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レアルと「セクステテ」の挑戦。ヴィニシウスの覚醒とゼロトップの可能性。

森田泰史スポーツライター
タイトルを狙うマドリー(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

「すべてのタイトル獲得を目指したい。レアル・マドリーというチームは、すべての大会で勝利を望む。もちろん、それが常に可能だという意味ではない。だけど、僕たちを知っている人たちは、いつもタイトルを臨んでプレーしていると分かっているはずだ」

このように語るのは、トニ・クロースである。リーガエスパニョーラ、コパデルレイ、チャンピオンズリーグ、UEFAスーパーカップ、スペイン・スーパーカップ、クラブ・ワールドカップ、セクステテ(6冠)に向けて、今季のレアル・マドリーは動き出した。

■ヴィニシウスの覚醒

マドリーは昨季、リーガとチャンピオンズリーグで優勝して、2冠を達成した。

大きかったのは、ヴィニシウス・ジュニオールの覚醒だ。 52試合22得点20アシスト。カリム・ベンゼマと共にチームの攻撃を牽引した。

2020−21シーズン、ヴィニシウスは49試合6得点7アシストだった。このスタッツを見れば、その違いは明らかだろう。

ボールを追うヴィニシウス
ボールを追うヴィニシウス写真:Maurizio Borsari/アフロ

ヴィニシウスは、元々、ドリブラーだった。だがドリブルが得意な選手にありがちな「ボールに触りすぎる」傾向があり、それが彼をゴールから遠ざけていた。

無論、突破力に優れた選手をチームに保有するメリットはある。「アイソレーション」が可能になり、ひとつの戦術が成立する。

(ヴィニシウスのアイソレーション)

ただ、マドリーの場合、左サイドの使い方は独特だ。

ベンゼマが左サイドに流れ、ゲームメイクを行う。または、フェルラン・メンディがオーバーラップとインナーラップを使い分けながら、攻撃に参加する。

時に、スペースがない状況が生まれる。

それはつまり、ヴィニシウスのスペースが縮小することを意味する。

そこで、ヴィニシウスに求められたのは、ゴール前のスペースへのランニングだ。サイドからディアゴナルランをすれば、ルカ・モドリッチやクロースから正確なパスが出てくる。

あとは、カルロ・アンチェロッティ監督の「ゴールするために何回もタッチする必要はない」という教えを守り、シンプルにフィニッシュする。これを順守するようになり、ヴィニシウスの決定力は爆上がりした。

■ゼロトップと試行錯誤

今季、ベンゼマとヴィニシウスは警戒されるだろう。その中で、アンチェロッティ監督が検討しているのがゼロトップの採用だ。

具体的には、エデン・アザール、マルコ・アセンシオ、ロドリゴ・ゴエスといった選手が、そこに置かれることになる。

クラシコでは、アザールがそのポジションで試された。アントニオ・リュディガーの左SB、【4−3−3】のスリーセンター、そしてゼロトップと複数の戦術が同時に試行され、うまくいかなかった。

なので、ここでは、あえてゼロトップだけに焦点を当てる。

ゼロトップを使うなら、その選手は中盤に降りてくる。アザールであれば左のハーフスペースを、アセンシオであれば右のハーフスペースを取るというのは有効だ。

現在のマドリーであれば、ゼロトップが空けたスペースに、ウィングが走り込むというのは十分に可能だ。

前述のように、ヴィニシウスのフリーランは改善された。また、ロドリゴは以前から、右サイドから斜めに走ってくる動きを実践していた。

そして、マドリーであれば、その空けたスペースにサイドバック(例えばメンディ)が飛び込んでくるというのも、アリだ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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