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なぜレアルやバルサは移籍市場で苦戦したのか?シティ、チェルシー、ユナイテッド...圧倒的な資金力の差

森田泰史スポーツライター
競り合うヴェルナーとモドリッチ(写真:ロイター/アフロ)

資金力の差は、明らかだ。

2021年夏の移籍市場が8月31日に閉幕した。ラ・リーガ1部の20クラブが補強に投じた合計額は2億9300万ユーロ(約381億円)だった。リオネル・メッシやセルヒオ・ラモスが去り、ラ・リーガ勢としては厳しい夏になった。

メッシの新天地はパリに
メッシの新天地はパリに写真:ロイター/アフロ

「パンデミックによる経済的な打撃があった。そのため、ヨーロッパの大半のクラブは選手の獲得より売却を必要としていた。ここ2シーズンの損失を補うためだ。スペインのフットボール界に関していえば、本来であれば資金的なポテンシャルがあるクラブ、それはテレビ放映権だけに頼らないクラブということだが、そういったところまで資金不足に陥っていた」

これはフリオ・セン氏の言葉だ。彼はかつてレアル・マドリーでゼネラルディレクターを務めていたことがある。マーケットを客観的に分析して、ラ・リーガが苦しい状況にあったと指摘している。

■コロナ禍の財政

とりわけ、コロナ禍で苦しんできたのが、バルセロナとレアル・マドリーだ。

メッシのバルセロナ退団は衝撃の一報として届けられた。だがそれだけで問題は解決しなかった。

ジェラール・ピケ、セルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバといった選手が減俸を余儀なくされ、移籍市場が閉まる直前にアントワーヌ・グリーズマンのレンタルでのアトレティコ ・マドリー復帰が決まった。

セルヒオ・ラモスとヴァランを放出したレアル・マドリー
セルヒオ・ラモスとヴァランを放出したレアル・マドリー写真:ロイター/アフロ

マドリーは、「入口より出口」を優先する方策を採った。つまり、選手を獲るより、売ることが先決だった。

近年、若手選手を中心にレンタル移籍を活用して成長を促すポリシーを貫いてきたフロレンティーノ・ペレス会長であるが、この夏においては売却にプライオリティを置いた。マルティン・ウーデゴールを移籍金3500万ユーロ(約38億円)でアーセナルに売却したのは、顕著な例だ。

ウーデゴール、そしてラファエル・ヴァランのマンチェスター・ユナイテッドへの売却(移籍金4000万ユーロ/約52億円)で、帳尻を合わせた。ただ、マドリーが本当に売却したかったのは、イスコ、マルセロ、ダニ・セバージョス、マリアーノ・ディアス、ルカ・ヨヴィッチといった選手だったはずだ。

マーケットの最終日には、グリーズマンがアトレティコに、サウール・ニゲスがチェルシーに、ルーク・デ・ヨングがバルセロナに、それぞれレンタルで移籍した。正直、奇妙なオペレーションであった。本当なら、レギュラー級の選手を、優勝を争う直接的なライバルに渡すというのは避けたいところだ。昨季、ルイス・スアレスが加入したアトレティコがラ・リーガを制したのは記憶に新しい。しかし、それが不可避なほどに一部のクラブの財政は圧迫されていた。

「この数年の違いとして、マーケットの最後の15日の間に、およそ9割の移籍が実現した。それはラ・リーガとCVCファンドの合意に依るところが大きい。ただ、スペインのフットボールは経済的な意味合いで、ヨーロッパで力を失っている。それを認めるのは心苦しいがね」とはセン氏の弁だ。

■プレミアリーグと資金力

一方で、プレミアリーグでは、およそ13億5100万ユーロ(約1756億円)が補強に投じられた。

シティは移籍金1億1750万ユーロ(約153億円)でジャック・グリーリッシュを、チェルシーは移籍金1億1500万ユーロ(約149億円)でロメル・ルカクを、ユナイテッドは移籍金8500万ユーロ(約110億円)でジェイドン・サンチョを獲得している。

ビッグディールが成り立ったのには、理由がある。チェルシー(ロマン・アブラモビッチ)、マンチェスター・シティ(シェイク・マンスール)、マンチェスター ・ユナイテッド(ジョエル・グレーザー)と外国人オーナーの影響は当然ながら大きい。

スペインの場合、バルセロナやマドリーはソシオ(会員制)のクラブ。大株主からの“ポケットマネー”でクラブの財政を潤わせるというのは不可能だ。

グリーリッシュとグアルディオラ監督
グリーリッシュとグアルディオラ監督写真:ロイター/アフロ

才能は、お金があるところに集まる。これはある種の真理である。

プレミアの今夏の補強費はラ・リーガの約5倍だった。巻き返しを図るためには、何かを変えなければいけない。ラ・リーガは岐路に立たされている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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