Yahoo!ニュース

なぜバルサは大敗したのか?ネイマール不在のパリSGで「爆発」したムバッペというスピードスター。

森田泰史スポーツライター
競り合うピケとムバッペ(写真:ロイター/アフロ)

バルセロナに、現実が突き付けられた。

今季、チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でバルセロナとパリ・サンジェルマンが激突している。ファーストレグは4-1でパリSGに軍配が上がった。

16-17シーズンにバルサが奇跡の逆転勝ち
16-17シーズンにバルサが奇跡の逆転勝ち写真:ロイター/アフロ

思えば、因縁の2クラブである。

2016-17シーズン、歓喜に酔っていたのはバルセロナだった。決勝トーナメント1回戦でパリSGと対戦したバルセロナだが、ファーストレグを0-4で落とした。「奇跡」が必要となったところで、本当にそれを起こした。本拠地カンプ・ノウでのセカンドレグを6-1で制してラウンド突破を決めたのだ。

しかし、そのシーズン終了後に衝撃的な移籍が成立するーー。主役はネイマールだ。当時、バルセロナとの契約下にあったネイマールの契約解除金は2億2200万ユーロ(約267億円)だった。「200%残留する」というバルセロナ幹部の言葉も虚しくネイマールは花の都に去っていった。

バルサで「MSN」と呼ばれた3トップ
バルサで「MSN」と呼ばれた3トップ写真:ムツ・カワモリ/アフロ

そのネイマールは、負傷でファーストレグを欠場した。

試合前、バルセロナのロナルド・クーマン監督は「ネイマールや(アンヘル・)ディ・マリアのような選手がいなければ、どのようなチームであれ影響は受ける。ただ、我々にも欠場する選手がいる。アンス・ファティ、セルジ・ロベルト、(ロナウド・)アラウホ...。そういった問題を解決していかなければいけない」と語っていた。

「パリ・サンジェルマンはチャンピオンズリーグで優勝する可能性があるチームだ。歴史あるクラブで、敬意に値する。彼らはボールを保持して試合をコントロールしようとするだろう。我々もまた、ポゼッションを目指すチームだ。ただ、結果は2試合のトータルスコアで決まる」

激しかった中盤の攻防
激しかった中盤の攻防写真:ロイター/アフロ

前兆はあった。キックオフ前のコイントスで勝ったのはマルキーニョスだった。67日ぶりに公式戦のピッチに立って熱心に指示を送るジェラール・ピケに、真剣な表情を見せるメッシ。一方で、不敵な笑みを浮かべていたのがキリアン・ムバッペだ。

昨年12月にチャンピオンズリーグ通算20得点を記録したムバッペは21歳354日だった。メッシ(22歳267日)を抜いて新たな記録を打ち立てた。2018年のロシア・ワールドカップ決勝トーナメント1回戦では、メッシの眼前で強烈なスピードで駆け抜けてゴールに貢献するインパクトを残していた。

そのスピードスターはバルセロナを蹂躙する。セルジーニョ・デストとの1対1は明らかにミスマッチだった。加えて右ウィングにウスマン・デンベレという守備が不得手な選手を配置したクーマン監督をよそに、パリSGはムバッペにボールを集めた。

パレーデスに指示を送るポチェッティーノ監督
パレーデスに指示を送るポチェッティーノ監督写真:ロイター/アフロ

また目を引いたのは中盤の攻防だ。マルコ・ヴェッラッティ、レアンドロ・パレーデス、ガナ・ゲイェが中盤に入ったパリSGだが、ポイントはヴェッラッティとセルヒオ・ブスケッツのマッチアップだった。

バルセロナはヴェッラッティを消耗させたかった。プレスを掛けさせ、走らせたい。そして、敵陣に入った場面ではインサイドハーフが2列目から飛び出してチャンスを作りたい。それがバルセロナの思惑だった。先制点のシーンではその飛び出しからフレンキー・デ・ヨングがレヴィン・クルザワに倒されPKを獲得。メッシが決めてリードを奪い、目的が具体化した。

だが当然ながらパリSGにも狙いはあった。サイドチェンジと相手のSBの裏を突く攻撃だ。同点弾と逆転ゴールはその形から生まれている。とりわけ同点のシーンでは、マルキーニョスのサイドチェンジでクルザワが左サイドのスペースに走り、中央で受けたヴェッラッティのワンタッチパスから最後はムバッペがフィニッシュした。揺さぶられたバルセロナとしては成す術がなかった。

「走らされているぞ!」とピケは前半にチームメートに檄を飛ばしていた。だが実際には、前半終了の段階ではポゼッション率(バルサ49%/PSG51%)、パス成功本数(260本/218本)、シュート数(7本/8本)、パス成功率(94%/89%)、総走行距離(49.9km/50.1km)とほとんど互角だった。

そしてマウリシオ・ポチェッティーノ監督の「修正力」を見逃してはならないだろう。ハーフタイム、イエローカードを1枚受けていたゲイェを下げてアンデル・エレーラを投入。守備とプレッシングを修正した。ブスケッツにプレスを掛けて走らせされていたヴェッラッティのポジションを1列下げ、その代わりにパレーデスをブススケッツにぶつけた。さらに味方の中盤の2選手のポジションを見ながら立ち位置を決められるA・エレーラの投入でチーム全体のバランスが良くなった。

得点を喜ぶムバッペとヴェッラッティ
得点を喜ぶムバッペとヴェッラッティ写真:ロイター/アフロ

「批判されるのは構わない。すべてのフットボーラーが、そういう立場にある。だけど僕は常にパリ・サンジェルマンのために全力を尽くしてきた。このユニフォームは、僕にとって大きな意味がある。僕は誰かを黙らせるためではなく、自分の喜びのためにプレーしている。これから、悪い試合もあるかも知れない。でも僕はミスをした時でさえ、隠れるような真似はしない」とはハットトリックを達成したムバッペの言葉だ。

「継続の力だ。ポチェッティーノは就任してから素晴らしい仕事をしていると思う。だけど、トゥヘルのことを忘れてはいけない。僕たちは彼と共にチャンピオンズリーグで決勝まで勝ち進んだ。彼の仕事は継続されている」

前任のトーマス・トゥヘル監督(現チェルシー)を思い起こしたムバッペ。2019-20シーズン、バイエルン・ミュンヘンに敗れて準優勝に終わったパリSGに、油断はない。

一方で、バルセロナは「1-4のスコアは厳しい。私が間違っているかも知れない。だがオプションは非常に少ない」とクーマン監督が述べたように、崖っぷちに立たされた。“決戦”のセカンドレグはパリで行われる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事