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シャビとイニエスタ不在のバルサで心臓部を担う男。ルチョとチングリを心酔させた、ラキティッチのタフさ。

森田泰史スポーツライター
ラキティッチ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

シャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタ去りしバルセロナで、中盤の心臓部を担うのは容易ではない。

だが、滞りなくそのポジションを確保している選手がいる。イバン・ラキティッチだ。ルイス・エンリケ前監督、エルネスト・バルベルデ監督、2人の名将が彼に絶大な信頼を寄せてきた。

バルセロナがラキティッチの獲得に動いたのは、2014年夏だった。移籍金固定額1800万ユーロ(約23億円)でセビージャと合意に達した。主将として、セビージャのヨーロッパリーグ制覇に大きく貢献した選手を、ルチョ(ルイス・エンリケ前監督の愛称)が欲しがったのだ。

シャビが晩年を迎え、ルチョは悩みを抱えていた。長年バルサが続けてきたポゼッションフットボールに、+αをもたらすとすればーー。中盤にボックス・トゥ・ボックス型の選手を組み込んで、前線にリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの「MSN」を配して攻撃の全権を一任する。そこで選ばれたのが、ラキティッチだった。

■不動のポジション

かくして、2014-15シーズンに「MSN」を中心としたバルセロナはチャンピオンズリーグ、リーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイで優勝を果たして3冠を達成した。

だがビッグクラブでは競争が常である。決して同じところには留まれないアルダ・トゥラン、アンドレ・ゴメス、デニス・スアレス、パウリーニョ、フィリペ・コウチーニョ、アルトゥール・メロ、アルトゥーロ・ビダル。続々と選手が加入した。それでもラキティッチはレギュラーであり続けた。

バルセロナ加入後の4シーズン半で、ラキティッチが欠場したのは僅か28試合だ。その28試合の内訳はリーガ18試合、CL2試合、コパ8試合。試合出場率は89,4%である。

またラキティッチ(238試合)は、メッシ(232試合)、セルヒオ・ブスケッツ(223試合)、スアレス(219試合)、ジェラール・ピケ(203試合)、ジョルディ・アルバ(199試合)を上回り、最多試合出選手となっている。

■パリ・サンジェルマンの関心

ターニングポイントになり得たのは、今季開幕前だ。8月の半ばだった。あるクラブが、ラキティッチ獲得に関心を示した。パリ・サンジェルマンである。今夏、アドリアン・ラビオを狙っていたバルセロナだが、それにカウンターを喰らわせるように、パリSGがラキティッチに触手を伸ばした。バルセロナは昨夏、マルコ・ヴェッラッティを狙いながら、最終的にネイマールを攫われた経緯がある。今年も同じことが繰り返されるのか。バルセロニスタに嫌な予感が過ぎった。

2017年3月に契約延長を行ったラキティッチは、バルセロナと2021年までの契約を残し、契約解除金は1億2500万ユーロ(約161億円)に設定されていた。パリSGは、ラキティッチに年俸800万ユーロ(約10億円)を準備していたとされる。これはラキティッチがバルセロナで受け取っている額の、ほぼ倍額だったといわれている。

パリSGは、ラキティッチ獲得に際してバルセロナに移籍金9000万ユーロ(約116億円)を提示していたようだ。なお、パリSGが用意していた年俸は、バルセロナで言えば、メッシを筆頭とするトップクラスの数選手に次ぐセカンドクラスの年俸である。

30歳という年齢から顧みて、バルセロナはラキティッチの売却を真剣に検討していた。しかし、ラキティッチの希望はバルセロナ残留にあった。最終的には選手の意思が尊重され、取引は不成立に終わった。

■ポリバレント

攻守の切り替え時に中盤でファーストディフェンダーになる。率先してプレスを掛ける。昨季はラキティッチの労働により、ブスケッツのインターセプトの読みが鋭くなり、イニエスタは攻撃に比重を傾けられた。

イニエスタが抜けた今季は、4-3-3において「3人目のMF」が定まらないままだ。だがアンカーのブスケッツ、右インテリオールのラキティッチ、彼らの存在により、チングリ(バルベルデ監督の愛称)にはバリエーションが与えられている。

そして、ラキティッチはポリバレントな選手だ。右インテリオール、アンカーをそつなくこなす。リーガ第16節レバンテ戦の後半では、3バックの右CBでプレーした。トランジションとポゼッション。相反する2つのフットボール・スタイルで、活躍できる稀有な選手。それがラキティッチである。

ただ、ルチョとチングリを心酔させたのは、何より彼のタフさだ。自宅に小さなジムを拵えているというラキティッチは、たゆまぬ努力で、バルセロナでの地位を確固たるものにしたのだ。

先のロシア・ワールドカップでは、組織の歯車として回りながら、その組織を自動廻旋させられるような選手が輝きを放っていた。メッシのいるアルゼンチン、クリスティアーノ・ロナウドのいるポルトガル、ネイマールのいるブラジルが次々に姿を消す中、クロアチアが決勝まで勝ち残った。

そして、先日、バロンドール受賞者の発表で、ルカ・モドリッチに栄誉が授けられた。メッシークリスティアーノ時代に終止符を打つ、快挙だった。その陰に、ラキティッチの存在があったのは言うまでもない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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