レアル・マドリーの1012日間に及んだ王朝が崩壊。ペレスの誤算と、劇薬モウリーニョ。
築かれた王朝は、あっけなく崩壊の瞬間を迎えた。
2016年5月28日。チャンピオンズリーグ決勝で、マドリーはアトレティコ・マドリーを破り、ビッグイヤーを掲げた。
それからチャンピオンズリーグで前人未到の3連覇を達成したレアル・マドリーだが、今大会では決勝トーナメント一回戦でアヤックスに敗れ、姿を消した。彼らは1012日間欧州王者であり続けた。
敗退が決まった直後、フロレンティーノ・ペレス会長とセルヒオ・ラモスはロッカールームで口論に及んだといわれている。選手たちのプロ精神の欠如を嘆いたペレス会長に対して、S・ラモスは補強の失敗を主張した。クリスティアーノ・ロナウドが残した穴はまったく埋まっていなかった。
■補強の是非
ペレス会長は今季開幕前にC・ロナウドの放出を決断した。ユヴェントスが移籍金1億ユーロ(約125億円)前後を支払ったとされているが、マドリーは彼の代役を獲得する動きを見せなかった。
第二次ペレス政権の大型補強は、2014年に実質上終わりを告げている。その背景には、ジョゼ・モウリーニョ監督が2013年夏にクラブを去ったという事実がある。モウリーニョは就任二年目を前にホルヘ・バルダーノ当時ゼネラルディレクターを辞職に追いやり、補強の実権を握っていた。
そのモウリーニョがいなくなり、ペレス会長は若手選手獲得とカンテラーノの登用へと方針を切り替えていった。最後の大型補強は移籍金7500万ユーロ(約93億円)を準備した2014年夏のハメス・ロドリゲス獲得である。
「第一次ペレス政権」では2000年から4年の間に2億1500万ユーロ(約264億円)が費やされた。それは「銀河系軍団」を作るためだった。
対して、ペレス会長はこの6年間で23歳以下の選手を16名獲得している。費やした資金は、2億7000万ユーロ(約332億円)だ。若手優遇プロジェクトが推し進められていた。
■安定性は
マドリーがチャンピオンズリーグのベスト16で敗退するのは、実に9年ぶりだ。
また、この10年間で、マドリーがリーガエスパニョーラを制したのは2度だけだ。その間、バルセロナが7度優勝を達成している。安定性が求められるのはリーグ戦だ。しかし、マドリーにとって、安定性の獲得という課題は未解決のままだった。
カルロ・アンチェロッティ監督は「BBC」を看板3トップとして掲げ、デシマ(クラブ史上10度目のCL制覇)を達成した。ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いるバイエルン・ミュンヘンを、鮮やかなカウンターで撃破した試合は大きなインパクトを残した。
一方、ガレス・ベイルの負傷離脱を、ジネディーヌ・ジダン元監督は逆に利用した。イスコをトップ下に配置して4-4-2を形成。C・ロナウドは15得点を挙げて昨季のチャンピオンズリーグで得点王に輝いたが、決勝のリヴァプール戦ではノーゴールだった。それは戦術の勝利だったのだ。
指揮官のマネジメントは重要だ。だが適切な補強をなくして、タイトルを獲得するのは不可能。監督の力量と補強のバランスが安定性をもたらすのである。
■劇薬
現在のマドリーに必要なのは劇薬ーー。
ジョゼ・モウリーニョ、マッシミリアーノ・アッレグリ、マウリシオ・ポチェッティーノ、ユルゲン・クロップ、ジダン...。連日、多くの指揮官の名前がメディアで踊っている。
スペイン『マルカ』のアンケートによれば、マドリディスタが就任を望んでいるのはジダン(32%)、クロップ(32%)、モウリーニョ(18%)、ポチェッティーノ(15%)、アッレグリ(3%)という順だ。
アッレグリ監督はユヴェントスの、ポチェッティーノ監督はトッテナムの成績次第だろう。だが、モウリーニョが三番人気というのは驚きの結果である。
新指揮官招聘に向けて肝心なのはタイミングだ。ただ、ペレス会長は昨年夏にロシア・ワールドカップ開幕直前でフレン・ロペテギ前監督の就任を発表した過去がある。己とクラブの利のためには犠牲を厭わない。
モウリーニョに、かつてのような求心力はない。シーズン終了まで待機して、アッレグリ監督やポチェッティーノ監督の就任に向けて働きかけた方が懸命だろう。だが、ペレス会長ならーー。劇薬を投入する可能性は捨てきれない。