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アーセナルの強さの理由。攻撃を操るウーデゴールの存在と新たな“ヤング・トリオ”の台頭。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶアーセナルの選手たち(写真:ロイター/アフロ)

フットボールの母国が、沸いている。

現在、プレミアリーグで、首位を走っているのはアーセナルだ。マンチェスター・シティ、ニューカッスル、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナムといったチームを退け、アーセナルが順位表のトップに位置している。

■無敗優勝の過去

アーセナルが最後にプレミアリーグで優勝したのは、2003−04シーズンだ。

アーセナルには、パトリック・ヴィエラ、アシュリー・コール、ロベルト・ピレス、デニス・ベルカンプ、ティエリ・アンリと錚々たるメンバーが揃っていた。その選手たちをアーセン・ヴェンゲル監督が束ね、プレミアを制覇。無敗での優勝で、当時のチームは「インビンシブルズ」と呼ばれた。

アーセナルでプレーしたアンリ
アーセナルでプレーしたアンリ写真:ロイター/アフロ

今季のアーセナルは「インビンシブルズ」と同じくらいの勢いで勝利を重ねている。

シーズン前半戦、プレミアリーグ19試合を消化して、アーセナルが稼いだ勝ち点は50ポイントだ。バルセロナ(リーガエスパニョーラ首位/勝ち点44)、パリ・サンジェルマン(リーグ・アン首位/勝ち点47)、バイエルン・ミュンヘン(ブンデスリーガ首位/勝ち点35)といったチームでさえ、到達できていない数字である。

■攻撃力とウーデゴールの存在

アーセナルの好調の要因、それは圧倒的な攻撃力にある。

先述のデータ(19試合/勝ち点50)に紐付ければ、その内訳は16勝2分け1敗46得点14失点だ。得失点差32というのは恐るべきものである。

近年、欧州で強いチームには破壊力のある3トップがいた。2014−15シーズンにチャンピオンズリーグで優勝したバルセロナ(メッシ、スアレス、ネイマール)、2013年から2018年にかけて4度のCL制覇を達成したレアル・マドリー(ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド)と個性豊かなアタッカーが揃っていた。

他にもパリ・サンジェルマン(エムバペ、ネイマール、カバーニ)、リヴァプール(マネ、サラー、フィルミーノ)で、3トップがヨーロッパ中のディフェンダーの脅威になっていた。

アーセナルの若き3トップ
アーセナルの若き3トップ写真:ロイター/アフロ

ミケル・アルテタ監督は、若き3トップに賭けた。ガブリエウ・マルティネッリ(21歳)、ブカヨ・サカ(21歳)、エディ・エンケティエア(23歳)である。

アーセナルは、カタール・ワールドカップでブラジル代表として参加したガブリエウ・ジェズスが負傷した。大きな痛手となったが、裏を返せばアルテタ監督がヤング・トリオに張るきっかけになった。

■攻撃を操るプレーヤー

そして、その3トップを操る選手がいる。マルティン・ウーデゴールだ。

「アーセナルが優勝するとしよう。その時、(アーリング・)ハーランドがゴールの記録を打ち破っていなければ、私はウーデゴールを年間最優秀選手に推したい」とはリオ・ファーディナンド氏の言葉だ。

「ウーデゴールは、まるでモーツァルトだ。チームメートにパスを送り、ボールの循環を良くしている。(メスト・)エジルのベストの状態の時を思い起こす。ウーデゴールはアーセナルでの現在の役割に満足しているだろう。アーセナルのキャプテンとして非常に成長している」

攻撃を牽引するウーデゴール
攻撃を牽引するウーデゴール写真:ロイター/アフロ

ウーデゴールは16歳でレアル・マドリーに入団。「神童」と称され、大きな期待を背負ってキャリアをスタートさせた。フィテッセ、ヘーレンフェーン、レアル・ソシエダへのレンタル移籍を経て、2020−21シーズンにアーセナルに移籍。半年間のレンタル期間を経て、2021年夏に移籍金4000万ユーロでマドリーからアーセナルに完全移籍を果たした。

ウーデゴールは、まさにアーセナルの“10番”として攻撃のタクトを振るっている。トーマス・パーティー、グラニト・ジャカと中盤を形成して、トップ下の選手のように振る舞うことが許容されている。

■積極的な補強と成果

アーセナルは2019年12月にアルテタ監督が就任した。以降、少しずつチームを作ってきた。

アルテタ監督就任以降、アーセナルは4億1750万ユーロ(約584億円)を補強に費やしている。ウーデゴール、トーマス、ガブリエウ・マガリャンイス、アーロン・ラムズデール、ベン・ホワイト、G・ジェズス、オレクサンドル・ジンチェンコ、レアンドロ・トロサール…。多くの選手が、ロンドンに到着した。

「我々はまだ何も勝ち取っていない。まだシーズンの半ばだ。我々以上に強いスカッドを揃えているチームが存在する。また、彼らはチャンピオンになった経験がある。なので、一日一日を大切に過ごしていくしかない」とアルテタ監督は気を引き締めている。

「プレミアリーグで優勝するためには、勝ち点90ポイント以上を獲得しなければならないだろう。完璧に近い展開になる必要がある。プレミア制覇は非常に難しい目標だ。ミスをする余白は少ししかない」

まだ何も勝ち取っていないーー。指揮官が語るように、「冬の王者」という称号はタイトルには直結しない。ここから、アーセナルの本当の戦いが始まる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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