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レアルが圧倒的な強さを示している理由。マルセロのラストダンスと「調停屋」アンチェロッティの手腕。

森田泰史スポーツライター
ヴィニシウスとベンゼマ(写真:ロイター/アフロ)

2度、3度と指揮官が宙を舞った。

レアル・マドリーが、2021−22シーズンのリーガエスパニョーラで優勝を決めた。第34節でエスパニョールを下して、本拠地サンティアゴ・ベルナベウでタイトルを獲得すると、選手たちはカルロ・アンチェロッティ監督を胴上げした。

■主将のラストダンス

エスパニョール戦で、ロドリゴ・ゴエスの先制点をアシストしたのはマルセロだった。チームメートがロドリゴに駆け寄る中、ルカ・モドリッチは数人のDFの間を抜く技ありのパスを出したマルセロのもとに近づき、抱擁を交わした。

マルセロにとって、特別なシーズンだった。今季終了時に、マドリーとの契約が満了する。“ラストダンス”の一年で、マドリーで24個目のタイトルを獲得。クラブ史上最多タイトル保持者となっている。

マドリーは今夏、セルヒオ・ラモスがパリ・サンジェルマンに移籍した。絶対的な主将がクラブを去り、キャプテンマークがマルセロに渡された。「世界最高のチームで、長い間プレーしてきた。ホームでサポーターと優勝の瞬間を迎えられるのは、選手として最大の喜びだ」とはマルセロの言葉だ。

喜びを爆発させるマルセロ
喜びを爆発させるマルセロ写真:ロイター/アフロ

マルセロは2006−07シーズン途中にマドリーに加入した。ラモン・カルデロン当時会長に「ロベルト・カルロスの後継者になる」と目され、18歳で欧州初挑戦を決めた。

そう、マルセロはフロレンティーノ・ペレス会長が獲得したプレーヤーではない。現在のメンバーの中では、唯一、ペレス会長が獲得していない選手だ。

だがマルセロはレギュラーを張り続けた。2015−16シーズン、16−17シーズン、17−18シーズンとチャンピオンズリーグ3連覇を成し遂げたジダン・マドリーにおいて、マルセロ、ラモス、ラファエル・ヴァラン、ダニ・カルバハルのディフェンスラインは盤石だった。

2018−19シーズン、マルセロはセルヒオ・レギロンの台頭でポジションを失い始めた。2019年夏にフェルラン・メンディが加入すると、定位置を完全に失った。

それでも、出場機会を得れば、持ち前の技術と得意の左足でチャンスを演出してみせた。リーガ優勝を決める決定的なアシストが彼の足から生まれたのは偶然ではなかった。

■ポテンシャルを引き出すアンチェロッティ

そのマルセロを、うまく起用したのがアンチェロッティ監督である。

マルセロだけではない。ロドリゴ、フェデリコ・バルベルデ、マルコ・アセンシオ、エドゥアルド・カマヴィンガ、ダニ・セバージョス、ルーカス・バスケス、ナチョ・フェルナンデスらを巧みに使い分け、チームに一本の軸を通した。

何より、ビッグクラブの何たるかを理解している。それがアンチェロッティ監督である。優勝直後、「ポテンシャルを秘めたスカッドをコントロールするという意味では、アンチェロッティがベストだ」とペレス会長に言わしめた。

シルヴィオ・ベルルスコーニ(ミラン)、ロマン・アブラモビッチ(チェルシー)、ウリ・へーネス(バイエルン・ミュンヘン)、ナセル・アル・ケライフィ(パリ・サンジェルマン)、そしてペレスと個性が強い会長たちと仕事をしてきた。そのなかで、欧州5大リーグすべてで優勝を飾った初めての指揮官になった。

アンチェロッティ監督の胴上げ
アンチェロッティ監督の胴上げ写真:ロイター/アフロ

ベルナベウでのセレブレーション。優勝回数を示す「35」のTシャツを身に着け終える前に、エデル・ミリトンにかつがれ、アンチェロッティ監督は胴上げされた。「マルセロに『もう一回!』と叫んでいた」とは指揮官の弁だ。

Planificador(プラニフィカドール/調停屋)とアンチェロッティ監督は称されてきた。“イケオジ感”を漂わせる指揮官の下、いつになく平和的で団結したチームが、そこにはあった。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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