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EURO2020に見る、「ゼロトップ」の後退とCFの新たな価値創造。

森田泰史スポーツライター
イングランド代表のケイン(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ここまで面白い大会になるとは、正直、想像していなかった。

EURO2020が白熱している。準決勝に勝ち残ったのは、スペイン、イタリア、デンマーク、イングランドの4チームだ。

2018年のロシア・ワールドカップの覇者であるフランス、準優勝のクロアチア、EURO2016を制したポルトガル、2014年のブラジル・ワールドカップで優勝したドイツ...。強豪国が、軒並み敗退に追い込まれている。

■EURO2000の記憶

少し時を遡る。およそ21年前ー新型コロナウィルスの襲来がなければ本来行われるはずだった2020年大会の20年前ーEURO2000がベルギーとオランダの共同開催で行われた。EUROでは、初めての2ヶ国同時開催だった。

ユーリ・ジョルカエフ(フランス)、ティエリ・アンリ(フランス)、ダビド・トレゼゲ(フランス)、パトリック・クライファート(オランダ)、サボ・ミロセビッチ(旧ユーゴスラビア)、ヌーノ・ゴメス(ポルトガル)...。その大会においては、「9番」タイプの選手が大いに活躍した。

EURO2000のジダン
EURO2000のジダン写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ

EURO2020ではハリー・ケイン(イングランド)、アルバロ・モラタ(スペイン)、チーロ・インモービレ(イタリア)、カスパー・ドルベリ(デンマーク)が上位進出チームのストライカーだ。

奇しくも、彼らは3トップのチームでCFを務めている。イングランドに関しては、【4-2-3-1】を基本布陣としているが、ドイツ戦で【3-4-3】を使用するなど柔軟な戦い方をしてきている。いずれにせよ、サイドアタッカーがケインを手厚くサポートしている。

スペインは典型的な【4-3-3】だ。その中でモラタは中央にどしんと構え、虎視眈々とチャンスを狙う。サイドに流れて起点になったり、ゲームメイクをしようとはしない。右ウィングのフェラン・トーレス、左ウィングのパブロ・サラビアからのクロスに飛び込み、果敢にゴールを狙う。ただ、それだけではなく、ポストプレーと前線からのプレスで積極的にチームに貢献している。

今回のEUROで、最も魅力的なフットボールを展開しているのがイタリアだろう。イタリアも【4-3-3】で、ロレンツォ・インシーニェ、フェデリコ・キエーザ、ドメニコ・ベラルディといった突破型のウィンガーを揃えている。

加えて、左サイドバックのレオナルド・スピナッツォーラが非常に高い位置を取る。負傷離脱するまでのスピナッツォーラのイタリアでの役割は特徴的だった。オーバーラップとインナーラップでイタリアの攻撃を活性化させ、「偽ウィング」として躍動した。それはさながら、バルセロナの全盛期のダニ・アウベスのようであった。

また、デンマークは興味深い。ストライカータイプのマルティン・ブライスワイトを右WGに保ちつつ、ドルベリをCFに据えた。クリスティアン・エリクセンを不運な形で失い、ユスフ・ポールセンが負傷離脱を強いられ、その状況での苦肉の策だった。

しかし、それが嵌まった。禍転じて、福と為す。デムス・ゴーという勢いのあるドリブラーと、ブライスワイトというインテリジェントなFWを両サイドに抱え、ドルベリは「点を取る」という作業に集中できている。

ゴールを決めるドルベリ
ゴールを決めるドルベリ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

一方で、ポルトガルやフランスは、苦戦した。

ポルトガルはクリスティアーノ・ロナウドを攻撃の中心に据えた。1トップにC・ロナウドを置き、彼の守備負担を軽減。これはバルセロナでリオネル・メッシに、パリ・サンジェルマンでネイマールに与えられている”特権”である。

ただ、ポルトガルは守備から攻撃へのトランジションで強みを生かせなかった。C・ロナウドに以前のような爆発的なスピードはなく、また奪ってからのスペース・アタックの巧緻さと攻撃の連動性を欠いた。

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■フランスとベンゼマ招集の是非

フランスはカリム・ベンゼマの招集が話題を呼んだが、最後まで彼をフィットさせられなかった。

ベンゼマは「9.5番」の選手だ。現在のフランスでいえば、「10番」はアントワーヌ・グリーズマンであり、「9番」はキリアン・エンバペになる。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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