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日本代表、2年後ワールドカップへ欲しい「5パーセント」とは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
リーチは今後も強いリーダーシップを発揮か。(写真:ロイター/アフロ)

2019年のワールドカップ日本大会で初の予選プール突破を期待される日本代表は、6月17、24日、国内でアイルランド代表と2連戦をおこなった。

静岡・エコパスタジアムでの1戦目は22-50と大敗。東京・味の素スタジアムでの2戦目は13-35と接近するも、2連敗を喫した。

世界ランクでは相手の3位に対してこちらは11位と差があるものの、今回のアイルランド代表は全英蘭ライオンズに11名のメンバーを輩出。控え組主体だった。日本代表としては、成功体験が欲しかった。

1戦目は1対1のタックルを外され、チャンスを作った先での反則にも泣いた。それを受けての2戦目では、2人がかりのタックルと直後の起き上がりの質を高めた。

ミスを契機に0-14とリードされ迎えた前半15分。自陣中盤の接点からスクラムハーフの流大がハイパントを蹴り上げると、その弾道をフランカーの松橋周平が追う。

敵陣中盤右まで駆け上がる。落下地点にいるウイングのジェイコブ・ストックデイルとの距離感を見定め、「(空中で)競るのは難しい」。ストックデイルが着地した瞬間を捉え、鋭くぶちかました。

すぐの起立から、味方ナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィらと一緒にボールの真上へ身体をねじ込む。相手の援護役の反則を引き出した。間もなく流は速攻を仕掛け、敵陣中央でさらに反則を誘発。スタンドオフの小倉順平がペナルティーゴールを決め、3-14と差を詰めた。

その他の場面でも、防御が光った。先発ロックのウヴェ・ヘルは、自立した相手ランナーの懐からボールをもぎ取る。後半8分から登場した左プロップの稲垣啓太は、敵を仰向けにするタックルやこぼれ球への反応で魅した。対するアイルランド代表のジョー・シュミットヘッドコーチ(HC)は、こう感嘆した。

「日本代表の守備ラインが非常に早く、効果的なタックルもあった。かなりのハードワークを重ねてきたのでは」

とはいえ、勝てなかったのも事実である。

2戦目の前半3分、アウトサイドセンターのギャリー・リングローズに約50メートルを走られ先制点を与える。この時の日本代表は攻守逆転の直後だったが、繰り出したパスを乱してしまっていた。地面を転々としたボールを、リングローズが拾った格好だ。

チャンスを確実にものにしたアイルランド代表に対し、日本代表はいくつかのチャンスをふいにした。試合内容を改善していただけに、かえって口惜しさが残ったか。

8-28とビハインドを追う後半開始初頭だ。フランカーのリーチ マイケル、ウイングの福岡堅樹の突破を交えて敵陣ゴール前左まで進む。ところがラストパスを放とうとした流が、ボールを相手の足に当てて落球。「圧力は想定していた。僕の問題です」と潔かった。

直後も相手の反則からチャンスを得たが、空中戦のラインアウトで呼吸が合わず。待望の得点は、同22分まで待った。

この日は1戦目の大敗を受け、2戦目では先発を1戦目から8名も入れ替えていた。その8名のなかには流や松橋といった20代前半の若手日本人選手も含まれていた。この日ゲーム主将を務めたリーチは、「若い選手が多いなか、ゲームがどういう状況かという理解度はもっと高めないといけない」と話した。

薫田真広・15人制強化委員長は、「若手も起用できていいツアーだった。今回はワールドカップに向けた課題を全部出し切りたかった」と総括する。

加えて相手からも称賛を得られたのだが、楽観は禁物だ。相手は、その若手に実績をつけさせて帰国したからだ。2年後の本番では、そこへスタンドオフのジョナサン・セクストンらワールドクラスの戦士も加わる。

さらにこちらも予選プール同組のスコットランド代表は、この6月にワールドカップ優勝経験のあるオーストラリア代表を撃破。イタリア代表とシンガポールで試合をするなど、大会期間中の日本の蒸し暑さ対策も進めている。ターゲットは2年後。日本協会も、代表強化を促進せねばならない。

最も着手すべきは、根本的な肉体強化とそのための時間確保だろう。

いまの日本代表勢の多くは、プロクラブのサンウルブズと契約。国際リーグのスーパーラグビーへ参戦している。2~7月の間はほぼ週に1度のペースで、日本代表の戦術を用いながら列強国のクラブと激突できている。松橋のような若手の台頭など、収穫も多い。

とはいえスーパーラグビーのシーズン後は、翌年まで国内のトップリーグが控える。ゲームばかりの日程下では、腰を落ち着けての筋力、持久力のアップがしづらい。

振り返れば初の3勝を挙げたイングランド大会までの4年間は、スーパーラグビー参戦前だった。エディー・ジョーンズ前HCが、1日複数回の練習をおこなう長期合宿を遂行した。30台半ばだった大野均が筋量を増加させるなど、日本人を世界基準のアスリートに引き上げ。本番では世界随一の大型チームである、南アフリカ代表とも伍した。

その頃と異なる現状を踏まえ、ジョセフHCの続投を誓った薫田強化委員長は「2015年時に比べて、いまは(選手の体重が)3キロぐらい落ちている」。その影響は、終盤にガス欠をきたすスーパーラグビーでの試合、さらに今回の連戦でも見え隠れした。

特にジェイミー・ジョセフHCが選手の精神面を疑問視した1戦目では、攻め込んでも真正面から跳ね返される場面が多かった。前半終了間際には足が止まりかけていた。

極端な入れ替えで発破がかかっていた2戦目でも、主将でフッカーの堀江翔太の感想は「僕はどっちの試合もいいモチベーションで臨めましたけど…。まぁ、気持ちの面であれだけ叩かれたら、嫌でも(気合いが)入るでしょう」。タフな防御を支えた1人は、代表引退も24日限りの復帰を果たしたロックのトンプソン ルークだ。一時的なカンフル剤で急場をしのいだ感は否めない。

この日も出場したイングランド組のある主力選手は、皆が前回大会時のような資質を再獲得する過程について聞かれ、「良くも悪くも選手次第となっている」と応じる。

ただし本来は、日本協会のジョセフ体制へのサポートが期待されるところ。例えば日本協会がイニシアチブを取って、トップリーグの期間中に一部代表選手の鍛錬の期間を設けるのはどうか。そうすればスーパーラグビーへの参加量を減らさず、指摘される「3キロ減」の補修に専念しやすくなる。

この問題について薫田は、「前から議論されている話。議論、検討は当然しています」と言うに止める。

2015年時の主将だったリーチは、あくまで選手サイドの持つべき意識として「それぞれの場所に帰ってからも、(意識レベルで)いままでやってきたことよりも5パーセントは、プラスさせないといけない」と提言する。

「ジェイミーや他の人に頼るんじゃなく、1人ひとりが責任を持って準備しないといけない。そして、トップスタンダードは何か。いまは、それがわからない。では、(自分たちなりの)トップスタンダードを作らないといけない(と感じた)」

これは、選手以外のすべての関係者へも向けられるべき言葉である。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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