バルサに欠けている「羅針盤」の存在。グアルディオラ政権のシャビへの郷愁。

シャビとメッシ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ネイマールやラウタロ・マルティネスの獲得を検討しているバルセロナだが、中盤の再構築を軽視してはいけない。近年、バルセロナは前線の補強に莫大な資金を投じてきた。ウスマン・デンベレに1億500万ユーロ、フィリペ・コウチーニョに1億2000万ユーロ、アントワーヌ・グリーズマンに1億2000万ユーロを費やした。ボーナスを除く獲得費は3億4500万ユーロだった。

それに加えて、ネイマールとラウタロの獲得する可能性がある。移籍金1億6400万ユーロといわれるネイマール、契約解除金1億1100万ユーロのラウタロ、彼らの移籍が実現した場合、その総額は6億2000万ユーロ(約713億円)に上る。

(表)

筆者作成
筆者作成

■栄華を極めたペップ・チーム

「ペップ・チーム」と称されるジョゼップ・グアルディオラ監督のバルセロナにおいては、セルヒオ・ブスケッツ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスが盤石の中盤を築いていた。

数多のタイトルを奪取したペップ・チームだが、なかでも2010-11シーズンのチャンピオンズリーグ制覇は大きな意味を持つものだった。2008-09シーズン以来のビッグイヤー獲得に向け、決勝で再びマンチェスター・ユナイテッドと対戦した。

ただ、両者の差は明らかだった。試合後、サー・アレックス・ファーガソン監督は嘆いている。

「問題はメッシではない。シャビとイニエスタだったんだ」

■クライフの薫陶/中盤の機能性

ヨハン・クライフの薫陶を受けたグアルディオラにとって、重要だったのはアンカーのポジションだ。自身が現役時代に務めた中盤の底、そこでは攻撃の起点となり、チームの舵取り役が任される。いわゆるバルセロナの「4番」のポジションで、ここに入る選手の出来で試合の勝敗が左右されてしまう。

その4番にブスケッツを抜擢したグアルディオラだが、希代の指揮官である彼は密かにアップデートを試みていた。シャビ、イニエスタというプレービジョンと創造性に長けた選手をインサイドハーフに配置してブスケッツを「包囲」したのだ。

シャビ、イニエスタ、ブスケッツの3選手は流動的にポジションを入れ替えながら、ポゼッションという快楽を享受した。それはアンカー×インサイドハーフ2選手の逆三角形、トリボーテ(3人のボランチ)を、トップ下+ダブルボランチと時と場合によって変形する、「阿吽の呼吸」から成り立つ究極の戦術に見えた。

■シャビ・エルナンデスという羅針盤

その中で、シャビの影響は大きかった。シャビはターンとスクリーンを巧みに使いながら、コンパスのようにチームを自在に操る。バルセロナは彼を中心に回っていた。

味方を操れる中盤の選手は、過去にもいた。だがフィールド上にいる敵・味方の22選手を操れるような選手は、シャビ以外に存在しない。ボールは常にシャビを経由する。チームの攻撃方向を定め、戦い方に軸を与える。まさに「羅針盤」だ。

無論、メッシの決定力なくして、ペップ・チームの成功はなかった。しかしながらペップ・チームの偉大さは記録と記憶の両面に残ったところにある。結果だけではなく、華麗なフットボールで彼らは観衆を魅了した。「美しく勝つ」というクライフの言葉を体現するようなチームにおいて、シャビが必要不可欠だったのは言うまでもない。

フットボールに民主制を与え、また、フットボールの純度を高めた。それがシャビの功績だろう。ネイマールやラウタロは素晴らしい選手であり、そこに疑いの余地はない。一方で、彼らのようなアタッカーを引き入れるというのは、「即効性」ばかりを求めているように映る。

シャビはバルセロナのカンテラーノだ。もちろん、彼は唯一無二の選手。シャビのクローンを作ろうとしても、仕方がない。だが近年のバルセロナのカンテラーノの流出を顧みると、クラブのストラクチャー(構造)に歪みが生じているのではないかという疑問が頭を擡げるのである。

東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。カンプ・ノウでメッシの5人抜きを目の当たりにして衝撃を受ける。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。過去・現在の投稿媒体は『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』等。『Foot! MARTES』出演。

有料ニュースの定期購読

誰かに話したくなるサッカー戦術分析サンプル記事
月額550円(初月無料)
月3回程度
リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

あわせて読みたい

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

Yahoo! JAPAN 特設ページ

  1. 1
    ダントツのシーズン防御率。「2位とほぼ1点差」の投手や「リーグで1人だけ防御率X点台」宇根夏樹6/1(月) 7:00
  2. 2
    落合博満のホームラン論その1「全打席でバックスクリーンだけを狙っていた」横尾弘一6/1(月) 12:00
  3. 3
    WBSS準優勝者が語るファイトマネーとの付き合い方「破産するボクサーにはならない」杉浦大介6/1(月) 9:00
  4. 4
    NBA3連覇を成し遂げたFWが語る「声なき黒人の死」林壮一6/1(月) 0:01
  5. 5
    四国からなでしこリーグ1部初参戦!「ボールを大切にする」サッカーで、“愛媛旋風”は巻き起こるか?松原渓6/1(月) 8:00
  6. 6
    ロナウド超えの移籍金で“損切り”…インテル、愛憎劇の末のイカルディ放出に「安堵のため息」中村大晃6/1(月) 17:33
  7. 7
    30球団で唯一ノーヒッター達成が一度もないのは◆兄弟最多勝の更新…【6月1日のMLB】宇根夏樹6/1(月) 6:30
  8. 8
    白人警官に殺された黒人ラッパーの親友、元NBA王者のスティーブン・ジャクソンが人種差別撤廃を訴える三尾圭5/29(金) 15:16
  9. 9
    「くノ一スタイル」が今年もなでしこリーグを盛り上げる。自粛下も“走力維持”でスタートダッシュを目指す松原渓5/31(日) 8:00
  10. 10
    日本バドミントン、ガイドライン策定で再始動へ 代表は19日から合宿平野貴也6/1(月) 7:00