく変わってしまう。そういう重要な時にこの職に就くのは、大きな責任があると考えています。

 私はいままで強化の現場で大きな仕事をさせていただきましたが、2019年、2020年は大きなプロジェクトです。ここで先頭に立って、選手と一緒に大きな成果を挙げていきたい、覚悟を取り組んでいきたいと思っています。

 カラウナには何より感謝でいっぱいです。世界トップの考え方、理論を吸収しましたし、それをさらに発展させ、いいチームを作っていきたいです」

――契約期間は。

坂本

「まだ交わしていませんが、本人と話しているのは五輪終了後までです」

――カラウナヘッドコーチが国内のチームと連携しづらかったのは前からわかっていたことでは。サポートができなかったのでは。

坂本

「結果的にはサポートできなかったということになると思いますが、もともと日本の状況を大きく変えられる状態ではなかった。そのなかでの彼へのサポートは我々としてはやってきたつもりですが、それが足りなかったのかもしれません」

――具体的には何をしてきたのか。選手の情報が十分に伝わっていなかったのでは。

坂本

「情報が伝わらないことはなかったと思います。タイムラグはありましたが、彼ともミーティングも持ちましたし、岩渕からも現場のコーチからも伝えたと理解しています」

岩渕

「彼は契約期間中も『ずっとは日本にいない』という形の契約でした。私がカラウナとの関係性のなかで一番、色々な意味で努力をしたのは、彼がいない時も含めて試合映像をチェックして、逐一ビデオを送ったこと。様々なチームからの情報も踏まえ我々のベストを尽くして『こういう選手がいる』ということを(伝えた)。彼も彼のネットワークを活かしましたが、彼1人がヘッドコーチをするのではなく、選手の情報は逐次コミュニケーションを取りながら進めてまいりました」

――選手を集めにくい問題はヘッドコーチが変わっても変わらないが。

岩渕

「瀬川智広前ヘッドコーチ時代から含め、どうやって7人制のパフォーマンスを最大限発揮させるかを大きなポイントにしてきました。いまはキャプテンの小澤大(トヨタ自動車に所属しながら日本協会と7人制の専属契約を結んだ)を含め、7人制でずっとプレーできる形、関係性を作っています。2016―17年のワールドシリーズは降格しましたが、いまはその時のメンバーがかなり残っています。今回の昇格大会のメンバー中、当時出ていなかった選手は少数派です。メンバーを見ていただくと、以前よりはメンバーを固めて強化はしてきていると思っております。

 2019年に15人制のワールドカップがあるので、2020年に向けて7人制をプレーするための環境は色んな意味で整っていないかもしれませんが、一方で、7人制に専念すると手を挙げる選手もたくさん出てきている。まず、ひとりひとりを世界のレベルに押し上げる。

 2020年に結果を出すことが大きな目標ですが、それ以降もオリンピックがある。2020年を通し、その先に7人制の強化がはっきりできる形を、チームそのものを強化する形を作っていきたいです」

――適任者に声をかける活動は今後も。

岩渕

「選手の15人制ワールドカップへの思いが強いのは当然。ワールドカップ→オリンピックという流れは(スケジュール上)永遠に続くし、変えられない。しかし、日本でワールドカップとオリンピックの両方に出たのは1人だけです。世界を見ても多くのチームでは両方出るのが難しい現実が出てきています。私自身、ヘッドコーチとして2019年に出た選手を排除する気は一切ありません。是非、挑戦して欲しいです。一方、いま7人制をプレーする選手たちは、2019年をプレーした選手たちが戻ってきてもポジションを取られないような強化をしていきたい。ベストな競争の下、いいチームが作れればと思っています」

――リオ五輪後、日本協会は7人制の専任契約を結ぶ制度を打ち出しました。しかしここまで専任契約を結んだ選手は3人のみ。専任選手の増加計画が進んでいないのでは。

坂本

「オリンピック種目となって状況、注目度が変わったなか、色々な選手と会って話しました。しかし、自国開催のワールドカップにどうしても話が行き、『両方はどうしてもできません』となり、思っていた選手との専属契約ができなかったのは事実だと思います。

 とはいえ、2019年へも色々と(選手選考が)見えてくると、7人制への適性がある選手が今後も出てくると思います。また、20年で終わりではありません。その先を見据え、7人制に特化できる選手を(強化する)。ワールドシリーズで勝つには、1人の力ではなくチーム力が必要です。リオ五輪のニュージーランド代表戦もチーム力で勝った。その意味で言っても、今後も『1人でも長くやっている選手が多いと、チームで活きる』という話をしていきながらチームを作りたいと思っています。選手ひとりひとりを口説き続けながら、地道に、チームワークを取れるような状態を作っていきたいと思っています」

岩渕

「いまの話に捕捉させていただくと、協会としてもチームとしても、ヘッドコーチとしても、専任契約を増やしたいというわけではありません。7人制をいつもプレーする選手を増やしたい、ということです。いまのところ専任契約は3人ですが、そのほかにも東京五輪に向けたコンスタントな召集ができています。リオの時と状況は変わっていて、チームからも前向きな協力を得ています。

 

 五輪は、ワールドカップの後にやってくる。また日本のラグビーには、15人制の(さかんな)文化のもとに成り立っている側面があると思います。逆に、あと2年で7人制の魅力、価値を選手と多く発信して、そこで戦いたいと思う選手に1人でも多く来てもらいたいと思っています。そのためには、東京五輪でメダルを獲る目標だけではなく、なぜナショナルチームの一員として戦うのかというフィロソフィーを持って、そこに賛同してくれる選手と一緒に戦っていきたいと思っています」

