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7人制日本代表坂井克行、五輪でメダル獲るには「固定」と「経験」が鍵。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
「(リオで)オリンピックが素晴らしいと肌で感じた。自分の国でできるなんて別格!」(写真:ロイター/アフロ)

 平昌での冬季オリンピック、パラリンピックが閉幕した。次なる同大会は、2020年夏季の東京大会となる。

 自国開催のオリンピックでラグビー界からメダル獲得を目指すのは、7人制ラグビー(セブンズ)の男子、女子の日本代表だ。長らく男子日本代表として活躍する坂井克行が、今後の展望を語る。

 単独取材に応じたのは3月21日、東京都町田市にあるキヤノンスポーツパークでのことだ。グラウンドには雪が降っていた。

 この日は12日から関東各地でおこなわれていた「男子セブンズ・デベロップメント・スコッド強化合宿」の最終日。香港でのワールドラグビーセブンズシリーズ(ワールドシリーズ)2018-2019コアチーム予選大会を4月に控え、男子7人制日本代表の強化、選手選考がなされていた。合計26名の選手が集まり、試合形式の練習などに挑んだ。

 コアチームとは、各国代表が世界を転戦するワールドシリーズに常時出場できるチーム群のことだ。日本代表は2016年度のワールドシリーズでコアチームから陥落。もっともコアチームに戻れば強豪国との対戦機会を増やせるとあって、4月の予選大会の結果はオリンピック強化の成否を占いそうだ。

 7人制日本代表でのキャプテン経験もある29歳の坂井はまず、今度のキャンプの成果について話す。

 

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――合宿を振り返ってください。

「今回は26名の選手が参加してセレクションをしたこともあり、引き締まったいい合宿だったと感じます。試合を意識した練習ができて、ひとつひとつ(のトレーニングの)精度が高かった。それでもダミアン(・カラウナヘッドコーチ)から『まだまだだ』という言葉をもらったので、まだまだ成長できると思いますが」

――有力選手の多くは15人制のトップリーグに加盟するチームに所属。トップリーグのシーズン中に各チームが7人制代表の招集依頼を受けるかどうかは、懸案事項として残っています(現在、トップリーグはオフ期間中)。

「セブンズへ行った選手がチームに戻った時、『やはり世界と戦ってきて何かが変わったな』と思われれば、各チームも『どんどんセブンズへ行かせよう』と考えるかもしれません」

――もっとも、パナソニックの鶴ヶ崎(実際は大の部分は立)好昭選手が日本協会と「男子7人制日本代表チーム専任選手契約」を締結。徐々にではありますが、7人制を重視する選手も増えてきています。

「セブンズにとっては、いいことです。色々な思いがあるとは思うのですが、15人制を諦めてでもセブンズへ…と腹をくくって思いを向けてくれる選手がいる。それは、長くセブンズをやってきた僕にとっては嬉しいです」

 男子7人制日本代表は、初採用となった2016年のリオデジャネイロ大会で4位入賞を果たしている。特に予選プール初戦では15人制の世界ランクで1位というニュージーランド代表を14―12で破った。

 15人制と同じ広さのグラウンドを使って7分ハーフ(最終戦のみ10分ハーフ)の試合をおこなうセブンズでは、番狂わせが起こりやすいとされる。当時のチームは相手の分析を含めた万全の準備のもと、ファンを驚かせた。

 現在はニュージーランド人のカラウナヘッドコーチのもと、新たな道を歩んでいる。当時のメンバーのうち数名は15人制への専念を表明。現在の代表の常連組には、2017年以降から国際経験を積む選手も少なくない。

――リオデジャネイロ大会までと、いま。プロセスに違いはありますか。

「瀬川さん(智広前ヘッドコーチ)の時は2015年からほぼ同じメンバーで合宿が組めて、大会を回れた。2020年を2年後に控えたいまそれができていないのは、少しディスアドバンテージになるかと思っています。瀬川さんの時と比較するというより、同じメンバーで戦うことが2020年で勝つために大事な部分だと思います」

――確かに「皆がシステムを理解する」という領域を超えた連携の深さ、互いの阿吽の呼吸は固定メンバーでの長期合宿によって作られそう。

「その部分でも非常に大きいです。またセブンズ特有のスケジュールにいかに(対応)できるかも大事になります。1日3試合を2~3日間、計6試合。オリンピックでメダルを獲るとなったら、一番きつい6試合目で一番強いチームと当たるわけですよね(決勝戦または3位決定戦)。その時に身体がボロボロです、アップもしたくないですという状態だったら勝てないと思います。そこで、いかに高いパフォーマンスを…。

 しかも、予選プールに勝利が計算できる相手がいるのかといったらそんなことはないですよね。1試合目から100パーセント以上の力を出して、競り勝って、競り勝って、競り勝って6試合目までいかないといけない。そうなると、最後は(ほぼ同一のメンバーで複数の大会を戦うという)経験がものを言うかなと思いました」

 

 確かにリオデジャネイロ大会を振り返っても、大会3日目となる現地時間8月12日、計6試合目にあたる3位決定戦で南アフリカ代表に14―54で敗れている。この壁を乗り越えるためには、固定されたメンバーで国際経験を積みたいと坂井は続ける。

――「一番きつい6試合目で一番強いチームと当たる」「そこで、いかに高いパフォーマンスを…」。経験者ならではの言葉です。

「リオの時にそう思いましたし、リオの後にワールドシリーズを回った時も『やっぱり』と思いました。世界で戦う経験が、世界の強豪と比べると圧倒的に足りない。その意味では(ワールドシリーズのコア=常時参戦チームへの復帰をかけた)今度の香港大会はターゲット。絶対に、上がりたいです」

 競技人気の安定化へ試行錯誤を重ねる日本ラグビー界にとって、自国開催のオリンピックでのメダル獲得は大きな追い風となるだろう。もっとも普段15人制でプレーする選手が7人制日本代表の求めに応じ続けるには、所属先から理解を得るなどのハードルを越えなくてはならない。この問題を選手の立場からクリアにすべく、坂井はツアー参加に伴う成長実感を所属の豊田自動織機にアピール。約2年半後の本番に向け、悔いなき道を歩みたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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