期待と批判が、入り混じっている。

欧州で、冬の移籍市場が開幕した。この度のマーケットで、去就が注目される選手の一人がキリアン・エムバペである。

エムバペは、2022年夏にパリ・サンジェルマンと契約延長を行った。その際、「2年の契約更新+1年延長オプション」でサインを済ませた。だが、その後、1年延長オプションを行使しない旨をクラブに通達した。

■エムバペと移籍報道

エムバペを巡っては、この夏、移籍の報道が加熱した。

プレシーズンでアジア・ツアーを計画していたパリ・サンジェルマンだが、エムバペは招集リストから外れた。ナセル・アル・ケライフィ会長が「彼は２週間以内に移籍か残留を決めなければいけない」と言い放ち、決断を迫られていた。

最終的に、エムバペはパリに残った。一方で、クラブはリオネル・メッシ（インテル・マイアミ／フリートランスファー）、ネイマール（アル・ヒラル／移籍金9000万ユーロ／約135億円）を放出。「MNM」と称された３トップが、解体された。

パリSGは、メッシとネイマールの放出を決め、他方でランダル・コロ・ムアニ（移籍金9500万ユーロ／約142億円）、ウスマン・デンベレ（移籍金5000万ユーロ／約75億円）、リュカ・エルナンデス（移籍金4500万ユーロ／約67億円）といった選手を獲得した。彼らはエムバペのフランス代表のチームメートである。

また、パリSGはゴンサロ・ラモス（レンタル）、イ・ガンイン（移籍金2200万ユーロ／約33億円）、ブラッドリー・バルコア（移籍金4500万ユーロ）、マヌエル・ウガルテ（移籍金6000万ユーロ／約80億円）を獲得した。彼らはいずれも22歳以下の選手で、つまり若手を積極的に引き入れてチームの強化を行った。

■マドリーの本気度

一方、エムバペの移籍先として常に候補に挙がるのがレアル・マドリーである。

マドリーはエムバペに対して契約ボーナス1億3000万ユーロ（約195億円）、年俸3500万ユーロ（約52億円）を準備していると言われている。ただ、現状では、具体的なオファーは提示されていない。

マドリーが最もエムバペ獲得に迫ったのは2021年夏と2022年夏だ。2021年夏、フロレンティーノ・ペレス会長は移籍金2億ユーロ（約300億円）を用意してエムバペの獲得に動いていた。2022年夏には、フリートランスファーでの獲得が濃厚だとみられていた。

だがエムバペは来なかった。そのうちに、「新生レアル・マドリー」が完成の域に近づいていった。

■チームビルディングの進行

マドリーは今夏、ジュード・ベリンガムを獲得している。ボルシア・ドルトムントに移籍金固定額1億500万ユーロ（約151億円）を支払い、ヤングタレントを確保した。

カルロ・アンチェロッティ監督は、ベリンガムの加入を見込んで、システムチェンジを検討していた。【4−3−３】から【４−４−２】へと布陣が変更され、中盤ダイヤモンド型システムでトップ下にベリンガムが組み込まれた。

ベリンガムは今季、公式戦22試合に出場して17得点5アシストを記録している。カリム・ベンゼマが退団したチームで、攻撃の中核を担う存在になっている。

■リーガで首位を走る

アンチェロッティ監督の功績は「ベリンガム・システム」の発明だけではない。

今季のマドリーは、シーズン序盤から負傷者が続出している。GKティボ・クルトワ、エデル・ミリトン、ダビド・アラバと守備陣の主力３選手が、すでにひざの前十字靭帯断裂で長期離脱に追いやられている。

彼らだけではない。エドゥアルド・カマヴィンガ、ヴィニシウス・ジュニオール、オウレリアン・チュアメニといった選手たちが、一定期間、負傷で起用できない状態になっていた。

しかしながらマドリーは、リーガエスパニョーラ第19節終了時点、勝ち点48を積み上げて首位に立っている。2位ジローナとデッドヒートを繰り広げながら、得失点差で「冬の王者」に輝いた。

クラブはアンチェロッティ監督の手腕を評価しており、先日、契約延長が発表されている。2026年夏までの新契約が締結され、ペレス会長およびフロント陣がイタリア人指揮官に満足していることが形として示された。

「私はエムバペについて話さない。彼はパリ・サンジェルマンの選手だ。我々は、レアル・マドリー以外のクラブでプレーしている全選手に敬意を払う。なので、そのテームに関しては話さない」

「いま、レアル・マドリーには、競争的な陣容が揃っている。技術、フィジカル、エネルギー、経験値、そういったもののバランスが取れている。我々は非常に良い状態にある」

アンチェロッティ監督は以前、このように語っていた。

■補強方針と距離感

マドリーは近年、若い選手を積極的に補強している。ヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエス、カマヴィンガ、チュアメニ、ベリンガム…。その補強方針に。揺らぎはない。

マドリーは2024−25シーズンに向けて、エンドリックの獲得を決めている。移籍金固定額3500万ユーロで、17歳のブラジル人アタッカーがマドリードに到着する運びだ。また、アルフォンソ・デイビースの獲得に向け、バイエルン・ミュンヘンとの交渉に入る構えを見せている。

エンドリック（17歳）、デイビース（23歳）、いずれも若い選手だ。エムバペ（25歳）も気付けば中堅の域に入ってきている。マドリーとエムバペの距離は以前ほど近づいていないように見える。