Yahoo!ニュース

シャビがバルサを「再建」するための条件。求められるウィング像と中盤の支配者。

森田泰史スポーツライター
バルサの監督に就任するシャビ(写真:ロイター/アフロ)

バルセロナに、シャビ・エルナンデス監督が到着した。

バルセロナは今季、不振に喘いでいる。リーガエスパニョーラで1試合未消化ながら9位に位置。チャンピオンズリーグでは、グループ突破を懸けてベンフィカと2位の座を争っている状況だ。

そんな中、ジョアン・ラポルタ会長はロナルド・クーマン監督の解任を決断した。思えば、2人の関係は最初から良いものではなかった。クーマンを呼んだのはジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長で、ラポルタ会長ではない。最終的には成績不振を理由に両者は袂を分かつことになった。

セルタ戦で引き分けたバルセロナ
セルタ戦で引き分けたバルセロナ写真:ロイター/アフロ

「バルサは世界最高のクラブだ。世界最高のクラブというのは、勝利しなければいけない。引き分けや敗戦は許されない。選手たちが満足感を得られるように努力したい。目標は勝利であり、そのためにハードワークをしなければいけない」

「まずは選手たちと話す必要がある。いまはクラブ史上で最高の時期ではないだろう。僕もバルサで悪い時期を経験した。それでも、僕は選手たちに自分の考えを伝えたい。大事なのは、チームとして働くことだ」

指揮官就任が決定して、第一声としてシャビはそのようにコメントしている。

そもそも、シャビはバルセロナでゼロからプロジェクトをスタートさせたいと考えていた。だが、いまはシーズンの半ばだ。彼が描いていた理想の形はすでに崩れている。

シャビがバルセロナを再建すると信じたい。その気持ちは理解できる。無論、そこには浪漫(ロマン)を感じる。しかし、どういった条件が整えば、それが可能になるのかという話だ。

■中盤の支配者

シャビは11歳でバルセロナのカンテラに入団。18歳でトップデビューを飾り、34歳までプレーした。767試合に出場して、合計で25個のタイトルを獲得している。

生粋のカンテラーノで、バルセロニスタ。それがシャビ・エルナンデスという男だ。だが、そんなシャビでさえ、厳しい経験をしている。デビュー当初はペップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)との比較に苦しんだ。「ペップからは気にするなと言われていた。だけど、彼の横で成長していくにあたり、常にプレッシャーが付きまとった。もちろん、それは彼の責任ではない。彼はいつも僕によくしてくれていた」とシャビが当時を回想している。

バルセロナBの登録選手だった頃には、ミランから破格のオファーが届いた。シャビの心は揺らいだ。だが、彼の母親であるマリア・メルセがそれを阻止した。

現役時代のシャビ
現役時代のシャビ写真:なかしまだいすけ/アフロ

現役時代のシャビは、「中盤の支配者」だった。

グアルディオラ政権時(2008年―2012年)の黄金期においては、シャビ、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツが盤石の中盤を築いた。この3選手が試合を「創造」して、リオネル・メッシが「仕上げる」というのは、バルセロナの典型的な勝ちパターンだった。

シャビとグアルディオラに関しては、今後も比較が続けられるだろう。監督としても比べられてしまう流れは不可避だ。

ただ、現役時代のグアルディオラは、バルセロナの「4番」を務める選手だった。アンカーに位置して、中盤の底から攻守において貢献していた。彼自身は細身で、フィジカルが強い選手ではなかった。しかし、だからこそ年齢やキャリアを問わずにピッチ内でゲキを飛ばし、コーチングで味方を動かして守備を行い、長短のパスを使い分けてゲームをコントロールした。

一方、シャビは「8番」の選手だった。【4−3−3】のインサイドハーフに位置して、試合をオーガナイズした。彼には「羅針盤」の役割が与えられ、チームの攻撃の方向付けが求められた。最後はメッシにパスが渡るのだが、そこまでの道筋をつけるのがシャビの役目だった。

■ヤングプレーヤーの進化

そのシャビが、指揮を執る。そこで期待されるのは、バルセロナの中盤の選手たちの成長だ。

ペドリ・ゴンサレス、ガビ、ニコ・ゴンサレス、フレンキー・デ・ヨング…。そういった選手を育て、進化させる。とりわけ、ペドリやガビに関しては、まだまだ伸びしろがあるように見える。グアルディオラの指導でシャビとイニエスタがワールドクラスの選手になったように、ペドリとガビがもう一段階あるいは二段階ギアを上げられれば、非常に楽しみな存在になる。

ただし、忘れてはならないのは、シャビとイニエスタが大きく伸びた背景には、グアルディオラの緻密な計算があったという点だ。メッシのファルソ・ヌエべ(偽背番号9/ゼロトップ)という戦術を発明して、プレーモデルを決め、各選手に明確な役割を与えた。それを現在に照らし合わせるなら、シャビには全体像の描写と攻守におけるメカニズム整理が求められることになる。

もうひとつ、重要になるのが、ウィングの使い方である。ペップ・バルサでは、メッシをCFに配置して、その代わりにウィングのペドロ・ロドリゲスやダビド・ビジャがディアゴナルランで中央に走り込んでくるのが形式化されていた。

ウィングについては、シャビにも拘りがある。彼は以前、あるインタビューで興味深い発言を残している。「(自分がバルサの監督だったら)ネイマールのようなウィングを獲得する。ピッチ外のところで彼が受け入れられるかどうかは分からないけれど、ピッチ内だけを考えれば素晴らしい補強になるはずだ。現在のバルサで、インサイドでのプレーというのはできている。でも、バイエルンにいるようなウィングの選手が欠けている。そんなに多くの新戦力が必要なわけではい。例えば、(セルジ・)ニャブリ、(ジェイドン・)サンチョのような選手だ」と語っていた。

得点を喜ぶペドロ、メッシ、ビジャ、イニエスタ
得点を喜ぶペドロ、メッシ、ビジャ、イニエスタ写真:ロイター/アフロ

バルセロナで成功した監督というのは、奇しくも、元選手で、なおかつBチームを率いた経験があった。グアルディオラ、ルイス・エンリケ(現スペイン代表監督)がそうだった。その観点で言えば、シャビはBチームで監督を務めていない。ただ、2年半余りのアル・サッドでの指導経験がある。

冬の移籍市場でバルセロナが3選手の獲得に動くという報道がすでに出ている。しかしながらバルセロナの財政は依然として厳しい。それでも、シャビの要望を叶えるため、クラブは全力で動くべきだ。そして、何より、結果が出ない時期も我慢してシャビを指揮官ポストに置き続ける必要がある。再建への道のりは決して平坦ではない。忍耐、徹底的なサポート、信念。シャビと心中するくらいの覚悟が、バルセロニスタには求められている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事