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ラグビーの本田はワセダを復活に導くか 緩急ある走りで「楽しい」を伝える【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
取材に応じる本田。慶応義塾大学の選手が話題のになった26日の全早慶明にも出場。

前に出る。前に出る。突然、止まる。前に出る。

守る側にかすかな違和感を与えるリズムの走り。ゴールはトライラインである。

本田宗詩。

この日もエンジと黒のジャージィの背に「14」とつけ、ピタッと止まってはダダッと駆ける。

大学日本一は歴代最多の15回、学生スポーツが支持される日本国で有数の注目度を誇る早稲田大学ラグビー部にあって、「ソウシ」という3年生は注目株のひとりだろう(ちなみに名前の由来は「覚えていたけど忘れちゃいました」とのこと)。

ポジションはタッチライン際のウイング。自らの走りで決定機に決定力を示すのが仕事だ。

昨年、長野は菅平での夏合宿の途中には、視察に訪れた日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチに「印象に残った選手」と言われたこともあった。秋のシーズンでは終盤から出場機会を失ったとあって、こう決意する。

「素直に、びっくりしました。まさか自分が、と。でも、あれから活躍できなかったのが悔いになっている。今年は…」

この春、7人制の大会や実質的な主戦場となる15人制のゲームで持ち味を発揮。4月12日、横浜での「第56回YC&ACジャパンセブンズ」に登場すれば、大会3連覇を狙う流通経済大学との決勝戦まで進む。自分より10センチ以上も大きな留学生の群れを向こうに、ピタッとダダダッを繰り返した。最後は17-34で屈したが、1つひとつの走りには手応えを掴んだ。

「対外国人。意識していた。スペースがあれば勝てる、と、思い切って勝負しました」

シーズンが本格化すれば、クラブの陣容は揃う。斜め後ろのフルバックには、現ジャパンの4年生、藤田慶和が務めそうである。走り屋の充実は、クラブの特色ともなりうる。

子どもの頃に観たものの記憶。それは時として、その人の生き様を象ることがある。

あの時、福岡県内の小学生だった宗詩少年がテレビをつけると、画面の上では「赤黒ジャージィ」が躍っていた。2000年代には大学選手権で5回の優勝と3回の準優勝と、早稲田大学ラグビー部が春を謳歌していた。友達にも親にも、少年は言い続けた。

「俺も将来、ワセダに入る」

入りたい大学の偏差値を鑑みて、高校は公立の進学校である福岡高校へ進む。2学年上に、玄海ラグビースクールでも一緒だった足の速いウイングがいた。寡黙で何でもできる先輩だった。のちの日本代表、福岡堅樹だった。

一般入試でスポーツ科学部に合格。宗詩青年、上京。上井草の人工芝グラウンドでは、またも2学年上に尊敬できる人物を見つけることとなる。

神奈川県の柏陽高校にいた荻野岳志は、指定校推薦で早稲田大学理工学部に合格。他学部にはない実験や研究のために全体練習へあまり参加できないなか、「疲れていない状態で個人練習に参加できる」と前向きに鍛錬。身長175センチと小柄でも、ランニングスキルに長けたウイングとして台頭。最終学年時は日本代表の練習生になった。

「常に自分の強みと弱みを把握されて、集中して個人練をやっておられた」

いまは三菱商事に入ってトップレベルの舞台から退いた荻野を、本田はこう振り返る。

早稲田大学のラグビー部には、先輩が後輩に技を伝える「ポジション練習」の文化がある。荻野も身長164センチながら国内最高峰トップリーグのキヤノン入りを果たした原田季郎を好敵手に見立て、抜き去るための試行錯誤を重ねたという。その荻野から、本田は集中して技を磨く姿勢を学び取ったのだ。

いまの大学ラグビー界は、帝京大学の独壇場である。赤いジャージィの常勝集団は、ここまで選手権6連覇中。プロフェッショナルと同等の設備とスタッフ陣から支えられ、身体と心を鋼にして相手を蹴散らしている。

ジャイアントキリングを起こすべく、身長171センチの本田は「まず体重を80キロに。そこまでは行かないと帝京に勝つことは叶わない」と誓う(公式ホームページに記載されるサイズは78キロ)。ラグビーの根本にある身体接触を同格レベルに持ち込み、その上で、自らの俊敏性、ビートを発揮したい。

――ちなみに一体、どうやって走っているのでしょう。

「無、ですね。You Tubeで海外の選手のプレーを観ているので、それを模倣したりはしますけど」

――緩急。その源は。

「僕は足自体が速いわけじゃない。ただ、緩急をつけると、相手は実際のスピード以上のものをこっちに感じてくれる。練習でやっていることしか、試合には出ない。練習中から、いっぱいステップを踏んでいます」

――目指す選手像は。

「生意気ですけど、人が観ていて楽しいと思えるプレーをしたい。1人でも状況を打開したい」

大学ラグビーとは何か。教育の場でもあるかもしれず、間違いなく青春の道場であり、何よりチケット収入の伴う娯楽でもある。

文武両道を貫き、クラブの秘伝のたれを受け継ぎ、最後は「楽しい」を追求する…。本田宗詩の生き様は、学生アスリートの好例のひとつである。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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