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アンカーの影響力。チェルシーとアトレティコに見る、「ボール回収機」と「攻撃起点」の存在感。

森田泰史スポーツライター
ジョルジーニョはチェルシーの中心選手だ(写真:ロイター/アフロ)

現代フットボールにおいて、アンカーというポジションが重要な役割を果たしているのは、疑いの余地がない。

先のロシア・ワールドカップで、優勝したのはフランスだった。そのフランスには、エンゴロ・カンテという守備の職人がいた。

カンテだけではない。ベスト4に勝ち残ったチームにはジョーダン・ヘンダーソン(イングランド)、マルセロ・ブロゾビッチ(クロアチア)、アクセル・ヴィツェル(ベルギー)という選手がいた。

中盤の底に構え、チームに軸を通す。そういうプレーヤーが勝敗の鍵を握っていた

■アンカーの補強

今季開幕前、そのポジションを補強して、梃入れを試みたチームがある。その代表格は、アトレティコ・マドリーとチェルシーだろう。

アトレティコはロドリゴ・エルナンデス(ロドリ)、チェルシーはジョルジーニョを獲得した。だが、ディエゴ・シメオネ監督とマウリシオ・サッリ監督の狙いは180度異なるものである。守備型のシメオネと、攻撃型のサッリ。つまり、ロドリは「守」のアンカー、ジョルジーニョは「攻」のアンカーだと言える。

今季のアトレティコにおいては、「縦型ボランチ」の機能性が光っている。サウール・ニゲス、コケ、ロドリとセントラルMF型の3選手が並び、4-4-2から4-3-3への試合中の移行がスムーズになる。

例えば、サイドハーフに配置されたコケが、ファルソ・ピボーテ(偽ボランチ)としてプレーする。タッチライン際から中盤の低い位置に下がってきて、ディフェンスラインのビルドアップに参加するコケを、相手チームが捕まえるのは困難だ。これを可能にしているのは、ロドリの守備能力の高さである。

チェルシーでは、ジョルジーニョに攻撃の全権が託されている。サッリはレアル・マドリーでジネディーヌ・ジダン元監督の下、カセミロの代役として評価を高めたマテオ・コバチッチをジョルジーニョと一緒に獲得している。コバチッチとカンテが中盤を固め、ジョルジーニョに自由が与えられるのだ。

■中盤のボール奪取

リーガに関しては、セルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ)、ロドリ(アトレティコ・マドリー)、カセミロ(レアル・マドリー)、エベル・バネガ(セビージャ)と上位5チーム中4チームがアンカー型の選手を置いている。

また、攻撃フットボールを信奉するキケ・セティエン監督率いるベティスにおいても、中盤の底に据えられるウィリアン・カルバーリョが非常に効いている。

第22節終了時点、リーガのボール奪取数ランキングで1位に立つのは、バネガ(190回)である。

また、ロドリ(151回)はアトレティコの全選手の中で1位のボール奪取数を誇る。フィールドプレーヤーで見れば、W・カルバーリョ(125回)はチーム1位、カセミロ(116回)は2位、ブスケッツ(116回)は4位の数字を残している。

■防御武器

中盤のボール奪取をカウンターに繋げる。組織に保障を与え、攻撃への傾倒を可能にする。メインエンジンとして稼働する。アンカーの役割は多岐に渡る。そして、規律に忠実に動くその姿は番犬のようにさえ映る。

近年、トランジションとカウンターの重要性は非常に高まっている。アンカーの選手は相手の速攻の芽を摘み、なおかつサイドバックのオーバーラップを筆頭に味方の攻撃参加で空いたスペースを埋めなければならない。全域をカバーできる選手が求められる。

喩えるなら、彼らは綾堡(りょうほ)のようだ。綾堡とは、大砲を主要防御武器として設計した城を示す。攻撃の武器とみなされていた大砲が守備の武器となる。現在のアンカーの存在とは、そういうものだ。

常にカオスに襲われる可能性があるフットボールで、組織の戦術を整える。そんなタスクを全うする彼らの存在感は日を追うごとに増している。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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