――岩渕さんは男女両方で総監督を務めていますが、女子もより厳しい戦いを強いられています。テコ入れ女子が先なのではと感じますがいかがですか。

岩渕

「女子は6月にパリで大会があります。それが終わったタイミングで、強化委員会、技術委員会でレビューをしてもらい、今後の対応を考えます。

 女子はアジア大会、ワールドシリーズが男子と同じタイミングでおこなわれます。リオ五輪では女子が先に選手村へ入り、あとから入った男子が好成績を収めました。その意味でも、男女がいかに連携していくかが重要になります。女子は合宿への帯同も含めて(かかわっていく)。男女が力を合わせてオリンピックに向かうことが重要と認識しています。その意味で力を尽くしていきたい」

――岩渕さんは「リオ五輪時の成功は準備力が肝となった。これから個々の対応力が必要だ」とのお考えのようです。そのあたりに関する今後のビジョンは。

岩渕

「リオの時、2015年のワールドカップの時は、大事な試合に向けて会場、コンディション、メンタルといろんな角度から準備をしました。それがいい方向へ行き、それぞれの指導者が力を引き出して、ああいう形となったのだと思います。

 一方で、2015年にベスト8へ行けなかった。メダルを獲れなかった。最後まで勝ち切るうえので地力が足りなかったのだと強く思いました。

 準備をするのは当然として、どのような相手が来ても対応できる引き出しの多さ、選手たちがグラウンド上で判断して勝ち切るという力が必要だと考えています。15人制も、7人制も、決勝トーナメントでの相手は(大会前には)決まらない状況です。(事前にカードが決まっている)初戦目から3戦目だけじゃなく、どこと当たっても勝てる力が必要です。ワールドシリーズのなかでそういったものを培いたいです」

――現場に戻ることについて。

岩渕

「日本協会と関わらせてもらうことになったのは、2009年に男子7人制日本代表のコーチをさせていただいた時からでした。色んな縁を感じながらこの仕事をさせていただいてきました。

 いままでやらせていただいた後方支援の仕事と、現場の仕事。(立場は)違いますが、強い責任をもって結果を出すという話を、専務理事とはいたしました。2か月後にワールドカップがあり、その後アジア大会がやって来ます。

 初戦はウルグアイで、(勝てば)その次がフィジーと相手が決まっています。フィジーは五輪金メダリストで難しい相手です。ただ一段上に行くにはワールドカップベスト8を目標にします。

 アジア大会はトップリーグの第1週と日程が重なりますが、その想定はずっとしてきています。金メダルを獲れるようにしていきます。

 ワールドシリーズでは上がって落ちてを繰り返しています。ただ、オリンピックのためには来年もワールドシリーズ(のコアチーム)に残るのが必要です。若いチームなので、何大会に出るかも重要だと思っています。この間の香港大会、シンガポール大会では、他国選手が過去に17大会ぐらいの出場歴を持つのに対し、日本の選手は3~4大会。ただ来年、再来年とワールドシリーズに出られれば合計200大会の積み上げができます。

 ワールドシリーズの目標としては、10大会中4大会はベスト8に入ることです。いままで8強入りは1年に1回あるかないかだったので、高い目標となります。ただ、オリンピックでメダル捕るにはそれが必要です」

 選手の確保に難儀するという国内事情を解消しきれぬまま指揮官を交代した格好だが、岩渕新ヘッドコーチは、近年のメンバー固定化には成功していると強調。確かにシリーズごとの選手の入替は多少あるものの、小澤ら専任選手の常時選出は叶っている。

 指揮官交代の妥当性や新体制の打ち出す方向性は、今後、明らかになるのだろうか。日本ラグビー界きっての国際派で鳴らす岩渕新ヘッドコーチが、業務過多になるリスクを背負ってどう戦うか。注目される。

――改めて確認です。カラウナさんの契約を延長しないことは、誰が、どういった根拠で決めたのでしょうか。

岩渕

「昨年来から、大きな大会ごとにレビューをしてまいりました。ここについては専務理事だけではなく、強化担当理事とも話をしてきまして、昨年の間に、五輪でのメダル獲得に向けて今後もそのまま行けるのかという議論をしてきました。実際には、その他の候補者のリストも踏まえて準備しておりました。ワールドシリーズ、アジアシリーズ、今回に至るまでのレビューの結果、今回のようになっております」

――レビュー内容の詳細は。カラウナ1人だけに責任があるわけではないような。

岩渕

「成果目標、大会結果、それ以外のことを含めいくつかの判断基準がありました。事前にカラウナと『こういうところを見ていこうね』とふたりで取り決めたことについて、ひとつひとつレビューをしました。お話しいただいた点で言えば、私自身にも責任があると思います。専務理事には、就任前にその話をさせていただきました。自分自身に、支え切れなかった責任はある。そのなかでも協会からこの話をいただいたので、大きな責任を持ってやるべきだと思って決断をしたことになります」

 外国人ヘッドコーチの解任に伴い、その後方支援に従事していた協会要職者を後任に据えるという構造は、ワールドカップを直前に控えるサッカー日本代表とも共通していそう。今度の男子7人制日本代表のそれは討議に討議を重ねた結果とされるが、今後は各競技団体内で機械的な政権交代が助長されぬようチェックが求められる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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