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ロペテギの解任は救えず。スペイン代表の電撃監督交代から一転、わずか4カ月の短命政権に。

森田泰史スポーツライター
バルセロナ戦が最後の指揮となったロペテギ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

レアル・マドリーが、揺れている。

マドリーはフレン・ロペテギ監督の解任を決断した。リーガエスパニョーラ第10節でバルセロナに1-5と大敗したのが引き金となった。リーガでは5試合未勝利が続き、首位バルセロナに勝ち点7差をつけられて9位に沈んでいる。

後任に指名されたのは、レアル・マドリー・カスティージャ(Bチーム)を率いるサンティアゴ・ソラーリ監督だ。だがジネディーヌ・ジダン前監督のような昇任ではなく、あくまで「暫定」という形が採られている。

「レアル・マドリーのロペテギ監督」が誕生したのは6月12日だった。スペイン代表がロシア・ワールドカップを目前に控えた状況での就任発表。それはサッカー連盟会長を務めるルイス・ルビアレスの逆鱗に触れ、その翌日にロペテギは代表から追われる羽目になった。

■最悪の成績だが...

そういったリスクを冒しながら就いた要職において、ロペテギはわずか4カ月で指揮官ポストを「剥奪」されることになった。最たる理由は成績不振である。マヌエル・ペジェグリーニ(公式戦の勝率75%)、ジョゼ・モウリーニョ(72%)、カルロ・アンチェロッティ(75%)、ラファエル・ベニテス(68%)、ジダン(70%)、ロペテギ(42%)と、2009年以降にマドリーを率いた監督のなかでワーストの数字を残してしまった。

歴史を紐解いても、ロペテギを擁護するのは難しい。リーガ序盤10試合で、3敗以上を喫したのは3名のみ。ホセ・キランテ・ピネダ(1929-30シーズン)、リッポ・ヘルザ(1930-31シーズン)、マイケル・キーピング(1950-51シーズン)だけなのだ。さらに言えば、マドリーが大型補強に動き、世界中からスタープレーヤーを集めるようになってからは、これほど悪い結果を残した監督は存在しない。現に、フロレンティーノ・ペレス政権においては、ゼロである。

第一次・第二次ペレス政権で、12名の監督が指揮を執った。ロペテギは14試合で6勝2分け6敗(21得点20失点)と最悪の成績を残した。2004-05シーズン、ホセ・アントニオ・カマーチョが6試合を終えたところで、クラブから去った。その時の成績は4勝2敗。だがカマーチョは、解任ではなく、辞任という形だった。カマーチョの方がクラブに嫌気が差して辞めていった格好だ。

ただ、一方で、「フレンだけの責任ではない」(スペイン『マルカ』紙)という論調があったように、チームの低パフォーマンスをロペテギ監督のせいにして終わりにすることはできないだろう。ペレス会長たちがこの夏に正しく補強を行わなかったのは事実である。

ユヴェントスに移籍したクリスティアーノ・ロナウドが残した穴は、いまだ埋められていない。それどころか、埋められる目処さえ立っていない。年間50得点を保証するような選手が抜け、クラブはその代役を確保すべきだった。

今夏、マドリーはネイマールの獲得に失敗した。それに限らず、ハリー・ケイン、ロベルト・レヴァンドフスキ、エデン・アザール、トップクオリティを有するアタッカーを誰一人獲得できなかった。

期待されたガレス・ベイル、カリム・ベンゼマ、マルコ・アセンシオの「BBA」はいまもなお沈黙を続けている。絶対的なエースが不在となり、爆発の時を迎えると思われていたが、その瞬間は訪れていない。

■コンテという劇薬

現在、ペレス会長が狙っているのは、前チェルシー指揮官アントニオ・コンテだといわれている。

コンテ監督は今年7月にチェルシーとの契約を解除した。その経緯をめぐってチェルシーと対立しており、1000万ユーロ(約13億円)の支払いを要求しているという。また、ユヴェントスでは、プレシーズンを終えた後、セリエAの開幕を待たずしてクラブを離れた過去がある。彼は自分の色を打ち出すタイプの指揮官で、それゆえに度々クラブや選手たちと衝突してきた。

だが、それこそ、まさに、マドリーが求めているものだ。序盤のスタートダッシュに失敗したチームに、「劇薬」としてコンテを注入する。ある種の結果主義を内包した監督の勝者のメンタリティーをもってして、この苦境を脱しようとしているのだ。

無論、そこにはリスクが伴う。マドリーに在籍しているのは、チャンピオンズリーグ3連覇を成し遂げた選手たちだ。指揮官とウマが合わなければ、状況は悪化する可能性がある。その場合、マドリーはシーズン終了を待つことなく、2度目の監督交代(正確にはソラーリを挟んでいるため3度目だ)を行うためにコンテに別れを告げる覚悟だとされている。

コンテは旧知のメンバーをコーチングスタッフ入りさせる考えだ。だがマドリーには、フィジカルコーチのピントゥスをはじめ、ジダンの右腕としてタイトル獲得に貢献したスタッフがいる。マドリー側が簡単にコンテの要求を呑むとは思えない。そこでも齟齬が生まれているようで、そのためコンテの招聘が難航しているとみられている。

そして気になるのが、戦術だ。3-5-2を基本システムとする、コンテの戦い方が、現レアル・マドリーに合うかどうか。マドリーはジダンの下で4-4-2の練度を高めた。ロペテギはジダンの路線に続き、今季のマドリーのリーガにおける1試合平均ポゼッション率は68,4%と、ボールを保持するフットボールを継続してきたのである。

そうなると、コンテ就任による反作用は避けられないはずだ。勝てば英雄、負ければ罪人扱いーー。新たな監督に期待される任務は非常に厳しいものになるかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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