勢いは、止まらない。

昨季、チャンピオンズリーグで優勝を飾ったチェルシーだが、今季もタイトルを獲得するべく積極的に動いている。移籍金1億1500万ユーロ(約149億円)でのロメル・ルカク獲得には、誰もが驚かされた。

競り合うルカクとファン・ダイク
競り合うルカクとファン・ダイク写真:ロイター/アフロ

「我々はルカクと(アーリング・)ハーランドの2人の獲得を目論んでいた。そして、10番として(ロベルト・)レヴァンドフスキを据えるつもりだったんだ…。しかし、クラブはそれを重要視してくれなかった。我々はルカクの復帰に満足しなければいけないね」と冗談まじりに語ったのはトーマス・トゥヘル監督である。

「スピード、ポテンシャル、パーソナリティ、すべての面でエクセレントな補強だ。ルカクのフィジカルはチームの助けになる。経験があり、強い個性を備えている。そして、彼は真のチームプレーヤーだ。そこがチェルシーとしては大事だった。だから彼を獲得するために、タフに戦う価値があると感じていた」

■チェルシーの過去とルカクのキャリア

ケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)、モハメド・サラー(リヴァプール)、フアン・クアドラード(ユヴェントス)…。チェルシーには、才能溢れた選手たちを手放してきた過去がある。ルカクも、その一人だった。

ルカクは2011年にアンデルレヒトからチェルシーに移籍。だが出場機会に恵まれず、ウェスト・ブロムウィッチ、エヴァートンへのレンタル移籍を経て、2014年夏に移籍金3500万ユーロ(約45億円)でエヴァートンに完全移籍。2017年夏に移籍金8470万ユーロ(約101億円)でマンチェスター・ユナイテッドに移籍した後、2019年夏に移籍金7400万ユーロ(約96億円)でインテルに加入した。

インテルでは、ラウタロ・マルティネスと2トップを組んだ。補完関係にある2選手をストップするのは難しく、アントニオ・コンテ監督の下で貴重な戦力になった。2019−20シーズン(セリエA36試合23得点)、2020−21シーズン(36試合24得点)と得点源となり、20−21シーズンにはスクデット獲得に大きく貢献した。

インテル時代のルカク
インテル時代のルカク写真:ロイター/アフロ

真のチームプレーヤー。それがトゥヘル監督のルカク評である。

「ルカクがDFを背負っていると、相手は何もできずにずるずると後退していった。彼を止められなかったんだ。その時、ルカクはまだ16歳だった!」と明かすのはアンデルレヒトでチームメートだったニコラス・フルートスだ。

「練習が終わると、いつもボールと一緒に僕の隣に座って、フットボールの話をしていた。彼からの質問は終わらなかったよ」

アルゼンチンのインディペンデンテでセルヒオ・アグエロ(バルセロナ)とチームメートだったフルートスだが、「ルカクとアグエロは異なっていた。だけど、2人ともモンスターだった」と述懐している。

■もう一人の刺客

また、移籍市場最終日にチェルシーに加入したのがサウール・ニゲスである。サウールのケースは、ルカクとは異なる。

サウールは、この夏の移籍を志願していた。その理由は、ディエゴ・シメオネ監督の起用法とサウールのポジションにある。

昨季から本格的に3バックシステムを採用したシメオネ監督にとって、サウールをどのように当て嵌めるかは悩みの種であった。アンカーの位置にコケを据えてチーム状態が良くなり、サウールにはWBやインサイドハーフのポジションが与えられるようになった。

今夏、ウディネーゼから移籍金3500万ユーロ(約45億円)でロドリゴ・デ・パウルを獲得すると、サウールの立ち位置はさらに厳しくなった。リーガエスパニョーラ第3節ビジャレアル戦前にシメオネ監督が「ウィングバックにはジョレンテ、カラスコ、サウールのいずれかを配置する」と語っていたように、WB起用が基本路線になろうとしていた。

だがサウールはアトレティコのカンテラーノ(下部組織出身選手)である。クラブとしては、簡単に彼を放出したくなかった。そのため、1億5000万ユーロ(約194億円)という契約解除金が彼には設定されていた。リュカ・エルナンデス(バイエルン)やトーマス・パーティ(アーセナル)のようにバイアウトで持っていかれるというのを避ける目的だった。

チェルシー対戦時のサウール
チェルシー対戦時のサウール写真:ロイター/アフロ

リヴァプール、マンチェスター・ユナイテッド、バイエルン・ミュンヘン…。複数クラブが移籍先候補として挙げられていたが、最終的にはチェルシーがサウールを確保した。レンタル料500万ユーロ(約6億円)を支払う契約で、チェルシー側に4500万ユーロ(約58億円)の買い取りオプションが付けられている。

サウールは“ボックス・トゥ・ボックス”の選手だ。ゆえに、以前からプレミアリーグのクラブに関心を寄せられていた。【3−2−4−1】のシステムでチャンピオンズリーグ制覇まで駆け抜けたトーマス・トゥヘル監督だが、【3−1−4−2】を含めた柔軟な布陣変更を検討している可能性があり、そのためにサウールを獲得した。

柔軟性― ―。フレキシブルに戦うために、ポリバレントなサウールが必要だった。前線にはルカクがどっしりと構え、中盤とサイドの選手の特徴を引き出す。2度目のビッグイヤー獲得に向けて、トゥヘル・チェルシーの準備が整えられた。